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毒をまとう魔法使いと、毒の効かないニセ聖女【どくまと!】  作者: 左京潤
第十章 再び、聖女のフリをするわたし
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59/60

子どもを寄せつけない魔法使い

他人に触れられない猛毒体質の大魔法使いと、

彼に触れても平気な毒耐性持ちニセ聖女(※実は妖精)の

人違い×隠し事から始まるハイテンションファンタジー


毎週火曜日20:20更新です。


→番外編はこちら

【番外編】どくまと道草物語【毒をまとう魔法使いと、毒の効かないニセ聖女】

https://ncode.syosetu.com/n6033ml/


→読み切り短編版はこちら

『猛毒持ち次期魔王(自称)に捕まった偽聖女の私、実は毒耐性持ちの妖精なんだが? バレる前に即逃げる!』

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「聖女さま! あそこにおはながさいてます!」


「聖女さま! あっちの木に、きれいなとりさんがいますよ!」


「聖女さま! みてください! いま、そっちにウサギさんが!」



 わたしの隣を歩きながら、ミリちゃんははしゃぎっぱなしだった。


 ぴょんぴょん跳ねるように歩きながらそこら中を見渡して、見つけたものをひとつずつ指さしては教えてくれる。


 その合間にも、



「そういえば聖女さまって、これまでどんなところへいったんですか?」


「聖女さまの好きなたべものは?」


「聖女さまはどんなお歌をうたったりするんですか?」



 なんて、思いついたことを次々と質問するのに忙しい。



 そんなミリちゃんのあくなき好奇心は、わたしたちの少し後ろをついてくる魔法使いにも向けられてるようだった。


 さっきからことあるごとに振り返っては、魔法使いの様子をちらちらとうかがってる。


 ……けど、大人の男の人にはどうも話しかけにくいみたいだ。



「……」


 やがて、ミリちゃんが意を決したみたいに足を止めた。

 そのまま、魔法使いへまっすぐ近づこうとする。



「……あれ?」



 その瞬間、まるで風にでも押されたみたいにミリちゃんの足が逸れた。

 ミリちゃんの身体はくるりとまわって、わたしの方を向いてしまう。

 

 ミリちゃんは不思議そうに目をぱちぱちさせた。

 それから、もういちど振り返ってまた魔法使いへ近づこうとする。


 ……けど、やっぱりダメだった。

 ミリちゃんが歩み寄ろうとするたびに足が逸れてしまって、どうしても魔法使いに近づけない。



「……?」


 戸惑ったように首を傾げながら、ミリちゃんがわたしの隣へ戻ってくる。



 涼しい顔で歩く魔法使いに、わたしは思わず非難のまなざしを送った。


 いまの、たぶん……というか確実に、魔法使いの仕業だ。

 自分に近づいてこようとするミリちゃんを、魔法を使ってやんわりと拒んでるんだ。



 ったく、近づいて欲しくないなら、そう言えばいいのに……。



 ……もしかして、こいつ、子どもが苦手なのかな? と思う。


 まあ、たしかに。

 こいつ、どう見たって子ども好きには見えないし、あれこれ話しかけられるのとか、あんまり好きじゃなさそうだもんね。




 ――そうこうしてるうちに、道が狭く険しくなってきた。



 そこかしこに大きな石ころや木の根があって歩きにくそうな感じになる。

 どうやら、目指す水源に近づいてるらしい。



「ここから、道が急になります!」


 ミリちゃんがわたしの顔を見上げて言った。


「聖女さま、どうか、足もとに気をつけて――わっ!」


 言葉の途中でミリちゃんが小さく叫ぶ。



 どうやら、顔をあげた瞬間に木の根につまづいてしまったらしい。

 ミリちゃんの小さな身体がバランスを崩して前につんのめる。


「ミリちゃん!」



 わたしはとっさに腕を伸ばした。


 けど、それよりも早く、転びかけてたミリちゃんの身体が空中で静止する。



 ――まるで、見えない腕にふわり、と受け止められたみたいだった。



 倒れる途中の格好で止まったミリちゃんの身体、そのまま、転ぶ前の姿勢へそっと戻される。



「え……」


 ミリちゃんはなにが起こったのか分からないみたいにきょとんとしてた。


 けど、わたしはすぐに察する。

 魔法使いの魔法だ。

 転びそうになったミリちゃんを、あいつが例の魔法の腕の伸ばして支えてあげたんだ。


 ……ふうん。


 わたしは思わずニヤリとした。そのまま、背後の魔法使いを振り返る。



「あんた、いいとこあるじゃん」


 ミリちゃんに聞こえないよう声を落として言ってやると、魔法使いはつまらなそうに鼻を鳴らした。



「べつに、当然のことをしたまでだ」


「……ていうか、あんた、子ども苦手なのかと思ってた。さっきからずっとミリちゃんのこと避けてたじゃん」



 その瞬間、魔法使いが呆れたみたいにわたしを見た。



「……子どもは身体が小さい分、毒の影響を受けやすい」


 魔法使いがため息混じりに応える。


「いくらなんでも、あまり俺に近づけすぎるわけにはいかないだろう」


「あっ」


 ……そうだった。こいつ、毒持ちなんだっけ。

 そりゃあ、安易に子どもを近づけちゃいけないよなあ。


 ようやく気づいた、って感じのわたしの反応に、魔法使いはわざとらしく息をついた。

 それから、ミリちゃんをチラリと見やる。



「……子どもは、守られるべきだ」


 いつになく優しい声だった。そのまなざしも、めずらしくやわらかい。



 そう言えば、こいつ、前に魔法で赤ちゃんをあやしてたこともあったっけ。

 ……こいつ、意外と、こういうとこあるんだよなあ。




「いま、ころびそうだったのに……」


 一方、ミリちゃんはまだ不思議そうな顔してた。

 わたしはふと思いついて、ミリちゃんの方へすすっと歩み寄る。



「さっきの、あのお兄ちゃんの魔法だよ」



 わたしが教えてあげると、ミリちゃんがぱっと顔を輝かせた。

 ……視界の端で魔法使いが「余計なことを言うな」って顔して睨んできたのが見えたけど、気づかないふりをする。



「あのお兄ちゃん、ちょっと事情があって、あんまり人に近づいて欲しくないひとなんだ。だから、近づかないままでお礼を言ってあげてね」


「はい!」


 ミリちゃんは笑顔で頷くと、尊敬のまなざしで魔法使いを見やった。



「聖女さまのカレシさま、ありがとうございます!」



 ……って。



「…………は?」


 ニヤニヤしながらふたりを見守ってたわたし、思わず絶句してしまう。 


 カレシ、って……彼氏!? この魔法使いがっ!?



「いや!? ぜんぜん、そういうのとかじゃないけど!?」



 声をうわずらせて否定すると、ミリちゃんが「えっ」と目を丸くする。



「でも、村の大人は『きっとそうだ』、っていってたし、さっきから、ふたりだけでなかよくおはなししてるし……」


「あれは業務連絡っていうの!」


「それに、とってもおにあいだし……」


「お似合いじゃないっ!」



 必死に反論するわたし。


 ……背後で、魔法使いが吹き出す気配がした。

 振り返りざま睨めつけると、やつはわずかにうつむいて小さく肩を震わせてる。


 どうやら、この状況を面白がってるらしい。くそう!



「ちょっと! あんたもなんとか言ってよ!」


 声を荒げてうながすと、魔法使いはやれやれ、という風に顔を上げた。


 その面にふっとよそ行きの微笑みを浮かべ、すぐ側のミリちゃんへとやさしげなまなざしを向ける。



「――ミリさん。残念だけれど、私は聖女さまの恋人ではないよ」


「そうなんですか!?」


「ええ。私はあくまで、聖女さまのしがない付き人だよ」



 諭すような口調でミリちゃんに話しかけたあと、ちらとわたしを見やって、



「――もっとも、私の方は満更ではないのだけれど……あいにく、聖女さまにはその気はないようでね」


 ……なんて、しおらしい顔で言ってくる。


 けど、表情とは裏腹に、その目はなんだかとても楽しげだ。



 ……くそう! からかいやがって!


 内心でぎりぎりしながら魔法使いを睨みつけてたわたし、ふと、反撃の手段を思いついてにんまりした。



「――そうだ、ミリちゃん」


 ミリちゃんに向き直ると、わたしはにっこり微笑んでみせる。


「付き人のお兄ちゃんが、すっごい魔法の手品を見せてくれるんだって」



「は?」


「えっ、ほんとう!?」



 魔法使いの間の抜けた声と、ミリちゃんの明るい声が同時にあがった。


 わたしは「うん」、と大きく頷いてみせる。


「きっと、ミリちゃんがこれまで見たことないような、すっごいやつを見せてくれるよ!」



「……聖女さま」


「できるでしょ?」


 なにか言いたげな魔法使いの視線を、わたしは笑顔でねじ伏せてやった。


「なんたって、あんたは、わたしの有能な付き人なんだから」



 あくまで微笑みを浮かべたまま、言下に「やれ」、と命令する。



 魔法使いがほんの微かに舌打ちした。

 けど、やがて諦めたみたいに息を吐き、しぶしぶ片腕を持ちあげる。




 ――魔法使いが呪文を唱えたとたん、ミリちゃんのまわりに無数の光の粒が広がった。




「わあ……!」

 

 ミリちゃんが目を丸くする。



 光の粒たちはきらきらと瞬きながら宙を踊り、その中にいくつもの渦が生まれた。

 渦を巻いて集まった光は、やがて花へと姿を変える。


 ひとつ、ふたつ……光の粒が踊る空中に、光でかたどられた花が次々に咲いていく。


 その花々の間にふと、青い光が流れた。



「……とりさんだ!」



 ミリちゃんがわあっと歓声をあげる。



 光でかたどられた青い小鳥は、輝く翼を羽ばたかせながら光の花の間を飛びまわった。

 ひとしきりそうしてからミリちゃんの頭上を一周し、その肩にふわりと舞い降り、翼を畳む。


 ミリちゃんがおずおずと指を伸ばすと、光の小鳥は小首を傾げ、甘えるみたいに首を寄せてきた。



「かわいい……!」


 光の小鳥を撫でながら、感極まったみたいに呟くミリちゃん。

 その足元には、いつの間にか、光でかたどられたウサギたちが楽しげに跳ね回ってた。



 ……って。


 魔法使いの魔法に圧倒されつつ、わたしは少しあきれてしまった。


 だって、魔法使いが光で作った花も、鳥も、ウサギも。みんな、さっきミリちゃんが見つけて、はしゃぎながらわたしに教えてくれたものにそっくりだったんだから。



 ……こいつ、興味なさそうな顔して、ミリちゃんのお話を聞いてたし、ミリちゃんが指したものも、ちゃんと見てたんだ。



 ……思わず、魔法使いの顔をちらと盗み見る。


 嬉しそうなミリちゃんを眺める彼の口元は、ほんのわずかに持ちあげられていた。



* * *



 やがて森が途切れ、わたしたちは小さな泉のほとりにたどり着いた。

 大きな岩の隙間から澄んだ水が湧き出して、泉の中へさらさらと流れ込んでいる。



 そして……村の人たちが話していた通り、泉の浅瀬に、小山ほどもある生き物の姿があった。



 ――それは、一体の水竜だった。


 なめらかな流線型の身体を丸め、泉の中に半身をゆったりと沈めている。

 青みがかった鱗はきらきらと透き通っていて、まるで氷か、それとも、水そのものでできているみたい。

 大きいけれど穏やかな目と相まって、どこか神聖な感じすらあった。



「まもの……!」



 怯えたように呟くミリちゃんに、魔法使いが「いや」、と首を振る。



「あれは……魔物ではないよ」



 ……たしかに。


 魔法使いの言う通り、その水竜からは、魔物特有の瘴気はいっさい感じられなかった。

子どもにやさしい魔法使い氏だー!

しかし、沼の異変は魔物の仕業ではなかった……!?


次話、8/11(火)20:20更新

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