↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/89

#034 「消えた記録」

 昼休み。研究室の窓から秋の陽射しが差し込んでいた。要は一人、机に向かっている。目の前には携帯端末から展開された複数のホログラムウィンドウ。

 旧図書館。地下設備。改築記録。管理ログ。数十年前まで遡った学園データ。その全てを調べていた。

「……おかしい」

 小さく呟く。地下室の存在は記録されている。建設時期も分かる。改修履歴も残っている。

 だが。あの巨大な円柱だけが存在しない。まるで最初から無かったかのように。


「またそれ調べてるの?」

 声がした。振り返ると美弥が立っていた。


「気になるからな」

「分からないことがあると眠れないタイプ?」

「否定はしない」

 美弥が苦笑する。その時。研究室の扉が開いた。


「おっ、いたいた」

 想太だった。後ろには隼人といちか。気付けば、いつもの六人が集まり始める。


「何か進展あった?」

 想太が椅子に腰掛ける。要はしばらく黙っていた。そして端末を机の中央へ置く。淡い光が広がる。

 研究室の中央にホログラムが展開された。

 旧図書館の地下構造。地下室。階段。通路。そして。空白。


「これが問題だ」

 要が指差す。

「円柱がない」


「え?」

 いちかが首を傾げた。

「でも実際にはあったよね?」


「あった」

 要は頷く。


「俺たちは見た」

 隼人も腕を組む。

「つまり記録ミスか」


「最初はそう思った」

 要は別のウィンドウを開いた。古い写真。設計図。保守記録。どれにも円柱は映っていない。


「全部か?」

「全部だ」

 研究室が静かになる。


 はるなが立体映像を見つめていた。

「消された……とか?」


 要は首を振る。

「それも考えた」

 さらに別の資料が表示される。

「でも痕跡がない」


「痕跡?」

 想太が聞く。


「削除記録ね」

 美弥が答えた。

「データを消したなら、普通はその痕跡が残るわよ」


「そういうこと」

 要が頷く。

「でも何もない」

 何も。本当に何も。最初から存在していなかったように。それが不気味だった。


「なあ」

 想太が天井を見上げる。

「俺たち、本当に見たんだよな?」


「見たわよ」

 美弥が即答する。


「私も覚えてる」

 いちかも頷く。


「俺も」

 隼人も同意した。全員が見ている。夢ではない。勘違いでもない。それなのに。記録だけが存在しない。


「だったら余計に変だな」

 想太がため息をついた。


 要はホログラムを閉じる。青白い光が消える。

「だから調べる」

「答えがあると思うか?」

 隼人の問いに。要は少しだけ笑った。

「無かったら困る」

 その言葉に全員が苦笑した。だが。誰も否定はできなかった。


 放課後。校舎裏のベンチ。蒼羽と真凜も合流していた。

「それで?」

 蒼羽が言う。

「今日は何の話?」


「特にない」

 要が答える。


「絶対嘘」

「嘘じゃない」

「怪しい」

 蒼羽は頬を膨らませた。


 真凜がため息をつく。

「また始まった」

 その様子に皆が笑う。だが。

 はるなはふと蒼羽を見た。

「蒼羽」

「ん?」

「その後、聞こえた?」

 一瞬。


 蒼羽の表情が変わった。

「……まだ」

 そう答える。だが少しだけ視線が揺れた。


 真凜だけがそれに気付く。

「蒼羽?」


「何でもない」

 蒼羽は慌てて笑った。

「本当に何でもないよ」

 そう言いながら。胸の奥には小さな違和感が残っていた。昨夜。眠る直前。確かに何かを聞いた気がしたのだ。

 けれど。思い出そうとすると消えてしまう。まるで夢のように。

 秋の風が静かに吹き抜ける。誰もまだ知らない。消えた記録と。聞こえない声が。少しずつ同じ場所へ向かっていることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。