#059 「偶然の終わり」
翌日の放課後。研究室には静かな空気が流れていた。要はホワイトボードの前へ立ち、一枚の紙を貼り付ける。
「今日で、一度整理を終わろう。」
六人が自然と集まる。紙には、これまでの調査結果が時系列でまとめられていた。
幼少期の声。地下施設。レゾネーター。同じ夢。地下での既視感。反応なし。
「ここまで。」
要は静かに言った。
「全部を偶然として考えることもできる。」
隼人が苦笑する。
「いや、ここまで来ると無理だろ。」
美弥もうなずいた。
「一つなら偶然、二つでも偶然。でもここまで重なると偶然じゃ説明できない。」
要は静かに線を引く。すべての出来事が一本につながる。
「僕もそう思う。証明はまだできない。でも偶然という説明は、もう成り立たない。」
研究室は静まり返った。誰も反論しない。
ともりの声が響く。
『解析結果を更新します。各事象の独立性は低下しています。現在は関連事象として扱うことを推奨します。』
隼人が思わず笑う。
「AIまで同じ結論か。」
『はい。現時点では、その解釈が最も整合性を満たします。』
要は小さく息を吐いた。
「だったら次は、仮説じゃない答えを探す番だ。」
その言葉に、はるなの胸が小さくざわめく。
またあの白い世界。あの声。あと少し。あと少しだけで思い出せそうなのに。
放課後の光が研究室へ差し込む。想太も静かに窓の外を見つめていた。
「どうした?」
隼人が笑う。
「いや。」
想太は苦笑する。
「最近、何かを忘れてる気がする。」
その一言で。はるなは思わず想太を見る。二人の視線が重なる。その瞬間。胸の奥で。一つの言葉が浮かびかける。
――想太と。
だが、そこから先だけが思い出せない。
「……。」
はるなは静かに目を閉じる。
要はホワイトボードの最後へ、小さく一行だけ書き加えた。
偶然ではない。
その文字を見つめながら、六人は誰一人言葉を発しなかった。もう誰も、偶然だとは思っていない。けれど。その先へ進む方法だけは、まだ見えていなかった。




