EP26 異世界転移は、不幸の始まり4/4
アイザックはイブの管理をキキ・ハイモアに任せ、擬似重力の研究を行っていたが、核兵器による実験などそうそう行える物ではない、それが例え宇宙空間であろうとだ
時空を歪めるシステムに使うエネルギーが問題なのだ
ただ時空は歪められた、安定して歪めたまま、留められれば新システムは完成するのに、研究は足踏みをしていた
一方イブの研究は進んでいた
それは食事を与えているイブ、イブAと呼称された個体の分身体に、刻まれた野菜ではなく、プランターで育てられたミニトマトをそのまま飼育カプセルの中に入れた日のことだ
イブAの分身体は、ミニトマトを食べるのではなく、同化し、別の生き物へと変態したのだ
「これは…融合?」
ハイモアは興奮した、このイブという生き物は、食べるのではなく、融合してエネルギーにしたのだ
そしてイブAは、分身体がミニトマトと融合してからは、分身体を作らなくなった
次にそのミニトマトと融合した分身体をイブAのカプセルに移動させてみる、するとイブAは、ミニトマトと融合した分身体と融合し、体を変化させる
スライムのようだった体は、トマトの皮のように張りを持ち、色も赤く変化していた
「生きている物を与えなければダメだ」
ハイモアは、次に実験用のマウスをイブAの分身体に与える。すると、そのマウスと融合し、姿は元となるマウスのようだが、触手のように何本も尻尾を有している。しかしそのマウス分身体は、ネズミが食べるであろう物を与えても食事は取らない
そしてイブAのカプセルに入れれば、喜ぶように吸収され、またイブAは変化する、毛が生え、触手は尻尾の様に変化したのだ
イブBは5日に一度、分身体を生めば、焼かれ、切り刻まれ、酸をかけられ…
心を痛めていた
「イブAが生む分身体は、変化した後も元の状態の分身体なのか?」
アイザックがハイモアに質問する
「はい、分身体は何かと融合して、イブAに還元し、力を渡すだけの存在の様です」
「女王蜂に栄養を持ってくる働き蜂みたいな物か?」
「その働き蜂が得た花粉で姿を変え、女王蜂はそれを食べ、また姿を変える」
「イブAは元々女王だったという事かね?」
「いえ、それだとイブBも分身体を増やしている理由になりません」
「全てが女王になりえる、そして全てが働き蜂というのか?」
「ただ栄養を摂取しているとしても、妙な部分があります」
「と言うと?」
「マウスと融合した分身体を取り込んだ以降は植物とは融合していません、そして同じマウスを与えても分身体は融合しませんでした。そして次にカマキリを与えてみたのですが、分身体はカマキリと融合したのですが、イブAは取り込みませんでした」
「優劣をつけていると?ミラーテストや初期の知性テストでイブには知能がないと結論されているだろう?」
「植物にも優劣をつける物がいます。しかし栄養としていないとなると、なぜ融合し、その融合体を母体がさらに融合するのか、議論しなければなりません」
「栄養を摂取していないとなれば…イブBは何とも融合せずに分身体を作っているのか?」
「はい」
「何を…エネルギーにしているのだ!?ハイモア…イブBの分身体をエネルギーに使う実験をする」
イブBの分身体を燃やす実験は行なったが、分身体が動かなくなった所で消火した、それは《《殺す為の実験》》であった為、それで結果は出ている。しかし燃料として使うという発想で火をつけたのではない
生物を燃料として使う、普通ならそんな事が許されるのだろうか?
本来存在しない生物、だから死なせる実験が許される?
知的生命体であれば許されない?
未知の生物の生態調査だから許される?
どれも詭弁だ
何度も殺される
何度も何度も殺される
どんなに分身を作っても
何度も殺される
それは絶望だろう
結果から言えば、イブの分身体は燃料として使われる事となる
半年後、分身に分身を重ねたイブの分身体を200体集め、TNT火薬換算で150キロトン(広島原爆の約10倍)の爆発を起こす擬似重力実験をネバダ州の地下核実験場で行なった
軍関係者と政府関係者が集まる
しかしその人数は前回の半数以下になっているし、その実験自体を不安視する声もあった
「ウランを使った核実験よりもエコな爆発ですよ。全てのエネルギーをシステムに使いますし、そもそもイブの爆発は放射能を撒き散らしたりしませんからね」
アイザックはそう豪語し、実験を開始する
「実験が成功すれば、私がイブ発見の時に買った万年筆が、ネバダの実験場から、このアリゾナの施設に転送されます」
「また万年筆ですか」
前回の実験にもいた政府の男が呆れる
実験が始まり、ネバダの実験場で爆発が起こる
するとアリゾナのアイザック達の前にあるカプセルが眩く光る
前回とは違い安定した振動
光で身構える者もいるが、恐怖は感じない振動だ
光が収まり、アイザックはカプセルに近づく
扉を開こうとすると、アイザックが触れるよりも先に中から扉が開けられる
「!?」
中に扉を開けるノブも機能もついていない。しかしアイザックが開けるよりも先に、カプセルは開いた
「君は?」
扉が開くと、そこには真っ黒な服を着ている女性が立っているのだ
「女?」
アイザックが女を見る…いやよく見ると人間ではない。確かに人に似たシルエットであるが
真っ黒な目に赤い瞳
髪は白く、いや髪と思われた物は触手の様に蠢いている
真っ白な肌
足も腕も、手も普通の人間のようだ
服と思っていた物、よく見れば肌との境は無く、首から顔の輪郭まで続いている
その女は体を何度かくねらせた後、妖艶な声でこういった
「あなたが落としたのは…この万年筆かしら?」
そう言って右手にアイザックの万年筆を持っている
「私のペンだ…どういう事だ、実験はどうなったんだ?」
アイザックが混乱していると、その女は語る
「私は、私たちの世界に貴方が接触してくるのをずっと待っていたのです…私の一部がこの世界に飛ばされ、今度次元の扉が開いた時には、私自身が行かなくてはと、ずっと待っていたのです」
「君は異世界の人間なのか?」
「…えぇ、私こそ貴方達が異世界という世界の頂点に立つ生命体です」
「凄い、意思の疎通が取れるとは…そして美しい…」
「あら、ありがとう。こちらの世界には、やはり良い生物がたくさんいそうですね」
その女は辺りを見渡し、そう言うと、アイザックの目を覗く
「私はシータ。私の世界、アーガスの頂点に立つ者です」
その頃、ネバダ州の地下実験場は跡形も無く消滅し、安全圏に避難していた科学者たちも爆発に巻き込まれていた




