039 触らないけど踏んじゃった
「ひより、魔石はまだあるのか?」
「さっすがナッシュくん、わかってる~。もうほとんどないよっ」
やはりそうか。
料理の修行をするために色々買い物したりしたからな。
金もなければ魔石もない、か。
「それじゃあ冒険者ギルドに行ってくるとするよ。まだまだリディルさんとの仕事は軌道に乗らないんだろ?」
「あれから色々やってるんだよ~でもなかなか流行んないの。たまに買ってくれる人もいるんだけどね~」
ひよりの世界では流行ってたんだろうな。
世界が変わると難しいものなのかもしれん。
「いい依頼がなければダンジョンにでも行ってくるとしよう」
「ダンジョンかぁ」
誘う必要もないだろ。
どうせ俺はひとりぼっちのソロ冒険者さ。
「私もついてくっ!」
「ああ、留守番頼む……ん?ついてくる?」
「うんっ、最近運動してないからまた……じゃなくて!たまには一緒に行きたいじゃんっ」
なん、だと……ひとりぼっちじゃないのか?
嬉しすぎて顔が緩んでしまいそうだ。
だが耐えろ。
バレたら何を言われるかわからん。
冷静に、冷静になれ。
『雑魚料理人は雑魚だのう。そんなの弱そうな小娘一人増えただけなのに、何をそんなに嬉しそうな顔しておるのだ』
魔王様、朝から出てこないでくれませんか……
「え~ナッシュくん嬉しいの?寂しがり屋さんだもんね~」
ほら見ろ、また俺の秘密が増えていくだけじゃないか。
「魔王さんはお留守番しててねっ」
『な、なぜだ!なぜ我だけ仲間外れにするのだ!』
「だって怨霊なんでしょ?ここから離れられないんじゃないの?」
『ガーン……忘れておった……』
「だからお留守番だよっ!変な人が来ないようにちゃんとやってよねっ」
『魔王たる我を番犬扱いとは……くぅ、全盛期の力さえあれば地獄の番犬を召喚してやるのに!』
おっかないよそんなの……地獄のってなんなのっ
「みーちゃんと三人で冒険者ギルドへ~、レッツゴー!」
「すみません魔王様、行ってきます」
『くぅ、夕飯までには帰ってくるのだぞ!』
よくわからん家族構成だな。
料理人の俺と異世界人のひより。
謎のペンギンのみーちゃん。
そして3000年前に封印された恐怖の魔王。
意味わからんな。
だが賑やかでいい。
それに今日は冒険者活動もひとりじゃないんだ。
楽しくなりそうだな。
この前みたいにひよりを危険な目に遭わせないようにしよう。
気合を入れないとだ。
「やはりもういい依頼は無さそうだな。ダンジョンで魔石を稼ぎに行こうか。宝箱から売れるものが出るかもしれないしな」
「え?宝箱!?なにそれ、初耳なんだけどっ」
「ダンジョンボスを倒したりすると出てくる時もある。それと隠し部屋にもあるんだ」
そんなのあるのねっ
宝箱とかロマンじゃん。
絶対見つけちゃうんだからっ
「ダンジョンってどこにあるの?」
「王都には2つのダンジョンがあるんだ。西地区と東地区にあってだな。どちらも冒険者ギルドが管理しているんだ。冒険者ギルドの裏に入口がある。このまま進んでいけばいい。冒険者カードを見せれば誰でも入れるんだ」
「ふーん、よく分かんないけどナッシュくんについて行くねっ」
もー、説明が長すぎるよっ
とにかくついて行けばいいんだもんねっ
「ここから入るんだ」
「初めて見たけど、雰囲気が怖いね……」
「東地区のダンジョンは地下に潜っていくタイプだな」
「中は暗いの?」
「まぁ入ればわかる」
「みーちゃんも怖い?怖くないの!みーちゃんはすごいなぁ」
『キュキュキュッ!』
「何かあっても助けるから安心しろ?みーちゃんってばかっこいい~ナッシュくんより頼りになるねっ」
『キュッ!』
また俺を見て鳴いてるじゃないか。
いいだろう、勝負してやろうじゃないか。
どっちが頼りになるかをな。
料理修行をすることで戦闘技術も上がり、戦闘することで料理技術も上がるこの俺の方が頼りになることを教えてやらんとな。
「わぁ、中はけっこう明るいんだね~。ゲームみたいなダンジョンを想像してたけど、ちょっと違うかなぁ。でも暗くないなら怖さが少なくていいよねっ」
「王都のダンジョンは俺も初めてだが……もう魔物がいるな。あそこにスライムがいるぞ」
もういるの?
スライムってもしかしたら見た目かわいいんじゃ……ってグロいじゃん!
なにあのドロドロしてるの。
気持ち悪いんだけど!
「ナッシュくん、やっちゃって!」
「スライムは倒さなくてもいい。魔石も最下級だからな。無視して先に行こう」
「え、いいの?」
「ああ、スライムは敵意のない魔物でな。こちらが仕掛けなければ問題ない。それに俺の包丁だけじゃ倒せないんだ」
「なんで?」
「溶かされるし、スライムの核まで届かないんだ。スライムは魔法で倒す方が楽な魔物だからな」
「ふーん、じゃあナッシュくんは最下級の魔物より弱いってことだねっ」
なんだと?
聞き捨てならんが、俺は料理人だからな。
魔物より弱くても問題はない。
問題はないんだが……モヤモヤするな。
「みーちゃんの魔法で倒せたりするの?」
『キュー!キュキュッ!』
「私のあやとりで倒せる?どうやればいいの?」
『キュキュ!』
「ふんふん、長い剣を作って核を破壊するだけ、それでいいの?じゃあできるかもっ」
じゃあちゃちゃっと作っちゃうよ~
酸で溶けにくい素材ってなんだっけなぁ
理科でチタンが溶けにくいみたいなことを聞いたような気がするんだよね。
「じゃじゃーん!チタン合金の長ーい剣だよっ!チタンだからかる~い」
核はあそこの黒っぽいやつだよね?
行くよ~
「えいっ!」
「な、剣が溶けないだと……」
「あ、スライム消えたよ?もしかして倒せた?」
『キューッ!』
「わーい!やったやった~初めて魔物を倒せちゃったよ~」
1回で倒せるとか私って天才かも?
でも核に吸い込まれるように剣が動いたんだよね
あやとりで作った剣だから、糸だし、これも糸操作スキルのおかげかな?
「むふふ、このパーティー最弱なのはナッシュくんってことだねっ」
「なぜそうなる?」
「だって、ナッシュくんは最弱のスライム倒せないんでしょ?私は倒せたもんね~」
確かにそうかもしれないが、俺だってその剣があれば倒せるんだぞ?
「俺にだってできるさ……」
「ナッシュくんのは溶けちゃうから無理だよ~。みーちゃん、私、ナッシュくんの順番だねっ」
そんな馬鹿なことがあってたまるか。
確かにみーちゃんの方が強いのかもしれないが……
くっ、ひよりの助けがないとスライムを倒せないということは、やはり俺の方がひよりより弱いということになるの、か?
いや、断じてそんなことはない!
修行のし直しだ。
スライムすら包丁で倒してやろうじゃないか。
「ナッシュくんは私が守ってあげるからねっ」
「そ、そうか……」
あれ~?冗談なのに落ち込んじゃったかな?
私がナッシュくんより強いわけないのになぁ
「むっ、ゴブリンが出てきたな。ここは俺に任せろ!」
あ、張り切ってる。
大丈夫かな?
「ナッシュくん頑張って~」
俺はやる、例え魔王よりもみーちゃんよりもひよりよりも弱くとも、俺は負けない。
最後には俺が勝つ!
「ふっ、ゴブリンくらいたわいもない。さぁ、次に行く……」
「みーちゃんこっち行ってみよ!お宝の匂いがするよ~」
『キューッ!』
見てもいない、だと……
おかしいな、ひとりぼっちじゃないのになんでこんなに寂しいんだろうか。
「待てひより、罠があるかもしれないだろ!」
「みーちゃん罠があるかもだって~」
『キュッ!』
「なんかここの壁に窪んでるとこあるよっ!こういうのが罠っぽいよね~」
触ってみたいけど、何かあったらやだもんね。
ぜーったい触らないもん。
「ナッシュくん、ここに手を置いてみてよ!」
「はぁ?するわけないだろ。もし転移とかで深い階層に飛ばされたらどうするんだ」
「えーつまんないの~。もしかしたら宝箱の部屋に行くかもじゃん」
「ダンジョンは一か八かで生きていけるほど甘くないんだ。絶対触るなよ」
そう言われると触りたくなるよね~
でも命には変えられないからやめとこっ
「ふぅ、やめてくれるか。危険は避けて行かないとだからな」
「みーちゃんも戻ろっ」
"カチッ"
「ねぇ、なんか今誰か踏んだよね。カチッて鳴ったよね?!」
「俺じゃないぞ!」
「わ、私でもないよ!」
なんで一階層目からこんな罠があるんだ?
落とし穴か?毒か?それとも槍でも飛んで……
「ナッシュくんっ、あれなに!?」
「ま、魔法陣だと!?こんなとこで転移罠なんてありえないだろ!」
「ナッ──────────」
「ひよ──────────」
「──────────シュくん!」
「──────────り!」
ここはどこだ……
周りに魔物はいないようだが。
とにかくひよりは無事だな。
みーちゃんも一緒に転移されてて良かった。
「転移って言ってたけど、どこかに飛ばされたの?」
「ああ、そうなるな」
「どこなのここ」
「今から調べるしかあるまい」
一階層と全然雰囲気が違うな。
ここから脱出しなければならないのか。
初めての王都ダンジョンだからさっぱり分からないぞ。
『キュゥ…………』
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