#060 「次の扉」
放課後。夕暮れの街並みを、はるなと想太は並んで歩いていた。蝉の声も少しずつ静かになり、柔らかな風が二人の間を通り抜けていく。研究室を出てから、しばらく誰も口を開かなかった。考えることは同じだった。
地下施設。
レゾネーター。
そして。答えへ届かない、あと一歩。
「今日は疲れたね。」
はるなが小さく笑う。
「うん。」
想太も苦笑した。
「頭ばかり使った気がする。要君らしいよね。全部整理して、一つずつ考えて。でも。」
想太は空を見上げる。
「少しずつ近付いてる気はする。」
「そうだね。」
二人はゆっくり歩き続けた。住宅街へ入る頃。はるなが小さく立ち止まる。
「ねえ。」
「ん?」
想太が振り返る。
はるなは少しだけ迷うように視線を落とした。
「変な話なんだけど。」
「何?」
「まだ誰にも言ってないことがあるの。」
想太は静かに待った。
「昨日、地下でレゾネーターを見てた時急に思い出しかけたの。」
「何を?」
はるなはゆっくり息を吸う。
「夢じゃない。あの白い場所でもない。もっと前、小さい頃。」
想太の表情が変わる。
「声?」
「……うん。」
はるなは静かにうなずく。
「何か聞こえた気がした。でも、全部じゃないの。」
数秒沈黙が流れる。そして、はるなは小さくつぶやいた。
「一つだけ思い出した。」
想太は黙って続きを待つ。
「"想太と、二人で"」
風が吹く。夕焼けの光が二人を包む。想太は目を見開いたまま立ち尽くした。
「……それ実は。」
ゆっくりと言葉を選ぶ。
「僕も、地下で同じ感じがした。」
「え?」
「思い出せそうで思い出せない。でも、誰かが僕たちを呼んでる気がした。」
二人は顔を見合わせる。長い沈黙。
その沈黙を破ったのは、はるなだった。
「ねえ。一つだけ試してみない?」
「試す?」
「うん。」
はるなの瞳は真っ直ぐだった。
「今度、私と想太二人だけで、地下へ行ってみよう。」
想太は驚いた表情のまま、しばらく黙っていた。やがて静かに笑う。
「みんなには?」
「もちろん相談する。勝手には行かない。でも、このままじゃ何も変わらない気がする。」
想太はゆっくりとうなずいた。
「……そうだね。僕も同じことを考えてた。」
二人は再び歩き始める。夕日はゆっくりと街の向こうへ沈み始めていた。
まだ答えは見つからない。けれど、進むべき道だけは、はっきりと見えていた。
次に開く扉は六人ではない。二人だからこそ、開く扉なのかもしれない。
そんな予感だけを胸に。二人は静かな帰り道を歩き続けた。




