#070 「六人だけの秘密」
レゾネーターの部屋を後にした六人は、旧図書館の廊下へ移動していた。誰も口を開かない。静かな空気だけが流れていた。
やがて、要が足を止める。
「……なあ。」
全員が要へ視線を向けた。
「さっきの話……。」
言葉を探すように息を吐く。
「正直、まだ全然信じられない。」
隼人も苦笑する。
「俺もだ。」
「久遠野がシミュレーション世界?」
「別の世界から来た、ともり?」
「何もかも現実味がない。」
美弥も小さく頷いた。
「夢を見ているみたい……。」
いちかは腕を組みながら天井を見上げる。
「でもね。はるな達が、こんな冗談を言うとも思えないんだよね。」
その一言に、全員が静かに頷いた。
はるなが一歩前へ出る。
「私も、最初は信じられなかった。」
想太も続く。
「向こうのともりさんに言われても、全部理解できた訳じゃない。」
「でも、実際に見たんだ。」
六人の間に沈黙が落ちる。
要は目を閉じ、ゆっくり考え込んだ。
「つまり、、、俺達は、この世界の本当の姿を知ってしまった……ってことなんだな。」
想太が静かに頷く。
「そうなる。」
隼人が頭をかいた。
「普通なら誰にも信じてもらえないな。」
「俺でも信じられない。」
思わず全員から小さな笑みが漏れる。重苦しい空気が、少しだけ和らいだ。
美弥が口を開く。
「だから、ともりさんは誰にも話さないでって……お願いしたんだね。」
はるなが頷く。
「うん。命令じゃなかった。お願いだった。」
いちかはその言葉を何度か繰り返す。
「お願い……か。そういうところが、なんだかともりさんらしいね。」
AIともりの優しい声が静かに響く。
『私は、向こうのともりさんの判断は正しいと思います。』
『もし、この事実が広く知れ渡れば。』
『混乱する人も少なくないでしょう。』
『だから私は、このお話は六人だけの秘密にしておくことが最善だと思います。』
誰も異論はなかった。
要がゆっくりと頷く。
「俺は守る。」
隼人も笑う。
「もちろん。」
美弥も優しく微笑んだ。
「約束する。」
いちかは胸に手を当てる。
「私も。」
「誰にも話さない。」
想太とはるなも頷く。
六人は自然と円を作るように立っていた。その輪の中心には、目には見えない約束があった。世界の真実。それは誰かに誇るための知識ではない。誰かを傷つけないために守る、大切な願いだった。
しばらく誰も言葉を発しなかった。静かな時間が流れる。
やがて、隼人が空気を変えるように笑った。
「でもさ。」
「秘密を抱え込んで終わりじゃないよな?」
要が振り向く。
「どういうことだ?」
「俺達は知った。だったら、ちゃんと確かめたい。」
いちかも頷く。
「私も。」
「知ったまま終わるより、自分達で調べてみたい。」
美弥も静かに微笑む。
「きっと、それが私達らしいよ。」
はるなと想太は顔を見合わせ、小さく笑った。
要が皆を見回す。
「よし。ここから先は、六人で確かめよう。」
その言葉に、全員が力強く頷いた。六人だけの秘密。それは終わりではなかった。ここから始まる、新たな約束だった。




