#039 「違う答え」
週明けの放課後。研究室にはいつもの六人が集まっていた。窓の外では夕陽が校舎を赤く染めている。机の中央には要の端末が置かれていた。ホログラムには地下室の立体図。そして記録の欠落箇所。あの円柱だけが存在しない空白。それを全員が見つめていた。
「結局さ」
想太が口を開く。
「何なんだろうな」
ここ最近、何度も繰り返された言葉だった。だが今回は少し違った。
要が腕を組む。
「俺は人工物だと思う」
全員が顔を上げた。
「人工物?」
「ああ」
要は立体図を拡大する。
「構造が整いすぎてる」
壁。床。配置。空間。
「自然に出来たとは思えない」
美弥が頷く。
「そこは同意」
だが続ける。
「でも私は別の考え」
「何だ?」
「説明できると思う」
研究室が静かになる。美弥はホログラムを見つめた。
「今は分からないだけ」
「記録が消えている理由も?」
いちかが聞く。
「うん」
美弥は頷いた。
「必ず理由がある」
「科学的な理由が?」
「そう」
その声は真剣だった。
「私はそう信じたい」
隼人が苦笑する。
「信じたい、か」
「何よ」
「いや」
隼人は肩をすくめた。
「結局みんな信じてるだけだなと思って」
沈黙。確かにその通りだった。証明はできていない。誰も。
「俺は保留だな」
隼人が言う。
「保留?」
想太が聞き返す。
「分からないから分からない」
即答だった。
「結論を急ぎたくない」
要が少し笑う。
「隼人らしいな」
「だろ?」
研究室に少し笑いが広がる。
だが。次に話し始めたのは想太だった。
「俺はさ」
全員が見る。
「説明できないこともあると思う」
静かな声だった。
「昔から?」
はるなが聞く。
想太は少しだけ考えた。
「たぶんな」
答えになっていない。けれど。はるなには意味が分かった気がした。
「はるなは?」
美弥が尋ねる。視線が集まる。はるなはしばらく黙っていた。窓の外を見る。夕焼け。風。遠くの空。そして。あの日聞いた音。
「……分からない」
小さく答える。
「でも」
全員が待つ。
「何かがある」
それだけだった。証拠もない。説明もできない。それでも。何かがある。そう思っていた。
要が小さく頷く。
「結局そこだな」
全員が苦笑した。答えは違う。考え方も違う。でも。誰も否定はしない。それが今の六人だった。
その頃。校舎裏のベンチ。蒼羽と真凜が座っていた。夕方の風が心地良い。
「ねえ」
蒼羽が言う。
「なに?」
「私たちも考えてみよう」
真凜が首を傾げる。
「何を?」
「夢」
即答だった。
真凜はため息をつく。
「また?」
「また」
蒼羽は真面目な顔だった。
「だって同じ夢だったんだよ?」
「それはそうだけど」
「絶対意味がある」
真凜は少し考える。
そして。
「私は違うと思う」
「え?」
蒼羽が驚く。
「意味はあると思う」
真凜は言う。
「でも夢そのものじゃない」
「どういうこと?」
「覚えてないから」
蒼羽は黙る。確かにそうだった。内容はほとんど残っていない。
「じゃあ何が残ってるの?」
真凜は少し空を見上げた。
「気持ち」
「気持ち?」
「懐かしかった」
その言葉に。蒼羽は目を丸くした。
「それ!」
思わず立ち上がる。
「それだ!」
「うるさい」
真凜が呆れる。
「でも本当にそうだった」
蒼羽は笑った。夢の内容じゃない。場所でもない。人でもない。残っているのは。
懐かしいという感覚。それだけ。けれど。それが一番大事な気がした。
夕陽が沈んでいく。研究室では六人が。ベンチでは二人が。それぞれ違う答えを探していた。
まだ繋がらない。まだ分からない。けれど。誰も立ち止まってはいなかった。違う答えを持ちながら。同じ方向を見つめていた。




