#054 「残響を追って」
翌日の放課後。
いつものように旧校舎の研究室へ集まった六人は、それぞれ机に資料やノートを広げていた。
「さて……。」
要はホワイトボードの前へ立ち、黒いペンを手に取る。
「昨日までに分かったことを、一度整理しよう。」
全員が静かにうなずいた。要は一つずつ項目を書き始める。
――地下旧図書館。
――レゾネーター。
――幼い頃から聞こえていた声。
――同じ夢。
――ともりの観測結果。
「まず、地下施設は実在する。」
「うん。」
隼人が短く答える。
「そして、あの円柱……レゾネーターと仮に呼んでいる装置も存在する。」
「問題は、その役割だね。」
美弥が腕を組む。
「まだ何も分かってない。」
「そう。」
要は次の文字を書く。
――同じ夢。
「昨日、一番気になったのはここだ。」
はるなと想太は自然と顔を見合わせた。
「あの夢。」
はるなが静かに口を開く。
「白い空間……だったよね。」
「……ああ。」
想太もゆっくりとうなずく。
「景色も、会話も、目が覚めた後の感覚まで同じだった。」
「普通ならあり得ない。」
要は小さく息を吐く。
「夢は個人の体験だ。二人が完全に同じ夢を見る確率なんて、ほぼゼロに近い。」
「つまり。」
いちかが小首を傾げる。
「偶然じゃないってこと?」
「少なくとも、偶然だけでは説明しにくい。」
要はそう答えた。
その時だった。
『興味深いですね。』
研究室のスピーカーから、ともりの声が静かに響く。
「ともり。」
美弥が画面を見る。
『夢の共有現象について検索・解析を継続しています。現代医学・心理学において類似事例は存在しますが、本件ほど一致率の高い事例は確認できません。』
「つまり?」
隼人が聞く。
『現時点では説明不能です。』
短い沈黙が流れる。要はホワイトボードへ新しい矢印を書いた。
同じ夢
↓
レゾネーター?
「仮説だけど。」
要は振り返る。
「この二つは繋がっている可能性がある。夢を見た後に地下施設を見つけたんじゃない。地下施設があったから、夢を見たのかもしれない。」
「逆ってこと?」
真剣な表情で美弥が尋ねる。
「まだ分からない。でも順番は重要だ。」
その時、いちかが思い出したように言った。
「そういえば。はるなちゃん、小さい頃にも地下で変な声を聞いたって言ってたよね?」
「うん。」
はるなはゆっくりとうなずく。
「夢を見る前から……何度か。」
「僕も。」
想太も続けた。
「同じ頃だったと思う。」
研究室が静まり返る。
要はホワイトボードにもう一つ書き加えた。
幼少期の声
↓
同じ夢
↓
地下施設
「全部、一本につながっている。」
誰も否定できなかった。
隼人が椅子にもたれながら笑う。
「なんかさ。本当に推理してるみたいだな。」
「でも。」
美弥は小さく笑い返す。
「少しずつだけど前に進んでる。」
「そうだね。」
はるなも自然と笑顔になる。
「昨日より、ちゃんと形になってきた気がする。」
『私も同じ見解です。』
ともりの声が静かに続く。
『断片的だった情報が、少しずつ一つの事象として収束し始めています。しかし、決定的な証拠はまだ存在しません。』
要はペンを置いた。
「だから次は。もう一度地下へ行こう。今度は思い込みじゃなく。観察する。調べる。そして記録する。」
五人がうなずく。
その瞬間だった。はるなの胸に、ほんの一瞬だけ小さな違和感が走った。白い世界。静かな光。誰かの声。だが、それは言葉になる前に消えてしまう。
「……どうした?」
想太が気づいて尋ねる。
「ううん。」
はるなは首を横に振り、微笑んだ。
「何でもない。」
けれど、その小さな残響だけは、確かに心の奥へ残っていた。




