#055 「重なる記憶」
翌日。
放課後の研究室には、いつもの六人が集まっていた。
ホワイトボードには昨日のまま残された文字が並んでいる。
幼少期の声
同じ夢
地下施設
それぞれが一本の線で結ばれていた。
「今日は地下へ行くんじゃなかったか?」
隼人が荷物を机へ置きながら尋ねる。
「行くよ。」
要は静かにうなずいた。
「でも、その前に確認したいことがある。」
そう言ってホワイトボードの前へ立つ。
「昨日、僕たちは"現象"を整理した。今日は"記憶"を整理したい。」
「記憶?」
美弥が首を傾げる。
「うん。今まで、それぞれが感じてきた違和感を話してほしい。小さなことでもいい。あとになって意味を持つかもしれない。」
研究室が静かになる。
最初に口を開いたのは、はるなだった。
「私は……。」
「小さい頃から、あの声を聞いたことがある。姿は見えなくて。でも、不思議と怖くなかった。それと。」
一度言葉を切る。
「この前の夢。白い場所。想太も同じ夢を見たんだよね。」
「……ああ。」
想太は静かにうなずく。
「内容も景色も同じだった。目が覚めた後の感覚まで。でも。」
少し考え込む。
「それより前から地下には妙な懐かしさを感じてた。初めて行った場所なのに。知ってる気がした。」
「俺も。」
隼人が手を挙げる。
「夢は見てない。でも地下へ入った瞬間。初めてじゃない気がした。デジャヴっていうのかな。」
「私も似てる。」
美弥が続く。
「怖い場所じゃなくて。どこか帰ってきた感じ。説明できないけど。」
いちかもうなずいた。
「私は地下じゃなくて。みんなと一緒にいる時。何だか安心する。理由は分からないけど。」
要は全員の話を書き留めていく。
少し考えてから、自分も口を開いた。
「僕も地下で違和感を覚えた。理屈では説明できない。でも。説明できないから存在しないとは言えない。」
全員の視線がホワイトボードへ集まる。
『解析結果を表示します。』
ともりの声が静かに響いた。モニターには簡単な一覧が表示される。
『共通点を抽出しました。』
要が画面を見る。
「共通点?」
『六名全員に地下施設に対する既視感が存在します。程度に差はありますが、全員が未知より既知として認識しています。』
「つまり。」
隼人が腕を組む。
「全員何か感じてるってことか。」
『はい。しかし、一つだけ例外があります。』
研究室の空気が少しだけ張り詰めた。
「例外?」
『夢です。完全に一致した夢を確認しているのは、はるなさんと想太さんのみ。』
全員が二人を見る。
はるなは少し照れたように笑う。
「そう言われると、不思議だね。偶然かな。」
要は静かに首を横へ振った。
「偶然かどうかはまだ分からない。でも。唯一、二人だけに起きている現象だ。」
その言葉に研究室は静まり返る。
想太はゆっくり目を閉じた。白い世界。静かな光。そして。誰かが何かを伝えようとしていた。
「……。」
あと少しで思い出せそうなのに。そこだけが霧のように霞んでいる。同じ頃。はるなも胸の奥に小さな違和感を覚えていた。夢の最後。誰かが話しかけていた気がする。けれど、その言葉だけが思い出せない。
「どうしたの?」
美弥が優しく尋ねる。
「ううん。」
はるなは小さく首を振る。
「あと少しで思い出せそうなんだけど……。思い出せないの。」
要はホワイトボードを見つめながら静かにつぶやいた。
「なら。その答えは、地下にあるのかもしれない。」
誰も否定しなかった。六人は静かに立ち上がる。向かう先は、旧図書館地下。昨日までとは違う。今度は仮説を確かめるために。
六人は静かに研究室を後にした。その足取りは、昨日までよりも少しだけ確かなものになっていた。




