#063 「観測の途絶」
二人は静かにレゾネーターの前へ立った。背後では、要たち四人がその様子を見守っている。地下旧図書館には、機械が発する低い駆動音だけが響いていた。
想太が小さく息を吐く。
「……行こうか。」
はるなは静かにうなずいた。
「うん。」
二人は同時に、一歩前へ踏み出す。その瞬間だった。レゾネーターの青白い光が、大きく揺らぐ。
「……!」
地下室全体に低い振動が走った。円柱の表面を走る無数の光の筋が、一斉に輝きを増していく。
まるで長い眠りから目覚めるように。レゾネーターは静かに起動を始めた。
「反応した!」
美弥が思わず声を上げる。
要も目を見開く。
「今までとは違う……。」
装置の中心から淡い光が広がり始める。それは床へ。壁へ。天井へ。地下室全体を包み込むように、ゆっくりと広がっていった。
想太とはるなが顔を見合わせる。どちらも、不思議なほど恐怖は感じていなかった。
むしろ、どこか懐かしい。そんな感覚だった。
「はるな。」
「うん。」
その短い返事を最後に、光が、一気に弾けた。視界が真っ白になる。音が消える。重力すら感じない。
身体が浮かんでいるのか、立っているのか、それさえ分からない。
ただ、白だけが続いていた。
一方、その瞬間。研究室のモニターでは、AIともりが高速で解析を続けていた。
『レゾネーター出力、急激に上昇。』
『空間歪曲を観測。』
『観測対象を追跡します。』
画面上を無数の情報が流れていく。次の瞬間。すべての数値が止まった。
『観測対象:灯野はるな』
『観測対象:成瀬想太』
『位置情報取得不能』
『観測対象をロストしました』
地下室に静寂が訪れる。
「……え?」
美弥が小さくつぶやく。
いちかの笑顔が消えた。
「ロスト……?」
要はモニターを見つめたまま動かない。隼人も思わず拳を握り締める。誰も、その言葉の意味を理解できなかった。
一方――。
はるなは、ゆっくりと目を開く。視界いっぱいに広がる白。空も、地面も、境界さえ存在しない。
静寂だけが広がる、不思議な世界だった。
隣では、想太もゆっくりと目を開く。二人は互いの姿を確認すると、周囲を見渡した。
「ここ……。」
想太も息をのむ。
「どこなんだ……?」
二人の前には、どこまでも続く白い世界だけが広がっていた。




