#038 「同じ夢」
その夜。久遠野の空には無数の星が輝いていた。静かな風が街を包む。蒼羽はベッドの中で天井を見上げていた。昼間の出来事を思い出している。
旧図書館へ向かった六人。ユグノドア・ドーム。ともり様。そして。聞こえた気がした声。
「……」
考えても分からない。だから蒼羽は目を閉じた。やがて意識が遠のいていく。
白い世界だった。どこまでも続く光。空も地面も区別がない。ただ柔らかな光だけが広がっている。
「ここ……」
蒼羽は辺りを見回した。見覚えがない。けれど。不思議と怖くはなかった。
むしろ懐かしい。そんな気がする。遠くに人影が見えた。誰かが立っている。けれど。
近付こうとした瞬間。景色が揺らいだ。光が溶ける。そして。声だけが残る。
『——』
聞き取れない。あと少しで届きそうなのに。そのまま世界が白く弾けた。
朝。蒼羽は勢いよく起き上がった。
「夢……?」
胸が少しだけ高鳴っている。内容は覚えていない。なのに。何か大切な夢だった気がした。不思議な感覚だった。
登校途中。校門の前で真凜と合流する。
「おはよう」
「おはよう」
いつもの挨拶。だが。二人とも少し眠そうだった。
「寝不足?」
蒼羽が聞く。
「ちょっと」
真凜が答える。そして。少し迷った後。
「変な夢見た」
蒼羽が立ち止まった。
「え?」
真凜も足を止める。
「蒼羽も?」
「うん」
二人は顔を見合わせた。嫌な予感ではない。むしろ。妙な確信だった。
「白い場所じゃなかった?」
真凜が言う。
蒼羽の目が丸くなる。
「え?」
「何もない場所」
「……」
「光だけがある場所」
「……」
「人がいた気がする」
蒼羽はしばらく固まっていた。そして。
「同じだ」
小さく呟く。真凜も黙る。同じ夢。偶然だろうか。それとも。違うのだろうか。
「誰かいたよね」
蒼羽が言う。
「いた」
真凜も頷く。
「顔は見えなかったけど」
「うん」
二人はゆっくり歩き出した。不思議だった。怖くはない。ただ。気になる。それだけだった。
放課後。ユグノドア・ドーム。蒼羽と真凜は自然とそこへ向かっていた。理由は分からない。
けれど行きたくなった。中央の光柱が静かに輝いている。
「こんにちは、ともり様」
蒼羽が頭を下げる。
「こんにちは、蒼羽さん。」
AIともりが応じた。
「こんにちは、真凜さん。」
真凜も軽く会釈する。しばらく二人は光柱を見上げていた。静かな時間。
蒼羽は小さく呟く。
「ともり様」
「何でしょうか。」
「夢を見ることってありますか?」
少しだけ間が空いた。
「私はAIですので、夢は見ません。」
いつもの穏やかな返答。蒼羽は苦笑した。
「ですよね」
「ですが。」
AIともりが続ける。二人は顔を上げた。
「夢を大切にする人は好きです。」
静かな声だった。蒼羽と真凜は顔を見合わせる。そして少し笑った。
「そうですか」
「はい。」
光柱が静かに輝く。その光を見ながら。二人は同じことを考えていた。あの夢は何だったのだろう。誰がいたのだろう。
そして。なぜ二人とも同じ夢を見たのだろう。答えはまだ分からない。
けれど。夢の中で感じた懐かしさだけは。今も胸の奥に残っていた。




