脅迫(episode312)
困った時のキリアンの目
「鷹月歌、というとあの、八家の?」
「おや? おかしいですね。ティア嬢も八家の方ですが?」
裕也さんから「嬢」なんて呼ばれると寒気がする。いやまあ丁寧に接してくれてるんだということは分かりますけどね。
「そ、それはそうですが、なんというか、本家筋の方では無いので」
「まあいいですよ。私はティア嬢と話していたんですから。お世話になりましたからね、多大に。あ、そうそうワシの楽しみの邪魔をするな、というのはティア嬢を弄んでいた、という事ですかね?」
営業担当役員とやらの顔に脂汗が実にアブラギッシュに滲み出ていた。さながらとんこつラーメンを食べたあとのような。醤油豚骨は邪道だと思います。あ、でも、〇〇亭の背脂醤油は割と好き。
「ティア嬢に喧嘩を売る、ということは我々に、鷹月歌や四季咲に喧嘩を売ると考えてもらっても?」
「ひうっ!? 四季咲?」
「ええ、確か四季咲のご老体もティア嬢に随分とお世話になってるはずですからね。そうですね、初めに遊戯業の許認可の取り消し辺りから……」
「あわ、あわわわわ」
もう見るのも可哀想になるくらい青ざめている。これはあれだ。オーバーキルってやつだ。そういやオーバーキルって森林暴走と似てるよね。あれはたくさん被害が出るから目も当てられないんだよなあ。
「さて。そろそろティア嬢に電話を戻して貰えるかな?」
力ない手で私にそろそろとスマホを差し出してきた。いやまあ私のスマホなんだけど。
「あんなものでいいかい?」
「やり過ぎな気もするけど助かったわ。ありがとう」
「いやあ、さすがにメアリーにお願いされたら断れないよ。静観するつもりだったのに」
「よくわかった。メアリーちゃんにはありがとうって伝えといてね。あと、ジョキャニーヤにはステイって言っといて」
「? それはどういう……わっ、メアリー!? 何その格好? えっ、ティアさんを助けに行く? いや待って待って、もう解決しそうだから! ジョキャニーヤさんもステイ! ステイだよ!」
予想通りの展開になっていたのでそっと通話をオフにした。そして向き直る。満面の笑みを浮かべて。
「さて、商談の続きをさせていただいても?」
「……はひ」
それからはトントン拍子に話は進んだ。なんでも古森沢の本家筋の人から私たちには無碍に扱ってもいい、なんならいじめてやってくれ、とのお達しがあったそうな。いやまあそれは予想通りと言いますか。あ、ちゃんと五十台は購入出来たよ。三割引もしてくれたけど大丈夫なのかな?
「どうやら一太兄さんにはとことん嫌われちまったようだな」
「当たり前じゃないですか。あのクソ眼鏡、明らかに源三パパを見下してましたもん。この分だとリュージさんの方もそうなんでしょうね」
「そうか。まあ一太兄さんは後妻の子どもでワシと龍二兄さんとは母親が別だからなあ」
そうなの? いや、そりゃあそうなるでしょ。まさかこっちの世界でも母親の順序とかで子どものヒエラルキーが決まるとかあるとは思わなかったよ。でもそれなら一太って実子じゃないよね?
「後妻は長い間、親父の妾だったやつでな。胤も親父のものだそうだ。目付きとかそっくりだからな」
ますます向こうの世界みたいな話だ。基本的にナジュドみたいなのはともかく、八洲も米連邦も法国も露帝国も一夫一妻制だからね。貴族というやつは自分だけの特権を欲しているのかもしれない。
ともかく新台の確保は出来た。当面は大丈夫だろう。だが、今後の事を考えると新しいリース先を見つけないといけない。とはいえ、今回のことでもわかるように古森沢本家の手は回ってると見て間違いない。何しろ相手の土俵なのだ。
「源三パパ、なんだったらパチンコ屋辞めるとかは?」
「いや、このパチンコ屋にはな、居場所的な意味もあるんだよ。そりゃあまあ、パチンコに来るやつなんて社会的にもあまり褒められたヤツじゃないのかもしれんがな。それでも居場所としてうちに通ってくれてるんだ。無碍には出来んよ」
まあ確かにアケミさんみたいな人の心の拠り所ではあるんだろうなあ。実際、源三パパのパチンコ屋は大量消費させるような場所じゃない。そりゃまあそんなコーナーもあるんだけど、大体はのんびり打ってのんびり楽しむみたいな人が多いのだ。
「そっか。なら無くせないね」
「だろう? それに働いてる子たちの事もある。みんながみんな就職出来るならそれに越したことはないが。まあそれでも次の子を拾ってくるんだろうがな」
そうか。私は源三パパのこういう所に救われたんだ。タケルが源三パパを慕って頼ってた気持ちもわかる。凪沙も未涼さんも、保乃さんも、三馬鹿だって、みんなみんなこの店に救われてきたんだもん。
「よし、リース会社に片っ端から当たってみよう」
そんな感じでみんなが手分けしてリース会社を探すことにしました。とは言っても私はこういうのは詳しくないのでリース会社が無いか相談に行くことに。
「それで私たちのところに来たの?」
「ティア、ティア、八洲って美味しいもの沢山あるね!」
そう。ステファニーとミシェルのところだ。まあ待遇的には客分という形なのだが。
「そうそう、キリアンの目で何とか探せない?」
「そういうのは職業別電話帳とかいうので探すんじゃないの?」
「内情とかわかんないし。ステフなら何とかしてくれないかなって」
はぁ、とステフはため息を吐きながら一枚の紙を手渡してきた。そこには何社かの名前と住所、あと、ステフからのワンポイントアドバイスまでかいてあった。
「ステフ、これ」
「暇だったからね」
「嘘嘘。ステフさ、ティアが困ってるの見て力になれないかって色々調べ」
「ミシェル、黙りなさい」
「やーだよ」
「おやつ抜きにするわよ」
「あ、ごめんなさい」
まあ八洲滞在のコストは私がもってるからステフがおやつ抜きにするのはどうかと思うんだけど。まあ二人の関係性からして、財布の紐はステフが握ってんだろうなあ。




