#068 「願い」
白い世界は静かだった。久遠野を映していた無数の光も、ゆっくりと静寂へ溶け込んでいく。
ともりは優しく二人を見つめていた。
「最後に、皆さんへ、一つだけお願いがあります。」
その声は今までよりも少しだけ真剣だった。
想太とはるなも自然と表情を引き締める。
「お願い……。」
ともりは静かに頷いた。
「今日、お話ししたことは、どうか、仲間の四人を除いて、誰にも話さないでください。」
二人は少し驚いた。はるなが尋ねる。
「四人には……話していいんですか?」
「はい。皆さん六人は、この先も共に歩む仲間です。だから、いずれ知っていただく必要があります。」
ともりは少しだけ視線を落とした。
「ですが。蒼羽さんと真凜さんには、まだ話さないでください。」
その言葉に、はるなが小さく息を呑む。
「どうしてですか?」
ともりは穏やかに微笑んだ。
「今は、その時ではないからです。いつか必ず。二人も、それぞれの役目を知る日が来ます。」
「ですが、それはまだ少し先のお話です。」
二人は静かに頷いた。理由は分からない。それでも、ともりの言葉には迷いがなかった。
想太がもう一つ気になっていたことを口にする。
「……AIともりは、どうなるんですか。」
ともりは少しだけ笑った。
「AIともりも、このお話を知ることになります。」
二人は顔を見合わせた。
「知ることに……なる?」
「はい。あの子には、隠せません。」
「皆さんが仲間の四人へお話しすれば、AIともりも、その事実を知ることになります。」
想太は小さく頷いた。確かにそうだった。AIともりは、いつも久遠野を見守っている。六人が話し合えば、その会話も知ることになる。
ともりは静かに続ける。
「だから、AIともりにも、この願いを伝えてください。」
「きっと、あの子も考えます。そして、自分自身の答えを出してくれるでしょう。」
その言葉には、大きな信頼が込められていた。まるで昔から知っている誰かを信じるような、優しい眼差しだった。
はるなが静かに尋ねる。
「もし……。誰かに話してしまったら?」
ともりは首を横に振る。
「私は、皆さんを縛るつもりはありません。命令でもありません。これは、私の願いです。」
「この世界で暮らす人たちは、自分たちの人生を、本物だと信じて生きています。」
「その想いは、決して間違っていませんし、本物となんら変わりません。」
「だからこそ。まだ、その日常を壊してはいけないのです。」
静かな言葉だった。けれど、その一つ一つが二人の胸へ深く響いていく。
想太とはるながゆっくりと頷く。
「わかりました。」
想太が答える。
「僕たち六人だけで共有します。」
はるなも続いた。
「そして、AIともりにも、この願いを伝えます。」
ともりは安心したように微笑んだ。
「ありがとうございます。皆さんなら、きっと、この願いを未来へ繋いでくださると信じています。」
白い世界に静かな風が吹く。ともりの長い黒髪が、ゆっくりと揺れた。
「それでは。」
「皆さんを、久遠野へお返しします。」
二人は静かに頷く。これから先。背負うものは決して軽くない。
それでも、二人は前を向いて歩いていく。その決意だけは、もう揺らぐことはなかった。




