025 思い出のお味噌汁
「おはよー!リディルさんっ」
「ひより、ちゃんと来てくれて嬉しいぞ!」
あはは、ちょっと行くかどうか考えてたのバレちゃったかな?
でも今はもう決心してるから大丈夫だもんねっ
「お前らが居なくなると寂しくなるな!」
デラルさんもお見送りに来てくれたんだ。
私も少し寂しくなっちゃう。
海岸でナッシュくんに助けられて、みーちゃんと家族になって、デラルさんにもたくさん助けてもらったよね。
「忘れ物はないか?ないなら行こう!」
「おー!」
『キューッ!』
この街にいた期間は長くないけど、初めての異世界。
とっても楽しかったな。
「王都で美味い肉を手に入れたらお土産待ってるぞ!ガハハ!」
「もちろんだよっ!また来るねっ」
それもこれもぜーんぶ、ナッシュくんのおかげだよねっ
「デラルさん、料理の腕を上げたら、また食べてください」
「ガハハ!期待しているぞ!」
「それじゃあ、行ってきます!」
王都ってどんなとこだろう。
ちょっと不安もあるけど、ナッシュくんとみーちゃんがいるもん、王都も絶対楽しいよねっ
ナッシュくんと海岸から来た方の入口でもない。
ナッシュくんの冒険者活動で使ってた、いつもの入口とも違う。
それだけでワクワクしちゃう。
日本にはない風景が馬車から見える。
私はこれからも異世界で過ごしていくのかな。
寂しいけどそれもいいかもって思ってる。
だからナッシュくん、これからもよろしくね?
「ん?なんだひより、不安か?」
「ふふ、ナッシュくんがいるから平気だよっ」
「みーちゃんもいるしな」
「うんっ!」
早く王都に着かないかな~
だってもうおしりが痛いんだもん……
「のどかだね~」
「そうだな」
「やることないよね~」
「そうだな」
「ナッシュくん、面白い話して!」
「……はぁ?面白い話なんて出来るわけないだろう」
「ナッシュくんつまんないの~みーちゃんあーそぼっ」
『キュー!』
また俺の方向いて鳴いてるな。
ひよりに抱きつかれて羨ましいなんて思ってないぞ。
ないからな?
だいたい料理人の俺が面白い話なんて出来るわけないだろう。
楽しそうに遊びやがって。
だが、俺は料理のことを考えることで忙しいんだ。
「みーちゃんおしり痛くなさそうだよね~ふかふかの羽毛だもん。羨ましいなぁ。それに揺れがとんでもないよねぇ」
『キュキュ!』
「んー?自分でなにか作ればいい?」
『キュッ!』
「またどこから紐を持ってきたの?あっ、なーるほどっ、自分で作るってそういうことねっ」
も~みーちゃんって本当に天才だよねっ
それじゃあ、あやとりでふっかふかのクッションを作っちゃお~
「こうしてこうして~柄はかわいいお花をたくさんだよねっ!これでどうかなっ」
『キュキュキュッ!』
ん~何回見ても不思議よね~
これが異世界のスキルってやつなんだもん。
日本にいた時から欲しかったな~
「これをおしりに敷いてっと……やったね!これでおしりの痛みが緩和したよ~」
なんだあれは……
いとも簡単に作れるスキル、とんでもないぞ。
ひよりがイメージすればひよりの世界の物を作れてしまうんだ。
あんなもの見たことがない。
あれで痛みがなくなるのか……ほしいな。
「ひより、俺にもそれを……」
「えー、ナッシュくんは面白い話してくれないからだめだよっ!リディルさんのも作ってあーげよっと~」
「んなっ……」
なんだと……
ちくしょう、なぜ俺にはひよりを楽しませる会話技術がないんだ。
くっ、料理人に必要なスキル以外磨いてこなかった弊害か。
だが俺は負けん。
いいじゃないか、ひよりを楽しませる話術すらも身につけてやろう。
美味い料理と上手い話、似てるな。
うまいんだ。
できる、俺ならできるぞ。
「なーんて嘘だよっ、はい、ナッシュくんの分!おしり痛いのやだもんねっ」
「あ、ありが、とう……」
イタズラな笑顔しやがって……
「ふふ、どうどう?座り心地はどうなのっ」
「ああ、とっても良いぞ。助かるよ」
「良かった~これで少しは馬車の旅も快適になるねっ」
今度は楽しそうに笑ってるな。
今まで俺はこんなに人の表情の変化なんて気にしてなかったのにな。
ひよりがコロコロ表情を変えるからなのか?
そういえば、師匠以外の女性とこんなに長く接すこともなかったな。
師匠とも寝食を共にするほど一緒にいたわけじゃないが……
俺はなんでひよりと一緒にいるんだろうか。
ひよりの面倒を見るとは言ったが、俺である必要なんてないのに。
ひよりは俺のなんなんだろう。
俺はひよりのなんなんだろう。
よく分からないが、こいつと一緒にいるのは楽しくていい。
それに新たな料理の知見を得られるからな。
それだけで一緒にいる意味があるってもんか。
「ナッシュ!魔物が近づいてきているぞ!」
「……俺は料理人なんだが仕方あるまい」
今は護衛依頼の真っ最中なんだ。
たとえ料理人だとしても依頼は真っ当にこなさなければな。
さてと、さっさと捌いてくるか。
「ひよりの作ってくれたクッションは素晴らしいな。御者もかなり負担が減ったよ」
「良かった~もうおしりが痛すぎて、絶対王都まで無理だと思ったもんっ」
「王族や貴族が使うものより快適かもしれないぞ」
「えー、そんなに?売ったら儲かる?」
「そりゃあ儲かるだろうな。柄も可愛くて素敵だ。それにこんな色鮮やかで繊細なものはこの国の技術では不可能だ」
「儲かるならやっちゃおうかな~」
「やめとけひより。そんな簡単にこの国に無いものを量産できる、しかも簡単にってことが露見してみろ。王侯貴族に目をつけられるぞ」
「それは確かにあるだろうね。バレたら拉致される危険性もあるかもしれない」
「ええー!ナッシュくんもリディルさんも怖いこと言わないでよっ」
「本当のことだ。制限なく簡単に生み出せるネットスーパーと糸操作のスキルは今後安易に誰にも話しちゃだめだ。絶対に狙われるからな」
本当なの?
絶対やだよそんなの。
拉致されたらどうなるの?
どうなっちゃうのよ~
「それじゃあ休憩はこのくらいにして先に進もう。このクッションのおかげでスピードを上げても大丈夫そうだからな。予定より早く着けると思う」
「やったやった!移動時間は短い方がいいもんね~」
「また魔物が出たら言ってください。後ろの警戒はしておきますので」
この辺からは魔物の出現率が上がるって話だからな。
より警戒しておこう。
「だいぶ進めたな。一日でここまでこれるのはすごいことだ」
「そ、そうなんだ……」
「大丈夫か?」
「うん、ちょっと酔ったかも……」
おしりの痛みは良くなったけど、スピード上げたせいか酔っちゃったよ。
『キュー』
「お水くれるの?ありがとうみーちゃん」
少しスッキリしたよ。
ほんとありがとうみーちゃん。
「夕飯は食べれそうか?」
「うーん、さっぱりしたものがいいかな。スープだけでいいかも」
「そうか、今作ってやろう」
「私は肉が食べたかったなぁ。アニキから聞いてた焼肉を楽しみにしてたんだが……今日は仕方ないか」
「お肉はあるから、ナッシュくんよろしくね。大きめのステーキだけどいいかな?」
「もちろんさ!ありがとうひより!」
「ああ、わかった。ステーキもしっかり焼いておこう」
さて、それじゃあ野菜を切るか。
肉無しの野菜スープにしとこう。
「そうだ。ナッシュくん、良かったら味噌汁作ってほしいな」
「みそしる?なんだそれは。ひよりの世界の料理なんだろうが。しるってことは、スープのことか?」
「うん、そうだよ。これが出汁で、これが味噌。水に出汁を入れて味噌を溶かすの。それに野菜とか入れるだけのやつ」
なんだこの茶色いものは。
すごい匂いだな。
こんな色と匂いのものを飲むのか?
到底美味そうには思えないな。
「これを溶かすのか。この粉はだしと言ったが、なんなんだ?」
「これがあるとさらに美味しくなるんだよ。多分コンソメみたいなやつ」
「コンソメとは違うが、似たようなやつなんだな」
「うん、調理工程はよく分かんないのごめんね。でもナッシュくんなら作れるかなって」
俺なら……
そうだ、俺は料理人だからな。
初見の食材や調味料だろうと構うもんか。
美味しいみそしるとやらを完成させてやる!
「任せろひより、俺がみそしるってやつを作ってやる。野菜は何を使えばいい?」
「大根のお味噌がいいな。はい、これだよ」
「だいこん……また見たことない野菜だな」
「これをね、なんて言えば伝わるかな。四角い棒みたいに切って欲しいの。このくらいの長さにしてほしいの」
「四角い棒だな。わかった」
どんな風に切ればそんな形になるんだろうか。
全然想像がつかないぞ。
だがそんな迷ってるところなんて見せられない。
さらっと当たり前のように切らないとだめだ。
さぁ、やってやろうじゃないか。
皮を剥くのか剥かないのか、それだって分からない。
どこから切ればいいんだろうか。
どんなふうに切れば四角い棒のようになるのだろうか。
ところで、なんでみーちゃんは俺の横でまな板を置いてるんだ?
とにかくやってみよう。
集中だ。
みーちゃんが横にいても乱されるな。
包丁と大根を持ってても気にするな。
無視しろ。
俺は俺のやり方で見つけるんだ。
え?もう切って……え?
…………でも、どうやって切ってるんだみーちゃんは。
くそっ、早すぎて見えない。
いかん、気にするな。
参考になんてしたらだめだ。
なぜなら俺は料理人、みーちゃんはただの従魔なんだからな。
ははーん、その形になるのか。
確かに四角い棒だな。
たまたま視界に入っただけ、そういうことだ。
くっ、またこっちを見て鳴きやがって……
「おーいナッシュ、肉はまだかー?」
「今から焼くぞ」
そうだ、肉も並行してやらなければならないんだ。
あの時の、焼肉の時を思い出せ。
できる、俺はできるんだ!
「うぉぉおおおおお!」
相変わらずすごい気合いだなぁ、ナッシュくん。
大根切るのにそんな気合いっているのかな?
私は料理人じゃないからわかんないや。
『キュッ!』
「ん?なーに?もう良くなってきたよ、ありがとうみーちゃん」
ふふ、みーちゃん可愛いな。
大根も切ってたみたいだけど、ほんとなんでもできちゃうなぁ。
「これにだしを入れて、大根を煮て、煮立ったお湯でみそを溶かす。これでどうだろうか」
『キュッ!キュキュ!』
「ど、どうしたみーちゃん……なんかあったか?」
「あ、お味噌汁は沸騰させちゃダメだよって言ってるみたい」
そうなのか……
スープを作るにも火加減が必要になってくるとは思わなかったぞ。
米といいみそしるといい、ひよりの知ってる料理は繊細すぎる。
だがこれを覚えることが俺の修行だ。
完全に覚えてやろう。
沸騰させたらダメなら強火はダメだろう。
じっくり煮てやるのがベストか?
煮立ったらダメなら火を止めるタイミングが重要だ。
よく見ろ、感じろ。
『キュッ!』
「今だってナッシュくん」
え?今?今止めるタイミングか?
くっ、乱されるな。
止めてやる、止めればいいんだな!
まだまだだ。
従魔のみーちゃんに教えられてるようじゃな。
精進あるのみだ。
「さぁひより、食べてみてくれ。これがみそしるで合っているのか教えてくれ」
「うん、ありがとう。いただくね」
あ、美味しい……
これだよこれ、この味。
私の大好きなお味噌汁だよ。
もう泣いちゃダメだよね。
涙が出そうだけど、今泣いたらみんな心配しちゃう。
少し馬車で酔ってて良かったかも。
身体が弱ってなかったら泣いちゃってたよ。
「どう、だ?」
「うん、とっても美味しいよ。これが私の大好きなお味噌汁だよ」
「そ、そうか、良かった」
「ふふ、ありがとうナッシュくん」
感動させるには至らなかったが、ひよりの大好きなものを作れたんだ。
誇らしいじゃないか。
みーちゃんに教えられたからと言っても作ったのは俺なんだ。
もう覚えたからな。
次からは一人で完璧に作ってやる。
「ナッシュ~私の肉はまだなのかー?」
「あっ!しまっ……」
やばい、焦がしてるだろこれ……
なにやってんだ俺は。
明日からまた修行のやり直しだ。
世界一の料理人の道は険しいな。
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