眠罠(episode307)
紅染さん、なんでもやる女。
「まず問題なのはユグドラシルは何故古森沢の人間がやってるのに本家に挨拶もないんだ、という事よ」
あれ? そう言われてみれば本家とやらには何にもしてないな。そりゃあそうだよ。だって、会社設立の準備って殆ど全部が未涼さん に丸投げだもの。やっぱまずかったかなあ、
「キックスタートミーティングにも呼ばれていませんし」
まあ古森沢からはタケルと凪沙、そしてサクヤちゃんがいたくらいだもんな。さすがに古森沢代表です、って言うには無理があったのかな?
「まあ私はそこに招待されましたけど」
胡蝶さんは「招待状催促してきたじゃん!」まさか無いなんてことないよね? とか言外に脅してたじゃん! ……まあ呼ぶのは別に良かったんだけど、だから友子さんも呼んだんだし。
「そうね。我々古森沢本家というものがありながら、頼ったのが四季咲に鷹月歌だけならまだしも、右記島に妖世川ですもの。お偉いさんが発狂してたわね」
あれ? 十条寺は良いのかな?って思ったら十条寺はサポート役として色んなところにいるし、運営していくにも必要だから特に問題はない、むしろ居ない方がおかしいらしい。
で、四季咲、鷹月歌は別格だから居るのは不思議でもない。特に銀行である四季咲、トップである鷹月歌は呼べるなら呼んだ方が箔が付く。いやまあジジイと裕也さんだからツートップが来たのもどうかとは思うけど。
右記島、そして妖世川は商業とは全く関係ない話。そこで覇権派としては右記島の研究と医療技術、そして様々な栽培物を欲し、国際派は妖世川の人脈を欲した。自分たちのところに取り込めれば本家を出し抜ける、と。
「分かりましたか? あなたは我々古森沢の中では時限爆弾みたいな扱いなのです」
「つまり、本家に挨拶もしないで覇権派や国際派に阿る様な動きをした、と?」
「概ねその通りですね。ですから我々は古森沢の本家に挨拶に来るのを待っていたんです。何か弁明があるのかと」
「それは、すいません、知らなくて」
そんなしきたりがあるなんて源三パパは教えてくれなかったよ! いやまあパパ自身その辺あまり考えてなかったのかもしれない。
というかパパのパチンコ屋の時はなんも言われなかったんだろうか? 何も言われなかったんだろうなあ。だってパチンコ屋だもん。商売というより博打の胴元だもの。
「二つ目はその商品が古森沢におりてこない事です」
「ええっ、そんなこと言われても」「良いですか? 八洲で商売をするなら既存の流通に頼るのが早いし普通なんです。そして我々にはその物流網があります」
「ええと、十条寺にも物流網はありますけど」
「単なる運送屋ではありませんか!」
まあ十条寺の場合は宅配便なんだよね。本格的な倉庫管理からのロジテクスとかになると古森沢のお家芸らしい。いやまあ私のところ工場から直送で在庫はあるだけだから管理必要ないんだけどね。
「何故古森沢の店に売りに来ないのですか?」
「ええと、生産が間に合ってなくて」
「何故そんな増産の相談がうちにないのですか?」
「いやだって伝手もないし」
「そうですね。まあそこは終わった話なのでいいでしょう」
良かった。そこは許されたんだ。で、でも、なんで今頃?
「最後は本家よりも先に覇権派とコンタクトをとった事です。あのドラッグストアが覇権派の橋頭堡というのは知っていましたよね?」
「いえ、知りませんでした」
沈黙。いや、知ってるわけないよね? というか古森沢の事なんて殆ど知らないっての。源三パパだってあまり知らないと思う。知らないよね? あ、でも龍二さんは知ってんのかな? というか龍二さんって何やってるかイマイチ謎なんだよね。
「……そうなの。まあそうよね。知らないわよね。でもわざわざ足を運んだドラッグストアが覇権派の店だなんて出来すぎてない?」
「うーん、まあ大きいところの方がいっぺんに揃うかなっていうのとファミレスに近かったので」
これには紅染さんも絶句するしかなかったみたい。いや、紅染さん自身は多分薄々この子知らないんじゃない?って気付いてたんだろうと思う。でも本家の人間が無理矢理、というところだろう。
「という訳であなたを連行しようと思います」
「どこに?」
「もちろん古森沢の本家に」
「私が行くと思いますか?」
「さあ、あなたの意思はあまり関係ないのよ」
ふと横を見ると胡蝶さんがなんか眠そうな顔をしている。
「紅染さん……あなた、仕込み、ました、ね?」
「遅効性の睡眠薬。人体に悪影響はないわよ。無味無臭でお持ち帰りに最適! もちろん売り出したりはしないわ」
「お……のれ……」
かくん、と胡蝶さんが落ちた。あー本当に睡眠薬なんだ。でもそれ、胡蝶さんの右記島で開発したものじゃないの?
「あなたにももうすぐ効いてくるわ。この薬は強力だからすぐに眠くなるわよ。安心しなさい。身内なんだから危害を加えるようなことはしないわ」
「寝ちゃったら私には分からないですよね?」
「そうね。分からないわね。まあ純潔なのかは分からないけどそこは触れないようにしておくわ」
なんか紅染さんが悪役っぽく見えてきた。まあこのまま寝ちゃってもいいんだけど。残念ながら私には睡眠薬が効きにくいのですよ。
だって、私の得意とする水門は状態異常回復と治癒が専門だもの。いや、凍らせたり、水で押し流したりもするし、水壁で弾丸弾いたりするけども。
だから毒薬の類は非常に効きにくいのだ。多分常人の三十倍くらい盛らないと効かないと思う。
「そろそろね。……眠く、ないの?」
「ええ、全く欠片もこれっぽっちも」
「なんで!?」
「なんで、と言われましても」
「こうなったら力づく……はダメね。多分勝てない」
あら、ヤケクソで来るかと思ったらまさかの戦力分析ちゃんと出来てます的な?
「かくなる上は……お願い! 私と一緒に来てください!」
紅染さんはサッと床に移動すると見事な土下座をかました。




