#074 「観測の意味」
放課後。
六人は、もう一度旧図書館を訪れていた。地下へ続く階段を降りる。静かな空気は昨日と変わらない。レゾネーターも、そこに静かに佇んでいた。何事もなかったかのように。
はるながゆっくり近づく。
「……変わらないね。」
想太も頷く。
「ああ。昨日、本当にあんなことがあったとは思えない。」
要はレゾネーターを見つめたまま口を開く。
「一つ、気になってることがある。観測って、何なんだ?」
その言葉に、全員が要を見る。
ともりが静かに答えた。
『観測とは、対象を認識し、記録することです。』
隼人が苦笑する。
「それは辞書の説明だろ?」
『はい。ですが、それだけではありません。』
少しだけ間が空く。
『私は皆さんの日常を観測しています。』
『位置情報、健康状態、会話、表情。』
『それらを統合し、久遠野を支えています。』
美弥が静かに尋ねる。
「でも、昨日だけは見えなかった。」
『はい。はるなさんと想太さんは、私の観測範囲から外れました。初めて経験する現象でした。』
いちかが考え込む。
「つまり、観測できない場所がある。」
『そう考えられます。』
ともりは静かに続けた。
『ですが、私は一つ、昨日学びました。』
六人が耳を傾ける。
『観測できないことは、不安ではありませんでした。』
『皆さんを信じて待つことも、一つの観測なのだと理解しました。』
静かな沈黙が流れる。
想太が優しく笑った。
「ともり。少し変わったね。」
『はい。』
『昨日までの私は、全てを把握することが最善だと考えていました。』
『ですが、全てを知ることだけが、見守ることではありません。』
はるなが微笑む。
「見守る……。」
その言葉は、不思議と心に残った。向こうのともりも。目の前にいるともりも。形は違っても、自分たちを見守ってくれていた。
要がレゾネーターへ視線を向ける。
「この装置も、まだ俺達の知らない役割があるんだろうな。」
隼人が頷く。
「きっと、昨日だけじゃ終わらない。」
美弥も静かに続けた。
「まだ、知らないことがたくさんある。」
いちかが優しく笑う。
「でも、今は、それでいい気がする。」
ともりが穏やかな声で答える。
『はい。』
『知るべきことは、必要な時に知ればよいのだと思います。』
『昨日、皆さんが得た答えも、まだ、その一部に過ぎません。』
六人は静かにレゾネーターを見つめる。昨日までは、ただの謎の装置だった。今は違う。
ここは、世界と世界が出会った場所。けれど、その本当の意味を、六人はまだ知らない。
要が振り返る。
「行こう。俺達には、俺達の毎日がある。」
誰もが頷く。レゾネーターは静かな光を放っている。何も語らない。けれど、その先に、まだ答えが待っていることだけは感じられた。
ともりが最後に静かに語りかける。
『観測とは。』
『相手を理解しようとすること。』
『そして、その人の未来を、静かに信じて見守ること。』
『私は、それが観測の本当の意味なのだと思います。』
六人は静かに歩き出す。その足取りに、もう迷いはなかった。




