第三百十話 確執
ホーク君誕生してました!
「はあ、やっと戻ってこれましたね、キューさん」
「アンナさん、なんでシャーロッテさんは縛られてんですか?」
「こうでもしないと逃げ出すからです」
「海が、海が、アタイを呼んでるんだよ!」
なるほどわからん。というか帰ってくるなりロープで縛り付けるのはどうかと思うよ。亀甲? いや、違うと思う。
「さて、それじゃあ街の見廻りに行きましょうか。今回はお金ありますから」
「わ、わかったよ」
渋々ということで納得してくれたシャーロッテさん。街中にみんなで繰り出します。あ、みんなにはそれなりに書類整理しておいてくれるようにお願いしました。余程の急ぎの仕事じゃなきゃ無理しなくて良いからね。
街を進んで港に出る。気のいい漁師のおっちゃんやその奥さんが魚を売ってたりする。あ、もちろん大半の魚は商人に買い取られていくんだけど買い取りきれないやつはこうやって売ってるんだってさ。
「おう、嬢ちゃん。タコは美味かったかい?」
「ええ、お陰様で。またあったらください」
それを言うとキョトンとした顔をしてた。もしかして私が触手で大変なことになるのを期待してました? 残念! 私じゃ絵にならないんだな。ティアくらいのあると違うんだけどなあ。
「おお、ロッテちゃん。港の補修はちゃんと出来るのかい?」
港の補修工事。どうやら外国船の往来が増えた様で今ある港を壊して作り替えようとかいう話らしい。ちょっと、シャーロッテさん、一大工事じゃないですか!
「え、えへへ」
「えへへ、じゃありません! どこから予算持ってくるんですか!」
「いや、だって港はこの街の生命線だし、漁師のみんなも新しい方が便利だからって」
そりゃあ漁師はそう言うでしょうよ。誰だって新しいものが良いもの。
「あー、漁師の皆さんにお聞きしますけど、港を新築するのに漁師の皆さんに特別加算金を税として徴収するって言ったらどうします?」
「なんだって!?」
「い、いや、確かに新しくなって欲しいけど、今のままでも困ってないし」
「そ、そうだよな。俺たちゃ別に困らねえよ。まあ貿易する商人共はどうかと思うが」
まあ漁師としては負担が増えるならやらなくてもいいんじゃないかって意見だね。じゃあ次は船舶ギルドだよ。
「……」
「……」
船舶ギルドではシャーロッテさんとティーチのクソ野郎が無言の対面を果たしていた。
「ロッテ」
「なんだよクソ親父」
「たまには帰ってこい」
「仕事が忙しいんだよ」
「アルテミシアも心配してる」
「ママはホークの面倒見が忙しいだろ」
ホーク、というのはアルテミシアさんが産んだ子どもである。おめでたー。いや、無事に産まれてよかったよ。この世界、それなりに魔法は発達してるけどお金ないと出産は命懸けだもの。
「シャロ、あなた家に帰ってないの?」「あ、いや、そういう訳じゃ」
「全然家に寄り付かねえ。家ではほとんど見てないな」
「それはクソ親父が蜂蜜館とかいうところに行ってるからだろ!」
「バカ言うな! 蜂蜜館なんかあれから行ってねえよ! いや、行きたいとは思うけど金がな……そうだ! ロッテよ、お前金貸してくれや!」
「はぁ!?」
いきなりの申し出にシャーロッテさんは素っ頓狂な声を上げた。まあそりゃあそうだ。
「代官って実入りがいいんだろ? そこから少し融通してくれ。なあに、そのうち返してやるから」
「昔からそう言ってあたいの小遣い巻き上げて返してくれたことなかったじゃねえか!」
この男、とことんクズである。いや、分かってはいたんだけどね。ところでそろそろ良いかな?
「じゃあお話はアルテミシアさんとした方がいいですね」
「は?」
「え?」
「バレていましたか」
すうっと姿を表すアルテミシアさん。腕には赤ん坊を抱いている。元気そうな子だ。よく泣かなかったな。
「この子がホーク君ですか?」
「そうなの。よく飲んでよく寝るのよ。あまり泣かないからいい海の男になりそうね」
そう言って穏やかにお母さんの顔で笑う。すやすや寝てるホーク君の前で怒鳴るような事はしないだろう。それだけが救いだ。
「さて、まずはロッテ?」
「はいいいい!」
「最近帰ってこないのはホークに遠慮してるの?」
「いや、その、違くて。ええと、仕事も忙しいし、ええと」
「シャロ、あんたは仕事そこまで忙しくないでしょうが。忙しくしたいなら計算手伝いなさい」
どうやらシャーロッテさんは計算も苦手らしい。と言うよりはじっとしてるのが苦手なんだろう。分からんでもない。だが、私には何となくわかる。
「シャーロッテさんは寂しかったんじゃ?」
「はぁ!?」
「えっ?」
「自分がママに甘えたいのにホーク君が居るから我慢しないといけない。もちろんそんなのはわがままだとわかってるし、何より弟は可愛い。だから今だけでも弟にママを独占させてあげるために帰らない、そういうところかな」
「おまっ、おまっ、おまっ!」
これは私の推測だけど間違ってない自信はある。だって鑑定の結果だもんね! えっ、そらは推測とは言わない? カンニング? こまけぇこたぁいいんだよ!!
顔を真っ赤にしたシャーロッテさん。でも否定の言葉は出てこない。
「ロッテ……」
「な、なんだよ」
「ごめんなさいね。ロッテだって私の可愛い娘だわ」
「ママ……」
アルテミシアさんは片方の腕でホーク君を、もう片方でシャーロッテさんを抱き締めて三人で抱き合った。そう、三人で、だ。
「いつでも帰っていらっしゃい。あなたの家はあそこなんだから」
「うん、ママ。でもね、もう少し頑張ってみたいんだ」
「そう。ならいいわ」
こっちの方は和解できたみたい。この隙に逃げ出そうとでもしてたのか、ティーチが窓に手を掛けたけど、外には出られないよ。ここは箱庭で被ってあるからね。
「さて、次はあなたの番ね、ティーチ? 詳しく話を聞かせてもらおうかしら?」
アルテミシアさんの笑みが先程までの母の慈愛溢れるものから、嵐青の魔女の二つ名に相応しい感じの寒気のするものに変わった。




