↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
77/91

#077 「隠された答え」

 放課後。蒼羽と真凜は、並んで歩いていた。いつもの帰り道。けれど今日は、二人ともあまり話さなかった。

「ねえ、真凜」

「なに?」

「やっぱり、聞く?」

 真凜は少しだけ考えてから、頷いた。

「うん」

「そっか」

「蒼羽は?」

「……聞きたい」

 二人はまた黙った。聞きたい。でも、聞いていいのか分からない。そんな気持ちを抱えたまま、二人は歩いていた。


 あの日。蒼羽と真凜は、ユグノドアドームにいた。二人にとっては、それだけだった。その間に何があったのかは知らない。

 けれど――それからの六人は、どこか違って見えた。普段と変わらない。笑っている。話している。

 はるなは相変わらずはるなで、想太もいつもの想太だった。美弥も、いちかも。隼人も、要も。

 でも、時々、六人だけで顔を見合わせる。ほんの一瞬、何かを確認するように。そして、話題を変える。蒼羽も真凜も、それに気づいていた。


「やっぱり、何かあったよね」

 蒼羽が呟いた。


「うん」

 真凜は答えた。


「私たちがいなかった時」

「たぶん」

「……そっか」

 蒼羽の声が少しだけ沈んだ。


 真凜が横を見る。

「嫌?」


「嫌っていうか……」

 蒼羽は困ったように笑った。

「ちょっと寂しい」

「うん」

「真凜も?」

「私も」

 二人は顔を見合わせた。そして、少し笑った。

「じゃあ、一緒だね」

「うん」

 蒼羽は少しだけ空を見上げた。

「ともり様なら、知ってるかな」

「知ってると思う」

「……聞いてみようか」

「うん」

 蒼羽が小さく息を吸った。

「ともり様」

『はい』

 いつもの声が、すぐに返ってきた。

「聞きたいことがあります」

『どうぞ』

 蒼羽は少し迷った。

 それから、口を開いた。

「私たちがユグノドアドームにいた時――」

 真凜が黙って隣に立っている。

「何か、あったんですか?」


 短い沈黙。そして。

『申し訳ありません』

 ともりが答えた。

『その質問について、私からお話しすることはできません』


 蒼羽と真凜は顔を見合わせた。それだけで、二人には十分だった。


「……やっぱり、何かあったんだ」

 蒼羽が小さく呟いた。


 真凜が聞く。

「ともり様は、それを知っているんですか?」


 再び、短い沈黙。

『その質問にも、お答えできません』


「そうですか」

 真凜はそれ以上追及しなかった。でも、蒼羽は、まだ何か言いたそうだった。

「ともり様」

『はい』

「私たちだから、ですか?」

 真凜が蒼羽を見る。ともりは何も言わない。


「私たちには、話せないんですか?」

 その声に責めるような響きはなかった。ただ、寂しかった。

『蒼羽さん』

「はい」

『真凜さん』

「はい」

 真凜も返事をする。

『一つだけ、お伝えしてもよろしいでしょうか』

 二人は顔を上げた。

「はい」

『皆さんが、お二人を信頼していないから話さないのではありません』

 蒼羽が目を瞬いた。

『むしろ、その逆です』

「逆……?」

『はい』

 ともりの声は、いつもと同じだった。感情があるのか、ないのか。二人には分からない。それでも、その言葉は不思議と優しく聞こえた。

『皆さんは、お二人をとても大切にしています』

「……」

『だからこそ、話せないことがあります』

 蒼羽が俯いた。

「大切だから……」

『はい』

「それって、ずるくないですか?」

 突然、真凜が言った。

「真凜?」

「だって」

 真凜は少し頬を膨らませた。

「大切だから教えないって言われたら、私たち何も言えないじゃないですか」

『そうですね』

「そこ、認めるんですか?」

『事実ですので』

 蒼羽が吹き出した。

「ふふっ」

「蒼羽」

「ごめん」

 真凜も少しだけ笑った。張り詰めていた空気が、ほんの少し緩んだ。


「じゃあ」

 蒼羽が聞いた。

「いつか、教えてもらえるんですか?」


 ともりは答えなかった。また沈黙。蒼羽は、その沈黙だけで理解した。


「それも、答えられないんですね」

『はい』

「そっか」

 蒼羽は少し残念そうに笑った。真凜が隣に立つ。

「もういいよ」

「うん」

 二人は再び歩き始めた。その時。


『蒼羽さん。真凜さん』

 二人が足を止める。

『皆さんを、信じてあげてください』

 蒼羽と真凜は黙って聞いた。

『話せないことがあるということと、お二人を大切に思っていることは、矛盾しません』

 蒼羽はしばらく考えていた。やがて、小さく頷いた。

「分かりました」

 真凜も頷く。

「私も」

『ありがとうございます』

「でも」

 真凜が言った。

『はい』

「いつか話してくれそうになったら、ちゃんと教えてくださいね」

『それは私ではなく、皆さんにお願いしてください』

「あ、逃げましたね」

『適切な回答です』

「絶対逃げましたよね」

 蒼羽がまた笑った。今度は真凜も笑った。


 空は夕焼けに染まっていた。二人は並んで歩く。

「ねえ、真凜」

「なに?」

「まだ気になる?」

「気になる」

「即答だね」

「蒼羽は?」

「すっごく気になる」

「同じじゃん」

 二人で笑った。少しだけ歩いて、蒼羽が言った。

「でも、待とうかな」

「うん」

「はるなさんたちが話してくれるまで」

「私も」

 真凜は前を向いた。

「無理やり聞いても、たぶん違うもんね」

「うん」

 二人は知らない。あの日、自分たちがユグノドアドームにいた間に、何があったのか。

 はるなと想太がどこへ行ったのか。その先に白い世界があったことも。そこで待っていた存在も。

 六人が知った、この世界の真実も、何も知らない。

 ただ、自分たちに話さない理由だけは、少しだけ分かった。

 それで十分だとは、まだ思えない。知りたいという気持ちも消えていない。それでも。


「帰ろっか」

 蒼羽が言った。

「うん」

 二人は夕暮れの道を歩き続けた。答えは、まだ隠されたまま。けれどその答えを隠している人たちの気持ちまで、隠されているわけではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。