第八十六話「決行日」
忍から、地図と決定的な情報を受け取ったあの夜から二週間が、慌ただしい日々が始まった。
翔は、あの夜のうちに、単身で東部の、地下集落へと真っ直ぐ引き返した。
本当は六花も連れて行きたかったが、時間がなかったから仕方なく単身で戻った。
それに、晴と玲だけでは行動が制限されるため六花が買い物など身の回りの手伝いをする必要があったからだ。
中央区に残った、晴、玲は、深夜、学校の古井戸の下見を行った。
長年放置されていた井戸は、苔むし朽ちている。
中を覗き込むと、深い闇が地下へと続いているのが見て取れた。
降りるための手すりが下に続いているのがぼんやりと見えた。
「――ここから、下りられそうだな」
晴と玲は、顔を見合わせて頷いた。
六花に頼んで昼間の市場で必要なものを買い揃えた。
十日ほど経った頃、翔が戻ってきた。
地下集落の住民達が十数名、屈強な男達。
一緒に東部の収容施設を襲撃した見慣れた面子もいた。
経験豊富な、面々で晴は安堵した。
さすがの人数だったので郊外で人気のない場所で野営をすることにした。
一行は、さらに準備を進めていった。
地図に記された、地下水路の道筋。
幾度となく、確認した。
忍が、示した赤い線。
地下集落の住民たちの中には、下水設備に詳しい者もおり、その知識も大いに役立った。
「――この分岐は、恐らく旧式の排水路に繋がっている。罠の可能性が高い」
仲間の、一人が指摘するたび、一行は、地図に書き込みを加えていった。
忍から託された地図は、次第に、独自の、詳細な攻略の地図へと姿を変えていった。
武具の準備も並行して進められた。
地下集落から運び込まれた武器の数々。
玲は、調律士としての知識を活かし、警備の配置や、警邏の時間帯についても、詳細な情報を、仲間たちに共有した。
六花はすっかり、本来の姿に戻っていた。
この作戦において自分にできることを、探し続けていた。
東部施設で培われた裁縫の技術を使って、武具や衣服を修繕した。
そして、二週間後
――ついに、その日が、やってきた。
――必ず、取り戻す。
空は、朝から快晴だった。
中央区の街並みは、調律省創立記念の飾り付けで彩られ、祭りの賑わいを予感させていた。
晴たちは、最後の装備を整えていた。
誰も、言葉を発しなかった。
だが、その沈黙の中に、これまで積み重ねてきた覚悟が満ちていた。
「――行くぞ」
翔の号令と共に、祭りの人間達に混じって作戦通りにそれぞれの配置に静かに動き出した。




