↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
52/89

#052 「応援したい理由」

 放課後。研究室の扉が勢いよく開いた。


「先輩!」

 蒼羽が元気いっぱいに飛び込んでくる。その後ろから、真凜も少し困ったような表情で続いた。


「どうしたの?」

 はるなが笑顔で迎える。


「今日、ずっと見られてました!」

「知ってる。」

「パンももらいました!」

「それも見てた。」

「廊下で手を振ったら逃げられました!」

「それも見てたよ。」


 蒼羽は首を傾げる。

「どういうことなんですか?」

 研究室に小さな笑いが広がる。


「人気者になったんだよ。」

 美弥が優しく答えた。

「人気者?」

「みんな、二人のことが好きなんだと思う。」

 いちかも頷く。


 蒼羽は真凜を見る。

「真凜、人気者なんだって。」

「蒼羽もだよ。」

「私も?」

「そう言ってたでしょ。」

「どうして?」

 二人は本気で分からない様子だった。


 要は少し考えてから静かに話し始める。

「学園祭の祝詞。転校してきた二人のことを、多くの生徒が知った。」


「でも。」

 要は少しだけ微笑んだ。

「それだけじゃない。」


「え?」

「今日の蒼羽は、最後のクリームパンを譲ってもらった。」

「はい。」

「でも、自分だけで食べようとはしなかった。」

「半分こした方が、二人とも幸せだから。」

 蒼羽は当たり前のように答えた。


 要は静かに頷く。

「そういうところだ。」


 蒼羽はさらに首を傾げた。

「そういうところ?」


「自分では普通だと思っていることが、周りには特別に見えることもある。」


 真凜は少し考え込む。

「難しいね。」

「難しいです。」

 二人は同時に頷いた。

 六人は思わず笑ってしまう。


 一方、その頃。

 教室では女子生徒たちが楽しそうに話していた。

「今日もかわいかったね。」

「クリームパン半分こって反則だよ。」

「分かる!」


「でもさ。」

 一人が少し真面目な表情になる。

「私、かわいいだけじゃないと思う。」


「うん。」

「話しかけると、ちゃんと目を見て笑ってくれる。」

「先輩とか後輩とか関係ないよね。」

「偉そうにしないし。」


「困ってる人を見ると、すぐ助けようとするし。」

 別の女子生徒が頷いた。


「だから応援したくなる。」

 一瞬、教室が静かになる。

「……そうかも。」

「うん。」

「なんか放っておけないんだよね。」

 その一言に、全員が自然と笑顔になった。


 翌日。昼休み。校舎の掲示板に、一枚の紙が貼られていた。

『蒼羽ちゃん・真凜ちゃんを応援する会』

 その下には。

『新入会員募集中』

 さらに、小さな文字で。

『本人たちには秘密です』

 と書かれている。


「これでいい?」

「うん!」

「絶対本人には言っちゃだめだからね!」

「もちろん!」

 女子生徒たちは満足そうに頷いた。


 その時だった。

「こんにちは!」

 聞き慣れた明るい声。全員がゆっくり振り返る。そこには。蒼羽と真凜が並んで立っていた。


「あっ。」

 蒼羽は掲示板を見つめる。

「真凜。」

「うん。」

「私たちの名前だ。」

「そうだね。」

「応援する会って何?」

「……私にも分からない。」


 数秒の沈黙。そして。

「きゃあああああっ!」

 女子生徒たちは一斉に走り去っていった。廊下には蒼羽と真凜だけが残る。


「また逃げた。」

「また逃げたね。」

「追いかける?」

「やめた方がいいと思う。」

「そっか。」

 二人は掲示板を見上げたまま、小さく笑った。応援される理由は、本人たちにはまだ分からない。けれど。その笑顔も。その優しさも。誰かを思いやる当たり前の気持ちも。きっと、それが理由だった。

 地下施設の謎とは違う。レゾネーターとも関係ない。それでも。この学校で生まれた小さな「応援したい」という気持ちは、静かに広がり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。