#026 「灯火の夜」
学園祭の最後を飾る後夜祭。校庭の中央には、大きなキャンプファイヤーが組まれていた。夕暮れが終わり、空には最初の星が見え始めている。生徒たちが輪になり、思い思いの時間を過ごしていた。炎が揺れる。ぱちり、と薪が弾けた。
「終わっちゃうね」
美弥が呟く。
その言葉に、はるなも頷いた。
「早かったなぁ」
本当にそうだった。準備から始まった学園祭。そして今日。気が付けばもう終わろうとしている。
「楽しかったです!」
蒼羽は迷いなく言った。炎の光を受けて、その笑顔はいつも以上に明るい。
「それは良かった」
隼人が笑う。
「久遠野、最高です!」
「まだ来て数日だろ」
「数日で分かります!」
蒼羽は今日も蒼羽だった。そのやり取りに、みんなが笑う。真凜も少しだけ肩を震わせている。そんな時だった。
「いたいた」
見知らぬ男子生徒が近付いてきた。同じ学園の制服。だが、はるなたちのクラスではない。
「ん?」
蒼羽が首を傾げる。
男子生徒は少し緊張した様子で言った。
「あの、今日の祝詞……すごかったです」
一瞬。蒼羽は固まった。
「私ですか?」
「うん」
「ありがとうございます!」
満面の笑顔。男子生徒は少し照れながら頭を掻いた。
「あと……真凜ちゃんも」
「え?」
真凜は目を丸くする。
「すごく良かった」
「ありがとう……ございます」
真凜は少しだけ頬を赤くした。男子生徒はそれだけ言うと、友人たちの方へ戻っていった。
蒼羽は不思議そうに首を傾げる。
「何だったんでしょう?」
「感想だろ」
想太が答える。
「感想かぁ」
本気で納得している。
いちかが吹き出した。
「いやぁ、本人たち気付いてないなぁ」
「何が?」
蒼羽が聞く。
「何でもない」
いちかは笑いながら首を振った。
少し離れた場所。別のグループの会話が聞こえてくる。
「俺、蒼羽ちゃん派」
「分かる」
「いや、真凜ちゃんだろ」
「それも分かる」
男子生徒たちが真剣な顔で話していた。
「何の話だろう」
蒼羽が呟く。
「知らなくていいと思う」
要が即答した。
「そう?」
「そう」
珍しく断言だった。その横で真凜も首を傾げている。どうやら本当に分かっていないらしい。炎が揺れる。夜風が吹く。賑やかな時間はゆっくりと過ぎていった。
やがて。キャンプファイヤーは終盤を迎える。生徒たちは少しずつ帰り支度を始めていた。蒼羽と真凜は並んで炎を見つめていた。
赤い光。温かな熱。揺れる火。
「綺麗だね」
真凜が言う。
「うん」
蒼羽も頷く。
その時だった。風が吹く。炎がわずかに揺れた。誰も気付かないほどの、小さな変化。けれど。
蒼羽は顔を上げた。真凜も同じだった。二人の視線が重なる。
「……」
「……」
聞こえた。・・・気がした。ほんの一瞬。風の中に。誰かの声が混じったような気がした。
優しい声。懐かしい声。けれど思い出せない。
「今……」
蒼羽が呟く。
真凜も小さく頷いた。
「うん」
それだけだった。説明はできない。何を聞いたのかも分からない。
それでも。二人とも同じものを感じていた。やがて風は止む。声も消える。残ったのは、胸の奥の小さな温かさだけだった。
「帰ろうか」
はるなが声を掛ける。
「はい!」
蒼羽はいつもの笑顔に戻った。真凜も頷く。八人は並んで歩き出す。灯火は少しずつ小さくなっていく。
けれど。その光は消えていなかった。誰かから誰かへ。静かに受け継がれていくように。夜空には、いつの間にかたくさんの星が輝いていた。




