#066 「七人の約束」
白い世界。どこまでも続く静寂の中、ともりは二人を優しく見つめていたその表情は、長い間待ち続けていた誰かにようやく会えた少女のようだった。
想太が小さく息を吐く。
「……あなたは。」
少女は静かに微笑む。
「私は、ともり。」
はるなが首をかしげる。
「ともり……。」
「はい。」
「AIのともりとは違うんですか?」
その問いに、ともりは少しだけ考えるように目を閉じ、ゆっくりと頷いた。
「違います。AIともりとは、別の存在です。」
想太とはるなは顔を見合わせた。その意味は、まだ理解できなかった。
ともりは申し訳なさそうに笑う。
「ごめんなさい。きっと、今はわからなくて当然なんです。だから、焦らなくて大丈夫ですよ。」
その優しい声に、不思議と心が落ち着いていく。まるで昔から知っている人と話しているような安心感があった。
ともりは改めて二人を見つめる。
「まずは、お礼を言わせてください。」
想太が目を丸くする。
「お礼……ですか?」
「はい。」
ともりはゆっくりと頭を下げた。
「ここまで来てくださって、本当にありがとうございました。」
突然のお礼に、はるなは慌てて首を振る。
「い、いえ……。私たち、何もしてません。」
ともりは穏やかに微笑んだ。
「そんなことはありません。お二人は、ちゃんとここまで来てくれました。」
「それだけで十分なんです。」
その言葉の意味は、やはりわからない。それでも、嘘を言っているようには思えなかった。
想太が一歩前へ出る。
「ここは、一体どこなんですか?」
「僕たちはどうしてここへ来たんですか?」
「レゾネーターは何なんですか?」
質問が次々と溢れてくる。ともりは困ったように笑った。
「たくさんありますね。」
「でも、大丈夫です。」
「今日は、ちゃんとお話しします。」
「……全部ではありませんけど。」
最後の一言だけ、少しいたずらっぽかった。
はるなが思わず笑う。
「全部じゃないんですね。」
「はい。」
「全部話してしまうと、楽しみがなくなってしまいますから。」
その言い方は、どこか親しみがあった。不思議な安心感だけは、確かにそこにあった。ともりは静かに視線を上げる。白しかない世界なのに、どこか遠くを見つめているようだった。
「昔。」
静かな声が響く。
「七人で、一つの約束をしました。」
想太が聞き返す。
「七人……?」
ともりはゆっくり頷く。
「はい。」
「誰一人、取り残さないこと。」
短い言葉だった。けれど、その一言には長い年月が込められているように感じられた。
はるながそっと尋ねる。
「その七人って……。」
ともりは穏やかに微笑む。
「それは、もう少し先のお話です。今はまだ、その時ではありません。」
二人はそれ以上聞かなかった。聞いても答えは変わらない。そんな気がしたからだった。
ともりは二人へ向き直る。
「どんな世界になっても、どんな人生を歩んでも、最後には、また会いましょう。」
「それが、七人の約束でした。」
その言葉は、不思議と懐かしく響いた。初めて聞くはずなのに。なぜか胸の奥が少しだけ温かくなる。
ともりは満面の笑みを浮かべた。
「そして今日。」
「その約束へ、一歩近づくことができました。」
少しだけ目を潤ませながら、本当に嬉しそうに笑う。
「だから私は――」
「今、とても幸せです。」
白い世界に、優しい静寂が流れていた。その言葉の本当の意味を知る日は、まだ少し先になる。




