第15話
だがどういうわけか、ベルクトズスの発言は悪魔を大いに失望させたらしい。明らかに落胆した声で、悪魔は相変わらず饒舌に語り始める。
「……あー、ガッカリ。ガッカリだよ、ほんと。お前、フレデリカのことはけっこう可愛がってたからさぁ。こんな猿みたいな姿になっても、少しは情を見せると思ってたのに。あー、つまんね」
「いったい何を言っている!? 面白いとかつまらんとか、そんなこと、今はどうでもいいだろう!?」
「どうでもよくねーよ。悪魔にとっちゃ、面白いかどうかがすべてなんだよ。つまんねーことに時間使いたくねーもん。あー、冷めた冷めた。たとえばさぁ、お前が汚い猿になったフレデリカを抱きしめるとかさぁ、そういうドラマチックな展開を見せてくれたら、契約も考えてやってもよかったけどさぁ。だめだこりゃ」
「ま、待て。ちょっと待て。わかった、今からやる。それでいいだろう?」
「いいわけねーだろ。アホかお前。脚本に文句言って無理やり話を変えさせるなんて、最高にしらけるだろーが。もういいよ。お前もとっとと『魔』に飲まれろ。そんで、人間は全滅。あとはバロンディーレをちっちゃな地獄に変えて遊ぶわ」
ドクンとベルクトズスの心臓が鳴る。それはただの始まりにすぎず、心臓はさらに早鐘のように鳴り響き、全身に血管が浮かび上がる。ベルクトズスの姿は、今や醜い魔物そのものであった。
「ま、待でっ! 待っでぐれぇ! い、嫌だ! 私は、私は偉大なる大国バロンディーレの王、ベルクトズスだぞ! ごんな最後、許ざれていいばずがないっ!」
「何が『偉大なる大国』だよ。悪魔を騙して無理やり繁栄させた『こずるい国』じゃねーか。だが『神託で特別な力を持った聖女を選ぶ』ってシステムはマジで大したもんだったよ。あれのせいでバロンディーレ全体が、今でも聖女の結界に包まれてる状態でな。俺たちゃ結局、バロンディーレの外には手を出せねーのよ」
「お゛……ご……ごご……ごごごごごごご……嫌だ……死にだぐないっ!」
「安心しろ、死なねーから。お前も地獄の一員になって、ブヨブヨダラダラ、意味もなく生き続けるんだよ。永遠にな」
「やだ……い……ゃ……だ……」
「はぁ~、それにしてもつまんねーな。愚かな王が愛に目覚め、猿になり果てた偽りの聖女を抱きしめてさぁ。『私が間違っていた』って涙ながらに悔いるわけよ。今地獄じゃさぁ、そういうありきたりのラブストーリーがトレンドなわけよ。あ~、リアルでそれが見られると思ってたのにさぁ。マジで興覚めだよ。は~、つまんね」
「…………」
悪魔の残念そうな嘆きは、もうベルクトズスの耳に届いていなかった。届いていたとしても、彼には言語を理解できる知性は残っていなかった。すべては"もう手遅れ"。ベルクトズスとバロンディーレは"終わった"のである。
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あの世界の嫌われもの、バロンディーレ王国が崩壊した――
その知らせはたちまちのうちに諸国へと広まった。ある者は手を叩いて喜び、ある者は「ざまぁみろ」と口走り、またある者は宴を開いて見知らぬ人々にまで祝い酒を振る舞った。まあとにかく、皆『嫌な奴』が消えてくれて嬉しくて仕方ないのである。
だが、エリシアは一人浮かない顔をしていた。
季節は流れ、春。
フェルディナントからプロポーズを受けたあのテラスで、エリシアは遠くを見ながら小さくため息を漏らす。結婚式を明日に控えた花嫁の顔とは思えない、悲しい表情だった。
そんな彼女にフェルディナントはそっと寄り添い、慰めの言葉をかける。
「エリシア。バロンディーレが滅んだのが今でも悲しいのか? 無理もない。酷い思い出ばかりとはいえ、きみの故郷だからな。どうか、気を落とさないでくれ」
気を落とさないでくれ――
そう言われて、エリシアは考える。
自分はバロンディーレの人々が死んだこと、そしてかつての故郷がなくなってしまったことで、気を落としているのだろうか?
確かに大勢の命が失われたことは悲しい。たとえその命が、かつて自分を蔑み、何の温情も与えてくれなかった命だとしても。命が無残に消え去るというのは、それほど悲痛なことなのだ。
故郷と呼べる場所がなくなったことも、多少は悲しい。
エリシアの生まれ育った貧民街はこの世の地獄だったし、まともな大人は一人もいなかった。子供ですら、盗みと暴力が当然の狂った環境。それでも幼少期を過ごした場所というのは特別であり、もう二度と足を踏み入れることができないと思うと、わずかな寂しさはある。
しかし、エリシアが気落ちしている大きな要因はこの二つではなかった。彼女の心にあるのは、後任の聖女だったフレデリカのこと。出自は違っても、自分と同じようにバロンディーレのために尽くしたフレデリカの末路を思うと、どうしても気が沈んだ。
バロンディーレのすべては『魔』に飲み込まれた。それはつまり、フレデリカも『魔』に飲み込まれ、自我などかけらも残っていなかったということだ。あれほど才能のある聖女が、最後まで国に尽くした結果がこれとは、なんとかわいそうなことだろう。自分が現在幸せであるから、なおさらフレデリカを哀れに思う。




