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空が壊れるほどの恋だった  作者: Kakou
【第一部】第三章
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第十七話 「重なる紋」

監視体制が強化されたことで、晴が灯と単独で過ごせる時間は、目に見えて減っていた。

玲が学園を、晴が放課後以降を担当する新しい体制は、規律の上では合理的だったが、晴にとっては、灯との間にあった、あの緩やかな親密さを、少しずつ奪っていくもののように感じられた。


だが、非番の日は事情が違った。

非番の間は、玲が学園から自宅までの監視を一手に引き受けてくれる。

灯の観測から完全に外れ、晴が誰の目も、誰の予定にも縛られない、まとまった自由な時間を持てる日

――それは、体制強化によって、皮肉にも生まれた新しい隙間だった。

だからこそ、非番の日は、これまで以上に貴重な時間になっていた。

灯と過ごすためではなく

――今日は、一人で調べ物をするための時間だった。


晴は、支局の資料庫に足を運んだ。

先日見つけた東雲家の記録が、まだ頭の中に強く残っている。

途切れた家系図、名簿にない両親の名前。

それらの断片を、もう一度、別の角度から見直す必要があった。


棚の奥、氏族ごとの戸籍記録が収められた一角で、晴は改めて東雲家のファイルを取り出した。

ページをめくり、家系図の最初のページに戻る。

そこには、家系図の下部に、小さな紋様が刷られていた。これまでは見過ごしていた、ごく小さな図案だった。


三日月を横向きにしたような曲線の中に、雫を思わせる小さな図形が重なり合う、独特の紋様だった。

晴は、それをしばらく見つめた。

どこかで見たことがあるような、既視感に似た感覚があった。


晴は、記憶を辿った。

だが、それがどこで見た紋様なのか、すぐには思い出せなかった。

彼は、資料棚の間を歩き、別の氏族の記録を、片端から確認していくことにした。


いくつかのファイルを開いては閉じ、また開く

――その作業を繰り返すうち、晴は、ある一冊のファイルに手を止めた。

表紙に記された「氷雨」の文字。

灯の一族の記録だった。


晴は、ページをめくった。

氷雨家の家系図も、東雲家と同様に、大嵐の年で途切れていた。

だが、晴の目を引いたのはそれではなかった。


家系図の下部、そこに刷られた紋章

――三日月を横向きにしたような曲線の中に、雫を思わせる小さな図形が重なり合う、独特の紋章。


東雲家のものと、寸分違わず同じだった。


晴は、二つのファイルを並べて机の上に置いた。何度も見比べたが、見間違いではなかった。

線の一本一本、図形の配置、そのすべてが、完全に一致していた。


「――同じ紋章」


晴は、思わず呟いた。誰もいない資料庫に、その声が小さく響いた。


氏族の紋章は、通常、家系や血縁を示す象徴として扱われる。

全く異なる二つの氏族が、まったく同じ紋章を持つということは、偶然では起こり得ない。

婚姻によって家紋を共有する慣習がこの国にあることを、晴は以前の研修で学んだ記憶があった。


東雲家と氷雨家は、かつて、婚姻関係にあったのかもしれない。


その仮説が、晴の頭の中で、静かに形を成していった。

もしそれが事実であれば、二つの家が大嵐の年で同時に記録を途切れさせていることにも、何らかの説明がつくのかもしれない。


晴は、二つのファイルをさらに詳しく調べようとした。

だが、家系図以外の情報は、東雲家と同様、氷雨家についてもほとんど残されていなかった。

まるで、両家の詳細な記録そのものが、意図的に取り除かれたかのように。


晴は、机の上に広げた二つの紋章を、じっと見つめ続けた。

三日月と雫が重なり合う、その静かな図案。

それは、まるで、二つの家が互いに寄り添うようにして描かれた、一つの絵のようにも見えた。


――なぜ、これほどまでに、記録が消されているのか。


その問いに対する答えは、まだ、どこにも見つからなかった。

だが晴は、この紋章の一致が、灯と自分を結びつける、目に見えない糸の一部なのだという確信を、少しずつ強めていた。


窓のない資料庫の中、晴は、その紋章を、記憶に焼き付けるように、長い間見つめ続けていた。


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