表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空が壊れるほどの恋だった  作者: Kakou
【第三部】第三章
PR
89/94

第八十九話「邪魔者」

迎えた、調律省の創立記念日。


中枢卿は、朝から機嫌が良かった。

これまでの、恐ろしい所業など、まるでなかったかのように。

無邪気な口調で、灯に話しかけ続けていた。


「――ふふ、今日は、お祭りね」


あまりにも軽やかな声。

灯は、心の大部分擦り減り、何かが確かに壊れかけていた。


虚ろな目で、灯は天井の一点を見つめ続けていた。

頭の奥では――"あなたは紬。今日から紬よ"――実際に流れているのか流れていないのかも分からないくらい、途切れることなく、反響し続けていた。



「賑やかなんだろうなぁ。屋台とか、出てるのかしら」


「――特に今日は、特別に、機嫌がいいの。わかる?だって、記念日!記念日だもの!わたし達が、作った、この国の――記念日」


中枢卿の声には、隠しきれない、誇らしさが滲んでいた。


「みんなもわたしとお揃い、全部無くして、わたし達が幸せを作った日!」


「――それにね、今年の記念日は、特別なの」


中枢卿の声が、僅かに弾んだ。


「親子記念日でも、あるの♩失ったものが戻ってきた!こんな素敵な記念日は過去はないわ!ふふ、素敵でしょう?」


灯は、もはや抵抗する意思を持ち合わせていなかった。

繰り返された、電気ショックと、強制された施術。

灯の心は、ただ静かに沈黙するだけの器となりつつあった。


中枢卿の言葉に、反論することも、拒むことも、灯にはできなかった。


傍らに、横たわる環の姿が見える。

意識が戻る気配は、まったくなかった。



その、浮かれた独り言が続いていた、瞬間だった。


けたたましい警報の音が、部屋中に鳴り響いた。


中枢卿の、声が、ぴたりと止まった。


「――え? 何。何なの、これ」


中枢卿の声色が、瞬時に変わった。


灯は、その変化に、思わず身を強張らせた。

これまでの無邪気とも思える口調から、一気に冷たく鋭い響きへと変わっていく。


「地下に、誰か、入ってきた、ってこと? ――せっかくの、記念日に。本当に、無粋な、ことをしてくれるわね」


「――兵器人形たちを、動かして」


中枢卿の、静かな命令が響いた。

感情の読めない、平坦な声。


だが、その奥には、これまでにない明確な苛立ちが滲んでいた。


兵器人形達のつけている専用のカメラの映像が映し出された。


灯の、心臓が大きく跳ねた。

それまで、虚ろだったその目に、微かな光が灯った。


――晴さん。


その存在だけが、灯の擦り切れかけた、心の奥に、微かな光を灯した。


「でも、残念。あたしの可愛い、兵器人形たちが、相手をしてくれるはずよ。彼らは、疲れることも、恐れることもないから」


中枢卿は、そう言うと、僅かに笑い声のようなものを漏らした。

その笑い声は、これまでの浮かれた調子とはまったく異なる、冷たい悪意が宿っていた。


「――警報がなると、街中に鳴るの。お祝いモードだったけど、仕方ないわね。多勢に無勢よ」



だが、その余裕は、長くは続かなかった。


警報の音が、なおも鳴り止まぬ中、別のカメラが映し出している街の様子が何一つ変わらない。


「――街で警報が鳴っていない…?」


中枢卿の声から、次第に余裕が消えていった。




――全く、俺も甘いな。


うまくやれよ、忍は街に響く警報器を切っていた。


「――どういう、こと。あの子たちが、そう簡単に、突破されるはず、ないでしょう」



予定外の事態に、中枢卿の声色が徐々に荒々しく、変わっていく。


「――ふざけないで。今日は、わたしの、わたしたちの大切な日、なのに」


これまでの余裕たっぷりの態度とは、まったく異なる、剥き出しの苛立ち、滲んでいた。


「みんな、わたしの、邪魔ばかり――許さない。絶対に、許さない!!」


中枢卿の、荒れ狂う声が、幾度も、幾度も、反響している。

灯は、豹変ぶりに、恐怖を感じていた。


――荒れ狂う声が続いていた、その、瞬間だった。


部屋の奥、重厚な扉が、大きな音を立てて開かれた。


その、向こうに

――三つの、人影が現れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ