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#041 「交わる視線」

 放課後。校舎裏のベンチには八人が集まっていた。秋の風が静かに吹いている。今日は珍しく誰も騒いでいなかった。話題は自然と地下室のことになっていた。


「結局」

 隼人が言う。

「何だったんだろうな、あのノイズ」


「分からない」

 美弥が首を振る。

「でも人工的な波形だった」


 要も頷いた。

「気のせいではないな」

 それだけは確かだった。沈黙。しばらく誰も口を開かなかった。


 その時。

「ねえ」

 蒼羽が言った。全員の視線が向く。

「変なこと聞いていい?」


「またか」

 要が呟く。


「またです」

 蒼羽は胸を張った。


 真凜がため息をつく。

「慣れたね」


「最近ね」

 蒼羽は笑った。そして少しだけ真面目な顔になる。

「みんな」

 一度言葉を区切る。

「変な声を聞いたことない?」

 風が吹いた。誰もすぐには答えなかった。だが。


「ある」

 最初に答えたのは、はるなだった。


 蒼羽が目を丸くする。

「え?」


 はるな自身も少し驚いていた。口にしたのは初めてだった。

「小さい頃から」

 静かに話し始める。

「今まで何度も名前を呼ばれたし、言葉を貰った」

 誰も笑わない。冗談だと思わなかった。


 蒼羽は隣の真凜を見る。真凜も少し驚いていた。

「私だけじゃなかったんだ」

 小さく呟く。


「俺もあるな」

 今度は想太だった。全員の視線が向く。


「本当に?」

 蒼羽が聞く。


 想太は苦笑した。

「数回だけどな。何か話しかけられた。内容は覚えてないけどね」


 その言葉に。蒼羽と真凜が顔を見合わせた。まるで同じだった。


「……私も」

 いちかが小さく手を挙げる。全員が振り返る。

「子供の頃に一回だけ」


 さらに。

「私もあった」

 美弥だった。

「覚えてないけど、何か聞いた気がする」


 隼人も腕を組む。

「言われてみれば、俺もあるな」


 蒼羽は完全に固まっていた。次々と増えていく。自分たちだけではなかった。


「要先輩は?」

 蒼羽が聞く。


 要は少しだけ空を見上げた。

「……ある」

 短い返答。

「一度だけな」

 それで十分だった。全員が経験している。回数は違う。記憶も曖昧。けれど。誰一人として否定できなかった。その事実がそこにあった。


「待って」

 真凜が言う。珍しく真剣な表情だった。

「つまり、八人全員?」

 沈黙。誰も否定しない。できなかった。偶然。そう言うには人数が多すぎる。


「そんなことある?」

 いちかが呟く。


「普通は無いな」

 隼人が答えた。


「無いと思う」

 美弥も頷く。


 蒼羽はゆっくり立ち上がった。

「じゃあ」

 全員を見る。

「私たち変じゃなかったんだ」

 思わず笑ってしまう。


 真凜も少し笑った。

「そこ?」


「そこだよ!」

 蒼羽は即答した。

 研究室のノイズ。地下室。夢。声。全部はまだ繋がらない。でも。一つだけ分かったことがある。自分たちだけじゃなかった。

 夕陽がゆっくり沈んでいく。ベンチに座る八人。誰も答えを持っていない。地下室の正体も。声の正体も。夢の意味も。分からない。それでも。全員が同じ方向を見ていた。


「結局」

 想太が言う。

「何なんだろうな」


「分からない」

 はるなが答える。そして少しだけ笑った。


「でも」

 蒼羽が続ける。

「何かある」


 真凜も頷く。

「それだけは分かる」

 夕陽が八人を照らしていた。交わったのは視線だけではない。それぞれが抱えていた違和感もまた。少しずつ同じ場所へ集まり始めていた。

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