#073 「未来への選択」
放課後。夕日に染まる教室には、八人だけが残っていた。蒼羽と真凜は、明日の授業の準備をしながら楽しそうに話している。
「真凜ちゃん、宿題終わった?」
「はい。でも漢字が少し難しくて……。」
「あとで一緒にやろ!」
「ありがとうございます。」
二人の笑い声が教室へ広がる。その様子を見つめながら、六人は静かに微笑んでいた。
要が小さく口を開く。
「昨日までなら、俺達も何も考えずに笑ってたんだろうな。」
隼人が頷く。
「そうだな。でも今は違う。」
はるながゆっくりと言葉を続ける。
「違うけど……だからって、今までの毎日を変えたいとは思わない。」
美弥が優しく笑う。
「私も。」
「みんなと笑って、学校へ来て、普通に毎日を過ごしたい。」
いちかが窓の外へ目を向けた。夕日に照らされた校庭では、生徒たちが部活動に励んでいる。
「それでいいんだと思う。私達は、この日常を守りたかったんだから。」
その言葉に、全員が静かに頷いた。
想太が立ち上がる。
「向こうのともりさんが言ってた。」
「『どんな世界になっても。どんな人生を歩んでも。最後には、また会いましょう。』って。」
その言葉を思い出す。あの白い世界。優しく微笑む、ともり。三人の約束。
要が小さく笑った。
「なら。俺達がやることは一つだな。」
隼人が笑う。
「久遠野を守る。」
美弥が首を振る。
「それだけじゃないよ。」
皆が美弥を見る。
「私達自身も、ちゃんと人生を生きること。それも約束なんじゃないかな。」
静かな沈黙が流れた。誰も、その言葉を否定できなかった。
AIともりの優しい声が聞こえる。
『私も、そのように思います。』
『皆さんが、この世界を守ること。そして、皆さん自身の人生を歩むこと。』
『その二つは、決して矛盾しません。』
想太が微笑む。
「ともり。ありがとう。」
『どういたしまして。私は、皆さんが笑って過ごす毎日を観測できることが、一番嬉しいです。』
その言葉に、はるなが笑った。
「それなら。これからも、いっぱい笑わないとね。」
蒼羽が不思議そうに振り返る。
「何のお話ですか?」
六人は顔を見合わせる。そして。自然と笑みがこぼれた。
「秘密。」
いちかがそう答えると、蒼羽は頬を膨らませる。
「えー!気になります!」
真凜も困ったように笑う。
「いつか教えていただけますか?」
はるなが優しく微笑んだ。
「うん。いつかね。」
それは嘘ではなかった。ただ、その「いつか」は、まだ来ていないだけだった。夕日が教室を優しく照らしている。世界は変わらない。だからこそ。その世界を守る意味がある。六人は、それぞれ静かに未来を見つめていた。




