EP8 僕たちはどう生きるか4/4
キムに連れられ事務所に行くと、事務員男女問わず4人総出でお茶をしており、そこに白と同年代の整備員の女の子も数人いる
「白ちゃんも来たねぇ」
高齢で経理をしている女性がお茶とお茶菓子を出す
「あっ……どうも」
何かを察し、白がテーブル席に着くと、みんなズズーっとお茶を飲むと
「平和ですねぇ」
と、同じく経理担当の男性が、ほっこりする
「今月はまだ出動してませんから、整備もやる事なくてですねぇ」
「先月の連戦がウソみたいですよ。ギュウガ事案では、ほぼ全戦力が出ましたから、整備も大変だったけど」
と、整備の女性たちも続く
「本部のカスタマーは大変らしいですよ。カプトはどうするんだとかクレームと言うか、よく分からない電話やメールも多いみたいで」
キムは、そう言うとまた一口お茶を飲む
「やっと宇宙ステーションでの活動が軌道に乗り始めたのに」
「あっ軌道衛星だけに!?」
「ハハハ」
またお茶を飲む一同
「白のシニヨン、今日も綺麗に編んでるね」
「私くせっ毛だから編んでないと任務に邪魔になっちゃうから…でもショートは嫌なんで…隊長みたいにストレートだったらなぁ」
すると、みんなは口々に
「マルティナ隊長の髪は美しいですよね」
「人員が増えたらマルティナ様を布教出来ますね」
「人員が増えたら、雷斗様の美貌がまた世界に知られます」
マルティナと雷斗を褒め始める一同
(やっぱり、この会だったか…)
俗に言うフヨウ教と非公式雷斗ファン倶楽部の集まりだったのだ
「最近、マルティナ様はどうですか?上がゴタゴタしてますから心を痛まれてなければいいんですが」
「隊長は、普段通り気にせず過ごしなさい。私たちの任務は、いつも突然なのだからって」
「さすが、女神」
「…」
「雷斗様はどう?」
「いつも通りですよ」
「さすが雷斗様♡」
「…」
「白ちゃんは、もし増員がかかったらイプシロンから離れちゃうの?」
「そういう話は無いですよ」
その言葉を聞き、整備員の女の子がグローブ端末でメッセージを送る
[白は離れる予定無し]
うおぉぉぉぉ
なにか廊下のほうで数人が騒いでいる。白は何事かと思い席を立とうとするが、すぐに先ほどの整備員の女の子が
「イプシロンの隊員さん達が、バラバラに他の地域に異動になる可能性もないの?」
「だいぶ前に聞いた話だと、過去異動で小隊が解散した事は無いって隊長は言ってました」
うおぉぉぉぉ
また廊下のほうで叫び声が聞こえる
「なんですか、外が騒がしいですけど…」
「気にしない。盛りがついた猫がいるのよ」
「ステーションに猫はいない…けど…」
「じゃあさ、小隊が解散する時ってどういう時なの?」
整備員の女の子は、空になった白の湯呑みに、お茶を注ぐ
「…定年とか退職とか…殉職とか…」
黙ってしまう一同
「白ちゃんは怖くないの?モンスターの相手は」
「私は、狙撃手だから、接近してモンスターと戦う事は無いですから、雷斗や隊長がやられちゃったらって思うと怖いですけど…でも私がモンスターを殺れば、みんな助かるから」
白は少し俯き、湯呑みを握る
「私、2人とも大好きなんです。私の事、認めて、生かしてくれる存在なんです」
白の言葉に、その場にいた全員が泣き始める
「うんうん、さすが女神マルティナ様」
「雷斗様は、みんなの生きる希望だよね」
と、白そっちのけで感動している
「もし改変されたら、整備や事務はどうなるんですか?」
白はお茶を飲みながら、周りの人に聞いてみる
「事務はそもそも外部だからねぇ。毎年人事異動あるから、このままだとしても来年はいないかもよ」
キムが、お茶菓子を手に取り、一口食べると、残りを白に勧める。白が遠慮すると、整備の女の子が受け取る
「整備は、軍とカプト関係ないから、改変されたら変わるんだろうなぁ」
「改変が決まっても、今すぐって事はないですから、今年度は皆さんと一緒ですね。こういう平和で暇な日が続くと良いですね」
白が笑顔を送ると、一同も笑顔になる
「白ちゃんは、本当に優しいねぇ」
イプシロンステーション内の運動場。本部施設の武道場や運動場まで大きくはないが、バスケットのハーフコートほどのサイズの運動場だ
カナタとローズィー2人しかいない運動場で向かい合い、ヘッドギアとボクシンググローブをつけている
「行くよ」
スパーリングを始める2人
どちらも素早く動き、紙一重で互いの攻撃を躱し合い、徐々にスピードを上げていく
ローズィーの右ストレートが、カナタの頬をかすめる、ほぼ同時に右ボディを打ち込むカナタ。しかしローズィーは肘で防御している
「くっ」
完全に防御しているが、ローズィーの身体は少し浮く。さすがに体重差があり、パンチが重い
「大丈夫か?」
「かまわない、続けよう」
カナタは心配し拳を下ろすが、ローズィーはファイティングポーズを崩さない
「いや、やめよう。これ以上は任務に支障が出る」
カナタの言葉に渋々了解し、拳を下ろす…と見せかけ、大振りの右をカナタの顔に叩き込むローズィー
「やっぱり避けるか」
ローズィーの右を、完璧にグローブで受け止めているカナタ
「やると思ったよ」
冷笑しながら拳を払い、ポンとローズィーの額を小突く
「カナタってさ。怒る事ってあるの?私ならこんな事されたら怒るぞ」
「されて怒る様な事、人にするんじゃないよ」
「スーパーオーラの解放条件は、怒りだ」
「だからって」
「本気になれ、カナタ」
「俺は本気だよ」
「八咫烏な、お前には言わないけど焦ってるぞ。スーパーオーラが解放されないと導きのオーラは取得出来ないだろう?」
スーパーオーラの解放の先に、導きのオーラの解放がある。そういう事だとカナタ達は理解している
「カナタは優しいけど、たまに本気かどうか、熱意を感じない時がある」
「それは確かにあると思う。俺、祖父に剣術を習ってたんだけど、感情のコントロール徹底されてたからなぁ」
「カナタのおじいさんって凄い剣豪だって、タン司令が言ってたな」
「大災害の時に、剣で街を守ってたらしいよ」
「らしいって、その時の話って、おじいさんに聞かないの?」
「家族に当時の事は話さなかったなぁ」
「そういうものなのか?」
「感情に流されたら剣が迷う、守りたい者を守る為には、感情をコントロールしなさいって生前言ってたよ」
「大災害の中だから、言いたくない事も、色んな事があったんだろうな」
「まぁな、でもさ、本当に怒りでスーパーオーラって解放されるのか?」
「私も副隊長もそうだったぞ」
「八咫烏は、スーパーオーラの解放条件知らないからなぁ」
八咫烏にとっては、生まれ持っての能力だったので、どうやって使える様になったのか、とうの本人には知る由もなかった
「うーん、怒り以外の条件?うーん」
ローズィーは頭を抱える
「シャワー浴びてさ、副隊長にも聞いてみようぜ」
隊員室に戻ると、ライオネルしかいない
「あれ?みんなは?」
キョロキョロするカナタ
「ちょうどいい。副隊長」
ローズィーは、ライオネルに声をかけようとするが
「静かにしてくれ」
ライオネルは、PCモニターを真剣に見ている
どうせお酒をオークションで落としているのだろうと、ローズィーとカナタがモニターを覗く
「えっ!?」
思わず声が漏れる
モニターには、目を疑う文字と映像が映し出されている
まだ日が昇っていない、ベータ地区、第01地区(旧ワシントンD.C.)
朝を迎えていない夜空を炎が照らし、サーチライトが上空にいる何かを捉えているが、中継のカメラでは、小さくて姿を確認出来ない。しかし画面にはテロップで【ファルベブリッツ襲来】と書かれている
「ファルベブリッツ!?日本以外に!!??」
ファルベブリッツが現れたのは、八咫烏の件、ギュウガ事案ともに日本だった為、カナタ達を含め、全てのカプトはファルベブリッツを、イプシロン地区での問題だと認識していた
「しかもよく見てみろ」
ライオネルの言葉に、2人は画面を注視する
「街を破壊しているんじゃない!?この火災は…」
「…政府軍だ」
火災の元は、戦車や墜落した戦闘ヘリだ
「あいつ、俺たちの状況を理解して動いてるんじゃないのか…」
ライオネルの声は若干怒りで震えている
「政府軍の中でも最強と言われてるベータ地区で、これをやる意味…人類の事、わかっているとしか思えない…」
「カナタ…話し合うなんて、やっぱり甘すぎるんじゃないのか」
ローズィーはカナタを見る。カナタの表情は、悲しそうである
カメラがズームし、赤く炎に照らされた黒煙の中のファルベブリッツを捉える
ブリッツは右手を上げ、3重に重ねた火の玉の魔法陣を展開。次の瞬間、カメラはブラックアウトしてしまう




