#057 「開かない扉」
翌日の放課後。六人は旧校舎の廊下を静かに歩いていた。向かう先は、旧図書館地下。誰も無駄な会話はしない。昨日までに積み重ねた仮説を、自分たちの目で確かめるためだった。
重い扉を開ける。薄暗い地下通路には、いつもの静寂が広がっていた。足音だけが、静かに響いていく。
「何回来ても。」
隼人が周囲を見回す。
「初めて来た気がしないな。」
「私も。」
美弥が小さくうなずいた。六人はやがて広い空間へたどり着く。部屋の中央には、静かに佇む白い円柱。レゾネーター。変わらない。昨日も、今日も。ただ、そこにあるだけだった。
「……。」
要はゆっくりと装置の周囲を歩く。
「変化は無い。電源らしいものも見当たらない。操作盤も表示も。」
いちかが首を傾げる。
「これ、本当に機械なのかな。」
『外観からは判断できません。』
ともりが答える。
『昨日取得したデータとの差異も確認できません。』
はるなは静かにレゾネーターを見つめた。胸の奥が、わずかにざわつく。懐かしいような。寂しいような。そんな感覚。
しかし、それ以上は何も起きない。想太も一歩前へ出る。円柱へ近づく。それでも。何も変わらない。
「動かないね。」
美弥が小さくつぶやいた。
「……ああ。」
隼人も肩をすくめる。
「やっぱり仮説は外れだったのかな。」
その言葉に要は首を横へ振った。
「いや外れとはまだ言えない。何も起きなかったそれも一つの結果だ。」
六人はもう一度、装置の周囲を調べ始める。
壁。床。天井。古い配線。傷跡。何か手掛かりはないか。時間だけが静かに過ぎていく。
やがて。
『観測を終了します。』
ともりの声が響いた。
『新たな変化は確認できませんでした。』
沈黙。その静けさの中で。はるなはレゾネーターを見つめたまま、小さく目を閉じた。白い世界。柔らかな光。そして。遠くから聞こえた、あの声。
――想太と、二人で。
はるなは静かに目を開く。
「……。」
誰にも聞こえないほど小さく息をのんだ。
「はるな?」
想太が不思議そうに見る。
「どうした?」
はるなは少しだけ迷った。今、言うべきだろうか。それとも。自分の思い違いなのだろうか。数秒の沈黙。そして、小さく首を横へ振る。
「……ううん何でもない。」
その言葉に、想太はそれ以上聞かなかった。地下室を後にしようとした時。はるなはもう一度だけ振り返る。静かなレゾネーター。まるで、誰かを待ち続けているようだった。
その姿が、なぜか心に引っかかった。六人は地下室を後にする。今日も何も起きなかった。
だが、はるなの胸の中には、一つだけ消えない言葉が残っていた。
――想太と、二人で。
その意味を知る日は、まだ少し先だった。




