↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/91

#028 「残された違和感」

 学園祭が終わって数日。灯ヶ峰学園は、すっかりいつもの日常を取り戻していた。教室には授業の声が響き。廊下には生徒たちの笑い声が流れる。変わらない毎日。そのはずだった。だが。


「はるな?」

 美弥の声で、はるなは我に返った。


「え?」

「聞いてる?」

「あ、ごめん」

 慌てて教科書へ視線を戻す。昼休み。窓際の席。いつもの六人と蒼羽、真凜が集まっていた。


「珍しいな」

 隼人が言う。

「何か考え事か?」


 はるなは曖昧に笑った。

「少しだけ」

 嘘ではなかった。頭から離れない。旧図書館。地下室。巨大な円柱。そして。

 コン……

 あの音。何だったのだろう。気のせいと言われればそれまでだ。だが。どうしても気になっていた。


「まだ旧図書館のこと?」

 要が聞く。


 はるなは少し驚いた。

「分かる?」


「顔に書いてある」

 即答だった。

「そんなに?」


「そんなに」

 要の隣で美弥が頷く。


 想太はため息をついた。

「俺も少し気になってる」

「想太も?」

「そりゃな」

 あんなものを見せられれば当然だった。だが。


「今は情報が足りない」

 要は冷静だった。

「焦っても答えは出ない」

 その言葉には説得力があった。結局、一度見つけた要自身が同じ結論に達しているのだ。はるなも納得するしかなかった。


「そうだね」

 とは言ったものの。完全には納得していなかった。


 放課後。蒼羽と真凜は学園の中庭を歩いていた。秋の風が心地良い。

「久遠野、楽しいね」

 蒼羽が言う。


「うん」

 真凜も頷く。


「みんな優しいし」

「うん」

「ご飯も美味しいし」

「うん」

「ともり様もいるし」

「それが一番?」

「それが一番!」

 迷いのない返事だった。真凜は小さく笑う。

 その時。学園のスピーカーから放送が流れた。

  ——「本日の清掃活動へのご協力、ありがとうございました。」

 聞き慣れたともりの声。二人は自然と立ち止まる。


「ありがとうございました」

 蒼羽が小さく頭を下げる。真凜も続いた。もう習慣だった。風が吹く。木々が揺れる。落ち葉が舞う。


 その中で。蒼羽はふと顔を上げた。

「……え?」

「どうしたの?」

 真凜が聞く。蒼羽は辺りを見回した。誰もいない。いつもの学園。それだけだった。

「今……」

「今?」

「ううん」

 首を振る。説明できない。何を聞いたのかも分からない。ただ。ほんの少しだけ。放送の声とは違う何かを聞いた気がした。


「また?」

 真凜が小さく言った。

 蒼羽は驚く。

「真凜も?」

「うん」

 二人は顔を見合わせた。そして同時に笑う。

「気のせいかな」

「かもね」

 そう結論づけるしかなかった。


 夕方。帰宅途中。はるなは一人で歩いていた。

 夕焼けに染まる久遠野。見慣れた街並み。変わらない景色。それなのに。旧図書館のことだけが頭から離れない。

 コン……

 思い出す。あの音。あの違和感。そして。あの円柱。

 立ち止まる。振り返る。もちろん誰もいない。何もない。ただ。胸の奥だけが妙にざわついていた。

「……何なんだろう」

 答えはない。今はまだ。夕暮れの空を見上げる。どこまでも穏やかな秋空だった。

 けれど。その穏やかな日常の向こうで。何かが少しずつ動き始めている。そんな気がしてならなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。