#067 「久遠野という世界」
白い世界。静かな時間だけが流れていた。ともりは二人を見つめ、ゆっくりと口を開く。
「それでは、お話しします。」
「まずは、この世界について。」
想太とはるなは静かに頷いた。
ともりは一歩前へ歩く。
その瞬間。真っ白だった世界に、小さな光が浮かび上がった。一つ、また一つ。
やがて無数の光が広がり、まるで夜空の星のように白い世界を埋め尽くしていく。
「綺麗……。」
はるなが思わず声を漏らした。
ともりは静かに微笑む。
「これは、久遠野です。」
二人は息をのむ。
「久遠野……?」
「はい。」
「あなたたちが生まれ、育ち、暮らしてきた世界です。」
光の一つ一つが街となり、山となり、川となり、人々の暮らしを映し出していく。
学校。神社。商店街。レゾネーターが眠る旧図書館。すべて見慣れた景色だった。
想太は小さく呟く。
「本当に……久遠野だ。」
ともりは静かに頷いた。
「ですが。この世界には、一つだけ、あなたたちがまだ知らない真実があります。」
二人は自然と息を呑む。ともりは二人の目を真っ直ぐ見つめた。
「久遠野は――」
一瞬だけ、静寂が訪れる。
「シミュレーション世界です。」
その一言だけが、白い世界へ静かに響いた。
二人は言葉を失う。
「……え?」
はるなが小さく呟く。
想太も理解が追いつかない。
「シミュレーション……?」
「ゲーム……みたいな?」
ともりは首を横に振る。
「いいえ。皆さんが生きている世界です。」
「喜びも。」
「悲しみも。」
「出会いも。」
「別れも。」
「すべて本物です。」
その言葉には、一切の迷いがなかった。
だからこそ、二人は余計に混乱した。想太が静かに尋ねる。
「じゃあ……僕たちは、本当に生きているんですか。」
ともりは優しく微笑む。
「もちろんです。命に、本物も偽物もありません。あなたたちは確かに生きています。」
「笑い。」
「悩み。」
「誰かを大切に思う。そのすべてが、本物です。」
その言葉を聞いて、はるなは少しだけ肩の力を抜いた。
「……よかった。」
その一言に、ともりも優しく笑う。
「だから。」
「どうか、自分たちの世界を偽物だとは思わないでください。」
「皆さんが歩いてきた人生は。」
「誰にも否定できない、大切な時間です。」
白い世界に静寂が戻る。
想太とはるなは、目の前に広がる久遠野を見つめていた。今まで見てきた景色。友達と笑い合った日々。学校生活。祭り。祠。そのすべてが、本物だった。
だからこそ。世界の真実は、あまりにも大きかった。
ともりは静かに二人へ微笑む。
「これが、久遠野という世界です。」
「そして。」
「ここから先が、本当にお話ししたいことです。」
二人は静かに頷いた。まだ何も理解できてはいない。それでも。最後まで聞こう。そう心に決めていた。




