#029 「もう一度だけ」
旧図書館を訪れてから数日。はるなの中に残った違和感は消えていなかった。むしろ。時間が経つほどに大きくなっている気さえした。
授業中。休み時間。帰り道。ふとした瞬間に思い出す。地下室。巨大な円柱。そして。
コン……
あの音。理由は分からない。だが。放っておけなかった。
放課後。いつものように八人が集まっていた。学園祭が終わり、慌ただしさも落ち着いている。穏やかな時間だった。
「ねぇ」
はるなが口を開いた。全員の視線が集まる。
「旧図書館なんだけど」
要が小さく目を細めた。予想していたらしい。
「やっぱりか」
「やっぱり?」
「言い出すと思ってた」
その言葉に、はるなは少しだけむっとした。
「そんなに分かりやすい?」
「分かりやすい」
美弥が即答した。
隣で想太も頷く。
「かなり」
「うぅ……」
否定できない。蒼羽と真凜は不思議そうに首を傾げている。まだ事情を知らない二人だった。
「もう一回行きたい」
はるなは言った。教室が静かになる。
「理由は?」
要が聞く。
「分からない」
正直な答えだった。
「でも気になる」
それしか言えない。
要は少し考える。
そして。「俺もだ」と答えた。
想太が呆れたように息を吐く。
「結局みんな同じか」
「たぶんな」
隼人も苦笑する。
「気持ちは分かる」
いちかも頷いた。誰も理由は説明できない。けれど。あの場所だけが妙に引っ掛かっていた。それは全員同じだった。放課後の空は高い。窓から差し込む夕陽が教室を赤く染めている。
その時だった。
コン……
はるなは顔を上げた。教室の中。誰も反応していない。
「はるな?」
美弥が声を掛ける。
「え?」
「どうしたの?」
はるなは辺りを見回した。誰もいない。音もない。気のせいだったのだろうか。
「ううん」
首を振る。だが。胸の奥はざわついていた。
要は静かに言う。
「今週末に行こう」
「え?」
「もう一度確認する」
想太が笑う。
「結局行くんだな」
「行く」
珍しく迷いがなかった。
「今度は全員で?」
いちかが聞く。
要は少し考えた。
そして。「いや」と答える。
「今回も六人だ」
蒼羽と真凜が顔を見合わせる。
「私たちは?」
真凜が聞く。
要は少し言葉を選んだ。
「夜だし君たちにはまだ危ない」
「そうなんですか?」
蒼羽は少し残念そうだった。だが。はるなは気付かなかった。その瞬間だけ。蒼羽と真凜の表情が少し曇ったことに。
夕陽が差し込む教室。いつもの仲間たち。変わらない日常。それなのに。何かだけが少しずつ変わり始めている。そんな気がした。
帰り道。はるなは空を見上げた。秋の空。ゆっくり流れる雲。穏やかな景色。
コン……
また。今度は確かに聞こえた気がした。足を止める。振り返る。誰もいない。何もない。それでも。胸の奥で何かが呼んでいる。そんな感覚だけが残っていた。
「もう一度だけ……」
小さく呟く。その言葉は、夕暮れの風の中へ消えていった。




