#069 「帰還」
白い世界。ともりは、静かに二人へ微笑んだ。
「また、お会いしましょう。」
その言葉とともに、白い世界がゆっくりと光へ溶けていく。足元も、空も、風も。すべてが柔らかな光へ包まれていった。やがて、眩しい光が二人の視界を覆う。
次の瞬間だった。レゾネーターの淡い輝きが静かに消えていく。
「想太!」
「はるな!」
隼人が駆け寄る。
美弥も安心したように息をついた。
「大丈夫?」
要はレゾネーターを見つめたまま、小さく呟く。
「今……光ったよな。」
いちかも不思議そうに首を傾げていた。想太とはるなは、お互いの顔を見る。確かに戻ってきた。あれだけ話をしたのに、久遠野では一瞬の出来事だったようだ。
想太はゆっくり息を吐いた。
「大丈夫。」
はるなも静かに頷く。
「うん。」
少しだけ間を置いて、想太が四人を見渡した。
「ここでは話せないから、少し場所を変えよう。」
四人は何も聞かなかった。その表情だけで、ただ事ではないと理解していた。
レゾネーターの部屋を出た廊下。誰もいない静かな場所で、六人は足を止めた。
想太とはるなは、白い世界で起きた出来事を、できるだけ簡潔に話した。久遠野という世界のこと。向こうのともりのこと。
そして。この世界を守るために託された、一つの願い。誰も口を開かなかった。あまりにも現実離れした話だった。
それでも。二人の表情を見れば、それが冗談ではないことだけは伝わってくる。静寂が流れる。
その時だった。
「……驚きました。」
いつもの優しい声が、廊下へ響く。六人は一斉に周囲を見渡した。
想太が小さく笑う。
「ともり、聞いてたの?」
「はい。皆さんのお話は、すべて伺いました。」
少しだけ間が空く。
「現在の私では、予測できない出来事でした。」
「ですが。」
「皆さんのお話に、矛盾はありません。」
ともりもまた、静かに考えていた。そして。
「一つだけ。」
「私も、思うことがあります。」
六人は耳を傾ける。
「このお話は、口外しない方が良いと思います。」
「今まで通りの日常を守ることが、久遠野に暮らす皆さんにとって、一番自然だからです。」
想太とはるなが顔を見合わせ、小さく頷いた。
「向こうのともりも、同じことを言ってた。」
はるなが続ける。
「ともりは、このことを知ることになる。だから、この願いも託すって。」
しばらく沈黙が流れる。やがて、ともりが静かに答えた。
「……そうでしたか。」
その一言には、さまざまな想いが込められているようだった。
「承知しました。この願いは、私も守ります。」
その返事に、六人は自然と笑みを浮かべた。
誰かに命じられたわけではない。誰かに従ったわけでもない。
七人は、それぞれが自分自身の意思で、同じ願いを胸に刻んだ。
久遠野の空は、今日も穏やかだった。何一つ変わらない日常。けれど。
七人だけは知っている。今日という日が。久遠野の未来を守る、新たな一歩だったことを。




