第三百十二話 港湾
子どもたち忘れられてました(笑)
「緑青館ねえ。異国情緒溢れる、蜂蜜館と人気を二分する高級娼館じゃないですか」
「ちっ、違うんだよ、あそこは一度、そう! 蜂蜜館に行くと思ってたら連れて行かれたのがそこで」
ちなみに帰ることは出来たけどせっかくだから、とご相伴にあずかっただけでなく、商業ギルドにまで便宜を図るようになった始末。それからも定期的に商業ギルドのツケで利用しているらしい。お気に入りは猫娘娘ちゃん。
「本当かどうかは商業ギルドに聞きましょう。あそこもトップが代わりましたからね。膿を出す為なら喜んで協力してくれるでしょう」
アルテミシアさんはにこやかに言う。うん、怖えよ。というか娘さんも震えてるよ?
「さて、ロッテ、アンナ、港の増改築の話でしたね」
そうだった。ここに来た目的を忘れるところだったよ。別にティーチのド屑の娼館事情だとか使途不明金とかには一切興味はないんだもん。
「歯に衣を着せずに言えば、港は必要としています。大きな船主からもお金を出してでも何とかしたい、というのも。ですが、今は向こうの大陸でも色々起きていてすぐに動かせるお金が足りなくて」
なるほど。必要には迫られてる。でも金がすぐには用意できない。いや、もしかしたら分割とかだったら払えたりするのかな?
「そういう時にお金を貸付るのが当ギルドの業務のひとつのはずなんですが。私が妊娠してる間にどうやら使い込んだバカがいるみたいで」
あ、もうみなまで言わなくていいです。三代の栄華だって一夜で滅んだりしますから。蕩尽するクズって本当にどうしようもない。
「どうやって稼がせるんですか?」
「遠洋漁の航海に出てもらいます。一応、マグロと蟹とクラーケン、どれがいいですか?」
クラーケンかあ。懐かしいなあ。いや、私たちが倒したのはタコ入道であって、クラーケン倒したのはティアたちなんだけど。
「クラーケンって獲るんですか?」
「そうよ。貴族の間では魔力も豊富だし、高級食材として人気なのよ」
なるほど。なかなかなものだ。いや、私は出ないよ。もうあんなのと戦うなんて懲り懲りだ。エレノアさんとシノブさん呼んできて!
ちなみにマグロは「弾丸マグロ」と呼ばれる下手すると船に穴が空く程の速度と硬度で突っ込んで来るマグロらしい。身がしまってて美味いんだとか。
で、蟹の方は「軍隊蟹」と呼ばれる統率の取れた蟹で、一回り大きいリーダー蟹は魔力も詰まってる高級食材なんだって。その代わり、統率蟹を倒さないと網をちょん切って脱出したり、陣形を駆使して襲って来たりするらしい。サイズ的には下っ端は普通の蟹と変わんないんらしいんだけどね。
「三択かよ」
「いえ、まだありますよ。北海の方でメガロドンというサメの討伐依頼が冒険者ギルドに出ているらしく、その餌……コホン、勇敢なる漁師を探してる、と」
「今、餌って言った!?」
「言ってません」
まあ、餌、というのはアルテミシアさんなりの冗談だろう。いくらなんでも冒険者ギルドが人死を前提にする依頼なんて出すわけないじゃないですか。あのお婆ちゃんが仕切ってんですよ?
「……マグロでお願いします」
ちなみに一番マグロがマシらしい。というのも「弾丸マグロ」は操船技術さえしっかりしていたらちゃんと避けられるらしいからね。あとは良い船を使えば刺さらずに弾けるらしい。そういう魔法がコーティングしてあるんだって。あー、なんか前にティアに聞いた流水防御とかいうやつかな?
「あ、とりあえず資金は代官府で出しますので直ぐに取り掛かって貰えますか?」
「あら、いいの、アンナ?」
「当然です。港はこの街の資金源ですよ? そこを改善しなければ経済状況も改善しませんよ」
確かにアンナさんの言う通りだ。関税こそ免除されているものの、商業にかかる税金はあるのだ。それは商人たちがしっかり納めてくれるが、取引が多ければ税収も増えるし商人たちも万々歳だ。
「わかったわ。それじゃあ人夫を集めて工事に取り掛かるわね」
アンナさんとアルテミシアさんがぎゅっと固く握手をする。なんかシャーロッテさんが羨ましそうに見てる。それを見てアルテミシアさんはシャーロッテさんを抱き締めた。
「辛いことがあると思うけど頑張りなさいね。あとはホークに遠慮することなくちゃんと帰ってきなさい」
「ありがとう、ママ」
感動の抱擁である。ティーチ? あのクズは既に船に搬入済みだ。出航まであと三日あるらしいが船艙に閉じ込めておくらしい。餓死したりしない?
それから船舶ギルドを退出して、アルテミシアさんを伴って商業ギルドへ。もちろんホークくんは抱っこしている。
「皆さんお揃いでどうしたんだい?」
そう言って戦々恐々の体で迎えてくれたのはアルトさん。少し痩せました?
「前のギルド長の悪事が次々と明るみに出て、その火消しでてんやわんやだよ。もしかして厄介事? 勘弁してくれよぉ」
なんか本格的に可哀想になってきた。でもこれはこの街の発展のためだからね。
「港湾の拡張工事が代官府主導で決定しました。つきましては、商業ギルドにその人足の手配を」
「本当かい、アンナ!? いやあ、これで何とか破綻は免れそうだ」
「そんなに酷いんですか?」
「着服とか私的利用が物凄く多くてね。なんか貴族にも金を渡していたらしい。そこの貴族からの圧力もあって、今ほとほと困り果ててて」
ん? 貴族の圧力? そんなのは代官府には届いてないんだけど。あ、もしかして商業ギルドに直接来たのか?
「いわゆる魔法至上主義の派閥のやつなんだけど、貴族としての位をかさにきたとんでもないやつでね。でも、それなりに身分はあるし、逆らえないんだよ。船に必要な魔結晶もそこから輸入してるから止められると困るんだよ」
魔法至上主義派閥ってろくなのが居ないな。とりあえずあの双子がここに着いたら相談してみよう。というか国王陛下に報告しとく? とりあえずこの話し合いが終わったらもう一度王都に飛びますか。あ、そういや子どもたち放置しっぱなしだわ。




