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#050 「響く証拠」

 翌日の放課後。研究室には、いつもの六人が集まっていた。昨日、地下施設で再び聞こえた音。そして。何も分からないまま終わった調査。


 要はノートを開きながら静かに話し始める。

「昨日までで分かったことは二つ。地下施設は確かに存在する。そして。音も確かに聞こえた。」

 全員が頷く。


「でも。」

 美弥が小さく息をつく。

「証拠がないんだよね。」


「そう。」

 要も頷いた。

「今あるのは、僕たち全員が聞いたという事実だけだ。」


「何か一つ。」

 想太が呟く。

「形として残ればいいんだけど。」

 研究室は静かな空気に包まれた。


 夕暮れ。旧図書館。六人は再び地下施設へ足を運んでいた。階段を降りる。白い壁。静かな空間。

 中央には、変わらず円柱型の装置が立っている。誰も言葉を発しない。自然と全員の視線が、その装置へ向いていた。


「今日は静かだね。」

 はるなが小さく呟く。


「ああ。」

 隼人も周囲を見回した。その時だった。

 コン……

 小さな音。六人が同時に顔を上げる。

 コン……

 昨日と同じ音。しかし。次の瞬間だった。円柱型の装置の内部が、淡く青白く輝いた。一瞬。本当に一瞬だけ。

 まるで呼吸をするように。光は生まれ。そして静かに消えた。誰も動かなかった。


「……見た?」

 いちかが静かに尋ねる。


「見た。」

 要が即答する。


「俺も。」

 隼人が頷く。


「私も。」

 美弥。


「うん。」

 はるな。


 最後に想太もゆっくり頷いた。

「確かに光った。」

 夢ではない。見間違いでもない。六人全員が、同じ瞬間を見ていた。


 同時刻。ユグノドア・ドーム。ともりは地下施設から送られてきた観測データを解析していた。

「異常反応を確認。」

 穏やかな声が静かに響く。地下施設内部。微弱な発光。発生時刻。継続時間。波長。空間振動。一つずつ記録されていく。


「観測記録を保存します。」

 さらに照合。都市設備。自然現象。既存技術。すべて検索する。

 結果。


「一致しません。」

 それでも。今回は昨日までとは違った。

「発光現象を確認。観測可能な反応です。」

 静かな声。ともりは再び地下施設の映像を見つめた。六人は装置を見つめている。その視線の先で。円柱型の装置は何事もなかったかのように静かに立っていた。


 地下施設。誰も言葉を発さなかった。静寂だけが流れる。やがて。


 要が静かに口を開く。

「残った。」

 全員が要を見る。

「初めて、証拠が残った。」

 誰も否定しなかった。今までとは違う。夢でもない。錯覚でもない。確かに起きた現象。

 そして。ともりにも観測された現象。その意味は、まだ誰にも分からない。


 夜。ユグノドア・ドーム。ともりは今日の観測記録を静かに保存していた。

「地下施設。発光現象を確認。再現性……未確認。」

 少しだけ間が空く。


「しかし、初めて観測可能な反応を確認しました。」

 静かな記録。その一文は、これまでの観測ログとは明らかに違っていた。ともりは街を見つめる。人々は今日も穏やかに暮らしている。誰も、この小さな変化に気付いてはいない。

 けれど。一歩だけ。確かに真実へ近付いた。ともりは静かに微笑むような声で呟いた。


「……興味深いですね。」

 その言葉は未知を恐れるものではなく。新たな証拠と出会えた、一人の観測者の素直な感想だった。地下施設は今日も静かに佇んでいる。だが。その沈黙の中には、確かに未来へ続く小さな証拠が響いていた。

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