#019 「日常の継ぎ目」
放課後の風は、昨日より少し冷たかった。夕暮れの光が校舎の窓を橙色に染め、久遠野市立灯ヶ峰学園は一日の終わりを迎えようとしていた。
部活動へ向かう生徒たちの声。校庭を走る運動部の掛け声。どこにでもある放課後。それなのに、はるなの胸には小さな違和感が残り続けていた。
「おつかれー」
いちかが大きく伸びをする。
「なんか今週長くない?」
「まだ三日しか経ってないぞ」
隼人が苦笑する。
「いや、なんか一週間くらい学校来てる気分」
「分かる」
美弥が即座に同意した。
六人は校舎脇を歩きながら、自然と学園の情報掲示板の前で足を止めた。
「あれ?」
いちかが声を上げる。
「どうした?」
隼人が尋ねた。
「この広告……」
六人は掲示板へ視線を向けた。学園の情報掲示板。薄いプラズマディスプレイが埋め込まれ、行事予定や連絡事項が常時表示されている。そこには夏祭りの告知が映っていた。
色鮮やかな花火。楽しそうなイラスト。見慣れた学園行事の案内。けれど。
「日付、おかしくない?」
美弥が指を差した。表示されているのは八月十五日。だが今日は十四日のはずだった。
「表示ミスかな」
隼人が首を傾げる。
「いや……」
要が少し前へ出る。
「これ、去年の告知だ」
「え?」
「年度表記が違う」
言われて見ると確かにそうだった。去年の夏祭り。本来なら、とっくに消えているはずのデータだった。
「でも何で表示されてるの?」
想太が画面へ手を伸ばした。指先で軽く横へなぞる。
情報掲示板にはページ送り機能がある。いつもの癖だった。画面が滑るように横へ流れる。その瞬間。
「……え?」
いちかが声を漏らした。画面の端が、紙のようにめくれた。電子表示のはずなのに。まるで古いポスターを剥がすように。薄い膜が一枚めくれ上がる。
誰も動けなかった。そして、その裏側には——何もなかった。真っ白だった。行事予定も。広告も。校章すらない。ただ白い画面だけが広がっている。
「……何これ」
美弥が呟く。
想太がもう一度スライドする。すると画面は何事もなかったかのように元へ戻った。
花火のポスター。八月十五日の文字。見慣れた掲示板。けれど。今見たものを、誰も見間違いだとは思えなかった。
「最近、変なこと多くないか?」
想太がぽつりと言った。誰も否定しない。
「チャイム」
はるなが言う。
「時計」
要が続ける。
「音」
美弥が小さく呟く。それぞれが感じていた違和感。誰にも話していなかった違和感。それが少しずつ繋がり始めていた。
夕日が沈み始める。長く伸びた六人の影が重なり合う。何気ない放課後。何気ない会話。それでも。
日常のどこかに、小さな継ぎ目が生まれ始めていた。そして誰もまだ、その先に待つものを知らなかった。




