↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/89

#020 「旧図書館の鍵」

 夜の久遠野は、昼よりも静かだった。街灯の光が歩道を照らし、学園区画の建物が夜空の下に沈んでいる。要は学園の端末を閉じると、小さく息を吐いた。

 ここ数日、違和感ばかりが積み重なっている。チャイムの遅れ。時計のずれ。音の消失。そして今日見つけた奇妙なポスター。

 どれも決定的ではない。だが、無関係とも思えなかった。要は立ち上がる。

「やっぱり、一度見ておきたいな」

 向かう先は決まっていた。旧図書館。あの日、美弥と足を踏み入れた場所だった。

 端末を取り出す。

「美弥、起きてるか?」


 数秒後、返事が返ってくる。

『起きてるけど?』

「少し付き合ってくれ」

『旧図書館?』


 即答だった。要は苦笑する。

「分かるか」

『要がそんな顔する時は大体そう』

「そんな顔って何だよ」

『難しい顔』

 短いやり取りのあと、美弥は言った。


『十分後に旧正門裏ね』

 通信が切れる。要は夜風の中を歩き始めた。十分後。旧正門裏で美弥と合流する。

「こんばんは」

「こんばんは」

 二人は顔を見合わせ、小さく笑った。こんな時間に学園を歩くこと自体、本来なら褒められたことではない。だが、それ以上に気になることがあった。

 旧図書館。閉鎖されたままの建物は、昼間よりもずっと大きく見えた。窓は暗く、蔦の絡まる外壁だけが月明かりに照らされている。


「やっぱり不気味よね」

 美弥が呟く。

「前からこうだったのにね」


 要は頷いた。あの日から見え方が変わったのかもしれない。二人は建物の奥へ回り込む。地下へ続く扉。以前と変わらない。少なくとも見た目は。

 要は手をかける。重い音とともに扉が開いた。


「開くんだ」

「閉鎖されてるだけだからな」

 階段を下りる。冷たい空気が頬を撫でた。一段。また一段。静かな地下へ降りていく。

 やがて、あの部屋へ辿り着いた。中央の装置。変わらない光景。それでも。


「……動いてる」

 要が呟く。装置の一部が、微かに光を放っていた。強くはない。見落としてしまいそうなほど弱い光。けれど確かに生きている。


 美弥も息を呑んだ。

「まだ止まってなかったんだ」


「いや……」

 要は首を振る。

「前に来た時より、反応してる」

 二人は装置へ近づく。しかし、それ以上は分からなかった。表示もない。説明もない。ただ、そこに存在している。まるで何かを待ち続けているように。

 沈黙が落ちる。

 コン。

 小さな音が響いた。二人は同時に顔を上げる。どこから聞こえたのか分からない。装置か。壁の向こうか。それとも別の場所か。

 コン。

 再び音が鳴る。部屋の奥から聞こえた気がした。けれど、探しても何もない。ただ静寂だけが広がっている。


「ねえ」

 美弥が小さく言った。

「これ、私たちだけじゃ駄目なんじゃない?」


 要は黙ったまま装置を見つめる。そして、ゆっくり頷いた。

「俺もそう思う」

 今さら気付いたような気がした。あの日。この場所にいたのは自分たちだけではない。異変の中心にいたのは、はるなと想太だった。

 時計のずれも。音の消失も。二人の方が強く感じている。要は装置から目を離さず呟いた。


「次に来る時は——」

 美弥が続きを待つ。

「はるなと想太も連れて来た方がいいかもしれないな」

 地下室は静まり返っていた。だが、その言葉を待っていたかのように。どこか遠くで。コン……と、小さな音が鳴った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。