#043 「約束」
翌日の放課後。研究室にはいつもの八人が集まっていた。窓の外では夕陽が校舎を赤く染めている。地下室。夢。声。ノイズ。そしてAIともりの言葉。
それぞれが違う形をしていた。けれど。全てが同じ方向を向いているような気がしていた。
「結局」
隼人が言う。
「何も分かってないんだよな」
「そうね」
美弥が苦笑する。
「でも何かある」
蒼羽が即座に答えた。
「そこは全員一致」
真凜も頷く。
研究室に小さな笑いが広がった。少しだけ空気が軽くなる。
その時だった。
「じゃあさ」
蒼羽が身を乗り出す。
「次は私たちも行く!」
一瞬。研究室が静かになった。
「どこへ?」
想太が聞く。
「地下室!」
元気な返事だった。
「だめだ」
要が即答する。
「また!?」
蒼羽が立ち上がる。
「どうして!」
「危ないからだ」
「だから何が!」
「それが分からない」
要は真面目な顔だった。蒼羽の勢いが少しだけ止まる。
「でも、だからだ」
今度は隼人が言った。
「分からないから危ない」
「……」
「安全だとも言えない」
蒼羽は返事ができなかった。
すると。
「私も反対」
美弥が言う。
蒼羽が振り返る。
「美弥先輩まで?」
「地下室の正体が分からない以上、連れて行けない」
その声は穏やかだった。けれど。冗談ではなかった。
「真凜は?」
蒼羽が助けを求めるように聞く。真凜は少し考えた。そして。
「私は行きたい」
「ほら!」
「でも」
真凜は続ける。
「先輩たちの言うことも分かる」
蒼羽が固まる。
「真凜まで!?」
「だって危ないかもしれないし」
あまりにも冷静だった。研究室に笑いが広がる。
しばらくして。笑いが落ち着いた頃。
はるなが静かに口を開いた。
「蒼羽」
「なに?」
「私たちが行く」
短い言葉だった。
「だから」
はるなが続ける。
「待っていて」
蒼羽は少し黙った。冗談ではないことが分かる。はるなの表情が真剣だったから。
「……」
何か言おうとして。結局言葉にならない。
その代わり。
「分かった」
小さく頷いた。真凜も静かに頭を下げる。
「お願いします」
その返事に。
要が少しだけ安心したように息を吐いた。
「じゃあ決まりだな」
要が言う。全員が顔を上げる。
「何かあったら報告する」
「夢も?」
真凜が聞く。
「夢も」
美弥が答えた。
「声も?」
蒼羽が続ける。
「声も」
隼人が頷く。
「違和感も」
はるなが言う。
「地下室も」
想太が続ける。
「怖かったら相談」
いちかが小さく付け加えた。
蒼羽は少し笑った。
「それって約束?」
「ああ」
要が答える。
「約束だ」
蒼羽は真凜を見る。真凜も頷く。
「分かった」
「私も!」
元気な返事だった。
夕陽がゆっくり沈んでいく。研究室を出た八人は並んで歩いていた。誰も真実を知らない。地下室の正体も。声の主も。夢の意味も。まだ分からない。
それでも。八人は同じ方向を向いていた。何かあれば共有する。一人で抱え込まない。
そして。危険な場所へは六人が向かう。蒼羽と真凜は待つ。
それは今の彼らにとって、ごく自然な約束だった。けれど。後になって振り返れば。この日の約束は。八人の未来を静かに決める最初の分岐点だったのかもしれない。




