寝殿(episode308)
まあティアなら一人でこの屋敷灰燼に出来ますけどね。
紅染さんの土下座に絆された訳ではなく、寝ちゃった胡蝶さんを放置する訳にもいかないので古森沢の本家に行くことになりました。
「それで良かったのか!」
って紅染さんが愕然としてたのが印象深かった。もしかしてこの人、ポンコツなのでは? いやいや、私が胡蝶さんとお友達というのが理解出来てないだけかも。まあ胡蝶さんはお友達って言ったらどんな顔するかわかんないけど。
「ここよ」
車で拉致られてなんか山奥に連れてこられました。いや、利便性悪くない? 山奥なのでピカピカしたお城みたいな建物があるかと思いきやそんなのはなくてひたすらに竹林。タケノコとか採れるのかな?
着いたところは竹林の中にそびえ立つ八洲家屋。しんでんづくり、とかいうらしい。八洲に神殿だってなんか変なの。
中に通されて長い廊下を歩かされた。罠とかは無さそうだ。あ、普通の家にはないんですか、そうですか。胡蝶さんはスタッフの皆さんが運ぶそうで。丁重に担架まで用意してくれてました。
襖を二、三開けて空っぽの部屋を通り、突き当たりのいっそう豪華な襖を黒服が開く。そこには少し高い位置に脇息というのだろうか、肘置きを置いて座ってる、なんというかあくだいかーんみたいなやつがいた。まあちょんまげとかじゃなかったんだけど。
その横には何人かの人が頭を下げている。私らの出迎え、というよりはあくだいかーんへの敬意みたいなポーズだろう。
「貴様が源三の養女か?」
「あ、はい。ティア・古森沢です」
「ふむ。なるほどな。そこに座れ。そして他のものは面をあげよ」
あくだいかーんが声をかけると並んでたヤツらが顔を上げた。割と老若男女揃ってる感じ。まあ私より若いのは居なさそうたけど。
「さて、問おう。なぜ、我らに与せぬ」
なんでって言われてもその発想がなかったからとしか言いようがないんだけど。まあその問いに関してはもう答えた通りだよ。
「知らなかったし、存在を重要視してなかったので」
この言葉に周りの人間はざわついた。まあそりゃあそうだろ。お前らなんて眼中になかったんだよ!って言われたんだから。
「源三の養子となっておきながら、か?」
「源三パパは関係ないし、頼ったこともないです。それに必要なら行くように言われてただろうし」
「ふむ。源三の娘ということならば仕方あるまい。一太どうだ?」
あくだいかーんが声を掛けたのは横に並み居る一人でスーツを着たエグゼクティブっぽい男性。あー、うん、メガネ君ね。もちろん私の中でだけの呼称だ。
「はっ。身内の恥で申し訳ありません。源三にしろ、龍二にしろ、うちから追い出したものですから」
は? こいつ今、源三パパやリュージさんを追い出した、って言ったのか? ということはこいつが二人のお兄さんって事?
「ええとおじさん、でいいんですか?」
「まあ不本意だが源三の義理の娘ともなれば仕方あるまい」
「パパとリュージさんは追い出されたのですか?」
「そうだな。二人ともうちを追い出した。まあリュージはその後本家に顔を出しているが」
「なんでそんなことを?」
疑問に思ったので聞いてみた。というかパパはともかく、リュージさんはいわゆる四季咲のお姫様を射止めたシンデレラボーイ……いや、この場合は別の例が。ええと、お姫様に見初められた成り上がりの男……一寸法師? いや、それだと意味変わるわ。浦島? それもダメか。
「あれが四季咲の姫を得たからだ」
おや、これは意外。どうやら諾子さんとの結婚が家を追い出した理由になるらしい。私には理解できないがね。
「その話はもうよかろう。本題だ。若返りの水とやらを我ら古森沢に譲る気は無いか?」
ん? なんか話がおかしい。私が古森沢に「卸す」とか「販売権を貰う」とかそういう話かと思ったんだけど、「譲る」ってなんだ?
「あの、譲る、というのは?」
「決まってるだろう。若返りの水の製法、原料、そして作業施設、保管場所、全てを我ら古森沢に明け渡せ、と言っているのだ」
……は? いやいやいやいや! 何しれっととんでもない要求してんのよ。原料に製法、そして設備までまるっと寄越せって追い剥ぎでもまだマシな事するわ。いや、命を取らない分、マシなのか?
「それで私は何を得るんですか?」
「心配するな。謝礼は出そう」
「謝礼って」
「そうだな。百万か? 二百万か?」
なんかバカげた金額が出てきた。百万や二百万程度で手放せるわけがない。いやまあ手放してもいいんだけど。結局私が居ないと魔力水作れないし。あ、いや、麻結晶があるから取り扱いを間違えなければ割ともつな。
「それで私が首を縦に振るとでも?」
「いや、思っとらんよ。どういう反応をするか見たかったのだがな」
「喧嘩なら買いますよ」
「ほう? 八洲八家たる古森沢に喧嘩を売ると?」
「先に売ってきたのはそっちでしょうが!」
私はちょっとイライラしていた。そこに意識を取り戻した胡蝶さんが連れてこられた。
「胡蝶さん」
「全く。取引の材料にされるとか不甲斐ないったら無いわね」
「ごめんなさい」
「ティアは悪くないわ。悪いのは薬をもったそこの女よ」
「あら、胡蝶ちゃんがもっと素直になってくれたらこんなまねはしなかむたわか」
紅染さんが意地悪そうに笑う。うー、源三パパや諾子さんの知り合いでもいい人ばかりじゃないって事ね。
「胡蝶さんは大事なお友達ですけどビジネスに私情は挟みません。いざとなったら全員を相手してでも胡蝶さんを連れ去ります」
「そんな事が許されるとでも?」
「許す、許さない、ではなく、やる、と言ってるんですよ」
私は覇気を込めた。いや、覇気とかそういうのあのジジイ程には出来ないけどそれなりに威圧はやってみる。
「わかった。もう良い。胡蝶殿を連れて帰るがいい」
あくだいかーんがそんなことを言い出した。今度は何を企んでるんだ?
「お館様! ここで帰したら」
「わかっておる。だが帰すしかないんじゃよ。のう、胡蝶殿」




