耐えきれなくなるわたし
他人に触れられない猛毒体質の大魔法使いと、
彼に触れても平気な毒耐性持ちニセ聖女(※実は妖精)の
人違い×隠し事から始まるハイテンションファンタジー
毎週火曜日20:20更新です。
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【番外編】どくまと道草物語【毒をまとう魔法使いと、毒の効かないニセ聖女】
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『猛毒持ち次期魔王(自称)に捕まった偽聖女の私、実は毒耐性持ちの妖精なんだが? バレる前に即逃げる!』
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「っ!?」
反射的に剣の柄へ手をかける。
ほぼ同時にかたわらの魔法使いも動いた。片腕を持ち上げ、いつでも魔法を放てるように構える。
「ミリちゃん、下がっ――」
けど、わたしが最後まで言い終えるより早く、ミリちゃんが前に飛び出した。
その手には、例の木の枝の剣がしっかりと握られている。
「聖女さまたち! さがってください!」
ミリちゃんが自信たっぷりに叫んだ。
「ここは、あたしにまかせて!」
……って、危ない!
「ミリちゃん!」
わたしも咄嗟に剣を抜こうとした。
刹那、がさがさ揺れてた茂みの中から黒い影が飛び出してくる!
「……ちゅう」
現れたのは、一匹のネズミだった。
森の中でよく見かける、茶色いやつだ。
……って、なんだ、ネズミかあ。
強張ってた肩からへなりと力が抜ける。わたしは思わず息を吐いた。
……まあ、そりゃあそうか。
考えてみれば、魔物の匂いもしなかったしね。
わたしは剣の柄から手を離した。
視界の端で、魔法使いも上げてた腕をそっと下ろすのが見える。たぶん、彼もわたしと同じ顔をしてるに違いない。
……けど、ミリちゃんはいっこうに気を緩める様子はなかった。
それどころか、いたって真剣な顔のままで木の枝の剣を握りしめる。
「でたな! 聖女さまのゆくてをはばむ、わるいネズミめ!」
目の前のネズミに向けて、ミリちゃんが剣の先をつきつけた。
「おとなしく、おうちへかえりなさい!」
高らかに告げながらぶんぶんと木の枝の剣を振り回すミリちゃん。
「ちゅう!」
木の枝の剣に追い立てられ、ネズミはしばらくあわてたみたいに右往左往していた。
けど、やがてミリちゃんの猛攻に耐えかねたように茂みの奥へと逃げ戻っていく。
ネズミが去ったあとも、ミリちゃんは油断なく木の枝の剣を構えていた。
茂みが揺れるガサガサと言う音が完全に収まった頃にようやく剣を降ろし、「ふぅ」と小さな息を吐く。
「てごわい、あいてでした……」
「……う、うん、そうだね」
神妙な面持ちで呟くミリちゃんの雰囲気に飲まれ、わたしは思わず頷いてしまった。
……って、飲まれてどうする。
わたしはすぐ我に返ると、ミリちゃんの隣へと駆け寄った。
「ミリちゃん、大丈夫だった?」
「はい! ぶじです!」
「ありがとう、ミリちゃん」
誇らしげにこちらを見上げてくるミリちゃんにお礼を言ったあと、わたしはちょっとだけ口ごもった。
それから「でもね」と言って、ミリちゃんの顔を覗き込む。
「わたしたちを守ろうとしてくれたのはえらいけど、ああいうとき、無闇に飛び出しちゃダメだよ。……村の外には危ない生き物もいっぱいいるし、もしかしたら、ほんとの魔物が出るかもしれないしね」
わたしが諭すと、ミリちゃんはしゅんとした様子で肩を落とした。
「……はい」
けど、すぐに気を取り直したみたいにぱっと顔を上げる。
「でも! 聖女さまは、あたしくらいのころにはもう、わるいまものをたおしてたって、村の大人にききました!」
「えっ」
わたしは思わず声を上げた。すぐ側で、魔法使いが微かに息を呑むのがわかる。
「だから、あたしも、はやく、まものをたおせるようになりたいんです!」
ミリちゃんがきらきらと目を輝かせた。
「聖女さまは、どんなしゅぎょうをして、まものをたおせるようになったんですか?」
「……へっ?」
思いもよらぬ質問に、わたしはすっかり戸惑ってしまう。
いや、修行、って言われても……。
たしかに、剣の修行はした。
わたしの母さんは優秀な魔法剣士で、昔からいっぱい稽古をつけてくれた。母さんと手合わせするの、まるで音楽に合わせて身体を動かすときみたいに楽しかった。
でも、魔物退治は、それとはまた別。
魔物を倒すこと自体は、剣の稽古を始めるよりずっと前――それこそミリちゃんよりもちっちゃい頃から魔法を使って、ごく当たり前にやってた。
なんならその魔法だって、特に教わったとか練習したとかでもなく、いつの間にか自然に使えるようになってたんだ。
魔物を倒せるようになるために努力をした記憶、わたしには一切なかった。
だって、わたしたち妖精は魔物の天敵で、生まれつき、そういうものなんだから。
……けど、いくらなんでも、そう答えるわけにはいかないよなあ。
「――え、ええとね」
わたしはしどろもどろで口を開いた。
「わたしは、母さんから剣を教わって……」
「えっ?」
ミリちゃんが不思議そうな顔をする。
「もしかして、聖女さまのおかあさまも剣士だったんですか? きぞくさまなのに?」
「そ、そうじゃなくて!」
わたしはあわてて首を振った。
「ええと…あのね、母さんに、剣の使い方が書かれた本を読んでもらったりしたんだよ!」
苦しい言い訳をしながら、わたしは胸の奥がずんと重くなるのを感じた。
……わたし、またウソをついてる。
本物の聖女さまのフリをして、聖女さまについて勝手なことを話してる。
――本物の聖女さまは、これまで、すっごく努力してきたに違いなかった。
そうでもなければ、ただの人間の身でありながら、子どもの頃から魔物を倒せてたはずがないんだ。
けど、わたしは違う。
生まれつきなんの苦労もなく魔物を倒せてしまうわたしが、血の滲むような努力をしてきた聖女さまのフリをしてる。
……それって、なんだか、とんでもなくズルいことみたいな気がした。
……それに、ミリちゃんのこともだ。
さっき、茂みから物音がしたときにミリちゃんが飛び出したのって、聖女さまに憧れてるせいで……つまりは、わたしのせい。
今回はわたしたちが側にいたし、相手もネズミだったから良かったけど、もしもそうじゃなかったら……って考えると、ぞっとしてしまう。
わたしがウソをついて聖女のフリをしたせいで、ミリちゃんが大変なことになってしまったら……。
ミリちゃんと再会したときは、この子の夢を壊したくない、がっかりさせたくない、って思ってた。
……けど、それで良いんだろうか。
わたしは、このまま、ミリちゃんを騙してて良いの……?
「――どうしたんですか、聖女さま?」
ミリちゃんの声ではっと我に返る。
思わず視線を向けると、ミリちゃんが怪訝そうにこちらを見上げてた。
……視線が合った瞬間、胸の奥がぎゅっとする。
「……ねえ。ミリちゃん」
気づけば、口が動いていた。
「あのね。もしも、わたしが――」
「あ、そうだ! 聖女さま!」
言いかけたわたしの言葉を遮って、ミリちゃんが思い出したように声をあげた。
「そういえば、しってますか!? なんか、さいきん、聖女さまのなをかたるフトドキものがいるらしいですよ!」
「へっ……」
「聖女さまのフリをしてみんなをだますなんて、とんでもないやつですよね! そんなフトドキモものは、しかるべきムクイをうけるべきです!」
「ど、どこでそんな言葉をっ……?」
「おむかいのおねえちゃんの口グセです!」
ミリちゃんがえへん、と胸を張る。
「おむかいのおねえちゃんも、聖女さまの大ファンで、いろんなことをおしえてくれるんです! おねえちゃん、『聖女さまのなまえをけがすフトドキものには、セイサイを!』っていってました!」
「あ、そ、そうなんだ……」
まって!? この村の人たち、聖女さまのこと好きすぎてヤバいことになってないか!?
いや、元をたどればわたしが蒔いた種なんだけどさ。
……わたしは冷や汗をかきつつ「で、でも」と口を挟んだ。
「その、聖女のフリしてるっていう人にも、いろいろと事情があるかもだし……」
「聖女さま! なんておやさしい……!」
ミリちゃんがすっかり感動したように目を輝かせる。
「……そんな聖女さまのやさしさにつけこんでわるさをするフトドキもの、いっそうゆるせないですね!」
「はは……」
わたしはただ、ひきつった笑いを浮かべるしかなかった。
……って、いや、これ、言い出せるわけなくないっ!?
次話、8/4(火)20:20更新
地味回続いてすみません……。
次はいよいよ魔法使い氏が活躍予定!?




