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空が壊れるほどの恋だった  作者: Kakou
【第三部】第三章
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第九十一話「切断」

兵器人形の猛攻は、なおも続いていた。


晴は、荒い息を吐きながら、繰り出される刃の連撃を、辛うじてかわし続けていた。


腕が鉛のように重い。

喉が、焼けるように渇いていた。

だが、ここで倒れるわけにはいかなかった。


「――くっ!」


翔が、果敢に人形へと斬りかかっていく。

傷口から、じわりと血が滲み出し、袖を赤く、染めていた。


玲も、応戦している。

額に、玉のような汗が、幾筋も流れ落ちていた。



人形の動きは、寸分の狂いもなかった。

その攻撃は絶えることなく続いていた。


振り下ろされる刃の風切り音が、絶え間なく耳を掠めていく。


玲が、装甲の継ぎ目を探るように、視線を走らせる。

なかなかその隙すら、人形は与えてはくれなかった。


まるで、命を持たない、精巧な彫像であるかのように、動きに迷いも乱れも一切なかった。



晴は、床を蹴り、人形の側面へ回り込もうとした。

息継ぎの、僅かな隙間すら許されていなかった。

汗が、額から顎へと伝い、床に小さな染みを作っていく。


晴は、懐から短剣を抜き放ち、渾身の力を込めて、人形の腕に突き立てた。


全身の力を、その一点に込めて。

だが――金属質の、耳障りな音と共に、短剣は、あっさりと、弾かれ宙を舞った。


「――!」


短剣は、そのまま床を転がり、遠く離れた場所へと、滑っていった。

カラン、カラン、と乾いた、音を立てながら。


晴は、すぐにそれを追おうとしだが、人形がすぐさま体当たりをしてきた。

両手だけで、攻撃を受け流しが、手のひらに、痺れるような衝撃が走った。



「――このままじゃ、埒が明かん!」


翔が、息を吐きながら叫んだ。

三人の体力は、ここまでの間で確実に削られ続けていた。


額から頬へと、汗が幾筋も流れ落ち、視界を僅かに滲ませる。


誰もが、限界に、近づきつつあることを、自覚していた。


中枢卿は、その戦いの行方を繭の中から、じっと見つめ続けていた。

愉しげな、その視線は、戦況の細部にまで注がれていた。


だから、そこに意識は、及んでいなかったのだ。


――環は、その隙を、突いていた。


この数日、環の意識は、幾度となく途切れ、そして戻ることを繰り返していた。

もともと、体力を大幅に失っていた環にとって、今の状態は、まさに瀕死と呼べるものだった。


それでも――朦朧とする、意識の中でも、環は、周囲の状況を、しっかりと把握し続けていた。



環は、気づかれないよう、僅かずつ、僅かずつ、体を動かしていた。


指先を、動かすだけでも、全身が軋むような痛みを訴える。

関節の一つ一つが、錆びついたかのように、重かった。


それでも、少しずつ、姿勢を変えずに床の上を這って、進んでいった。


弾かれ、転がっていった晴の短剣。

息を殺し、物音一つ立てぬよう、細心の注意を払いながら。


環の指先が、ようやくその柄に触れた。

冷たい、金属の感触が、掌に伝わってきた。


――今しか、ない。


短剣をしっかりと握りしめた。


そして、視線の先

――灯の繭から、中央の大きい機械へと伸びる、一本の太い配線。


環は、残された力を振り絞り、姿勢を変えないまま、這っていく。



短剣の刃が、配線に深く食い込んだ。

環は、最後の力を振り絞り、それを一気に断ち切った。


――バチン、という、鋭い音が響いた。


その、瞬間だった。


灯の、繭の蓋が――音を立てて、開いた。



「――灯!!」


晴の叫ぶ声が、部屋中に響き渡った。


何が、起きたのかわからないまま、中枢卿の意識が、瞬時にその方向へと向けられた。

そして

――環の姿を、その目が捉えた。


「――お前!!!」


中枢卿の声に、これまでにない、驚愕と、怒りが滲んだ。


「殺せ!!」



命令に、兵器人形が即座に反応した。

標的が環へと切り替わる。

その漆黒の体が、動き出す。


「――させるか!!!」


玲が、咄嗟に動いた。

人形の、動きよりも、僅かに早く。


玲は、先ほど環が切断した、配線の切れ端を握り、素早く、人形の首元へと投げかけた。


絡みつくように、巻きついた配線を、力任せに引く。


人形が、大きく傾いだ。

均衡を崩し、そのまま轟音と共に、床へと倒れ込む。



翔は、その僅かな隙を決して見逃さなかった。


倒れ込んだ、人形の装甲の隙間

――甲冑の継ぎ目に、翔は迷わず、剣を突き立てた。


鈍い、金属音と共に、剣が深く、内部へと突き刺さる。

人形の体から、血飛沫が飛び散った。


そして――人形の動きが、ぴたりと止まった。


部屋の中に、束の間の、静寂が訪れた。

晴は、荒い息を整えながら、灯の繭へと向かった。

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