#040 「小さな証拠」
放課後。研究室にはいつもの六人が集まっていた。窓の外では夕暮れが始まっている。要は端末を操作しながら何度も同じデータを見返していた。
「まだやってるの?」
美弥が呆れたように言う。
「まだだ」
要は即答した。
「絶対何かある」
「根性論になってるわよ」
「かもしれない」
要は否定しない。それでも手を止めない。地下室。円柱。記録の欠落。どこかに見落としがある気がしていた。
「要先輩」
蒼羽が研究室へ顔を出す。
「また調べてるんですか?」
「まただ」
「すごいなあ」
蒼羽は素直に感心していた。
真凜も後ろから覗く。
「本当に好きだね」
「好きじゃない」
要は言った。
「気になるだけだ」
「同じだと思う」
想太が笑った。
「ん?」
その時だった。要の指が止まる。
「どうした?」
隼人が聞く。要は返事をしない。画面を拡大する。さらに拡大。そして。録音データを再生した。
地下室で録った環境音だった。何気なく残していたもの。無音。静寂。何もない。
そう思った次の瞬間。プツッ。小さなノイズが入った。
「今の」
美弥が反応する。要はもう一度再生した。同じ場所。同じタイミング。再びノイズ。
「機械の誤作動?」
いちかが言う。
「違うわね」
美弥が首を振った。端末を受け取る。波形を表示。全員が覗き込んだ。
「これ見て」
拡大された波形。小さな乱れ。だが。完全なランダムではなかった。
「規則がある?」
隼人が呟く。
美弥が頷く。
「ある」
研究室が静かになる。誰も声を出さない。もう一度見る。確かにそこには規則性が存在していた。
「意味は分かるか?」
要が聞く。
美弥は首を振った。
「全然」
即答だった。全員が苦笑する。
「でも」
美弥は続けた。
「ノイズじゃない」
それだけは断言した。
「何か?」
蒼羽が尋ねる。
「分からない」
美弥は正直に答える。
「でも何か」
その言葉に研究室の全員が頷いた。それで十分だった。
帰り道。蒼羽と真凜は並んで歩いていた。夕焼けが街を赤く染めている。
「今日のやつ」
蒼羽が言う。
「ノイズ?」
「うん」
真凜は少し考える。
「証拠かもね」
「だよね!」
蒼羽は嬉しそうだった。
「やっぱり私たち変じゃなかったんだ」
「それはまだ分からない」
「真凜」
「なに?」
「夢のないこと言う」
真凜が小さく笑う。
「でも」
「うん」
「少し安心した」
その言葉に。蒼羽も頷いた。
夢。声。懐かしさ。全部説明はできない。それでも。地下室に残っていた小さな異常が。二人の感じていた違和感を少しだけ肯定してくれた気がした。
夜。ユグノドア・ドーム。蒼羽と真凜は光柱を見上げていた。
「ともり様」
蒼羽が静かに言う。
「何でしょうか。」
AIともりの穏やかな声。
「私たち、少しだけ分かった気がします」
しばらく沈黙。
そして。
「それは良かったです。」
変わらない返答だった。だが。蒼羽は少しだけ嬉しくなった。
「でも」
真凜が呟く。
「結局何も分かってないんだけどね」
蒼羽が笑う。
「それもそうだ」
二人は並んで光柱を見上げた。分からない。本当に何も。けれど。何かがある。それだけは確かだった。小さな証拠は。その事実だけを静かに示していた。




