#056 「仮説という光」
翌日の放課後。
研究室には昨日と同じ六人が集まっていた。
ホワイトボードには、要が書き残した言葉がそのまま残っている。
幼少期の声
同じ夢
地下施設
誰も口を開かない。
静かな時間が流れる。
やがて要が立ち上がり、ホワイトボードの前へ歩いた。
「昨日、みんなの記憶を整理した。今日は、その続きをやる。」
ペンを手に取る。
「ここまでは全部、事実だ。」
要は一つずつ丸で囲んでいく。
「地下施設は存在する。レゾネーターも存在する。幼い頃から声を聞いていた人がいる。地下で既視感を覚えた。そして――。」
一度だけ視線を上げる。
「はるなと想太だけが、同じ夢を見た。」
研究室は静まり返った。
要はホワイトボードの中央へ一本の線を引く。
それぞれの項目を一つの場所へ集めるように結んでいく。
「今まで僕たちは、全部別々の出来事として考えていた。でも。もし、一つの現象だとしたら?」
隼人が腕を組む。
「全部繋がってるってことか。」
「可能性はある。」
要は静かに答えた。
「夢も。」
美弥が続ける。
「地下も子どもの頃の声も全部。」
「そう。」
要はうなずいた。
「原因が一つなら、説明できることが増える。」
『解析を開始します。』
研究室のスピーカーから、ともりの声が響いた。
画面には解析結果が表示される。
『統合仮説を生成しました。』
全員が画面を見る。
『現在確認されている各現象を個別事象として扱うより、一つの原因から派生した現象と考えた方が整合性は高くなります。』
「つまり。」
隼人が画面を見る。
「レゾネーターが中心ってことか。」
『現時点では、その可能性を否定できません。』
ともりは静かに答えた。
『ただし、証明はされていません。』
要はペンを置いた。
「そう。これは答えじゃない仮説だ。」
誰も反論しない。まだ証拠はない。だが昨日までより、確かに前へ進んでいた。しばらく沈黙が続く。
その時。はるなが静かに微笑んだ。
「でも。」
全員が彼女を見る。
「昨日までは、何も見えなかった。でも今は少しだけ前が明るくなった気がする。」
研究室に穏やかな空気が流れる。
要も小さく笑った。
「僕もそう思う。仮説は、正しいかどうかより次に何を調べるかを教えてくれる。」
『その考え方は、科学的手法と一致します。』
ともりが静かに付け加えた。
『仮説は、結論ではありません。検証するための出発点です。』
その言葉に六人は自然とうなずいた。
要はホワイトボードを見つめたまま言う。
「だったら確かめよう。もう一度地下へ行く。」
隼人が立ち上がる。
「決まりだな。今度は思い込みじゃない。」
美弥が続ける。
「ちゃんと観察してちゃんと記録する。」
「そして。」
いちかが笑顔で言った。
「みんなで考える。」
はるなはホワイトボードを見つめる。一本の線で結ばれた、いくつもの出来事。まだ確信はない。けれど。その線の先には、確かに何かが待っている。
六人は静かに立ち上がった。向かう先は、旧図書館地下。答えを探すためではない。自分たちの仮説を、自分たちの手で確かめるために。




