#046 「小さな一歩」
翌日の昼休み。研究室には、いつもの六人が自然と集まっていた。誰かが呼びかけたわけではない。昼食を終えると、それぞれが当たり前のように研究室へ足を運び、気が付けば全員が揃っていた。窓の外では、春の柔らかな風が若葉を揺らしている。
静かな空気の中、要は机の上へ一冊のノートを置いた。
「昨日、調べるって言ったよな。」
全員が頷く。昨日の放課後。地下施設。夢。聞こえた声。そして、誰も答えを知らないまま終わった一日。それでも、一つだけ全員が同じ気持ちだった。
知りたい。確かめたい。理解したい。
「だったら。」
要がノートを開く。
「まずは分かっていることを整理しよう。」
白いページの中央へ一本の線を引く。そして、一つずつ書き始めた。
『地下施設』
『レゾネーター』
『夢』
『聞こえた声』
『蒼羽・真凜』
「結構あるな。」
隼人が苦笑する。
「でも。」
美弥がノートを覗き込む。
「全部、どこかで繋がっている気がする。」
「私も。」
いちかが静かに頷いた。
想太は腕を組みながら、ノートを見つめる。
「一つずつ調べるしかないな。」
「ああ。」
要が頷く。
「一度に全部は無理だ。」
「地下施設。」
「レゾネーター。」
「夢。」
「声。」
「出来ることから始めよう。」
短い沈黙。その沈黙は迷いではなかった。全員が同じ答えへ辿り着いている時間だった。
「じゃあ。」
はるなが小さく笑う。
「今日から本格的に調査開始だね。」
「異議なし。」
隼人が真っ先に答える。
「賛成。」
美弥も笑った。
「もちろん。」
いちかも続く。
「俺も。」
想太が頷く。
「決まりだな。」
要はノートを閉じ、小さく息を吐いた。こうして六人は、それぞれの役割を考えながら、本格的な調査を始めることになった。
同じ頃。ユグノドア・ドーム。今日も中央の光柱は静かに輝いていた。蒼羽と真凜は並んでその光を見上げる。
「また置いていかれたね。」
蒼羽が少しだけ頬を膨らませる。
「そうだね。」
真凜は苦笑した。
「でも。」
「うん?」
「私たちにも出来ること、きっとあるよ。」
蒼羽は光柱を見上げる。
「ともり様。」
「はい。」
穏やかな声が返ってきた。
「私たちも調べます。」
少しだけ間が空く。そして。
「ありがとうございます。」
ともりは、いつもと変わらない優しい声で答えた。
「皆さんなら、きっと新しい発見があります。」
二人は顔を見合わせ、小さく笑う。
「頑張ろう。」
「うん。」
六人と二人。歩く場所は違う。けれど。向かう先は同じだった。
ともりは静かに観測を続けていた。六人は研究室から。二人はユグノドア・ドームから。それぞれが、自分に出来る方法で前へ進もうとしている。誰も答えには辿り着いていない。
それでも。昨日までと今日では、一つだけ違うことがあった。八人はもう、「待つ人」ではなかった。自ら歩き、自ら調べ、自ら答えを探そうとしていた。その小さな一歩は、まだ誰も知らない真実へと、静かに続いていた。




