安請け合いしてしまうわたし
他人に触れられない猛毒体質の大魔法使いと、
彼に触れても平気な毒耐性持ちニセ聖女(※実は妖精)の
人違い×隠し事から始まるハイテンションファンタジー
毎週火曜日20:20更新です。
→番外編はこちら
【番外編】どくまと道草物語【毒をまとう魔法使いと、毒の効かないニセ聖女】
https://ncode.syosetu.com/n6033ml/
→読み切り短編版はこちら
『猛毒持ち次期魔王(自称)に捕まった偽聖女の私、実は毒耐性持ちの妖精なんだが? バレる前に即逃げる!』
https://ncode.syosetu.com/n4523lo/
* * *
「――ありがとうございます! 聖女さま!」「聖女さまはこの村の救世主だ!」
「聖女さま!」「聖女さま!」「聖女さま!」
村人たちの中から湧き起こった聖女コールが徐々に熱を増していく。
その中心にはひとりの銀髪の少女の姿があった。
……そう、あの少女だ。
その身にまとう毒ゆえに、いっさいの他人を寄せつけないヴィルク様。
そんな彼の隣に平気な顔して居座り、あまつさえは仲睦まじげにアイスクリームなど食べていた、あの銀髪の少女――。
そんなはずはない。
ヴィルク様には毒があるのに。毒を理由に私を遠ざけられたのに。それなのに、他の女と親しくなるだなんて、そんなことがあっていいはずがない。
絶対におかしい。……きっと、なにかズルをしているに違いない。
そう睨んで、ハマルカからここまで跡をつけてきたのだけれど……。
「彼女が、【銀煌の聖女】……?」
少し離れた家の物陰から様子を窺いつつ、ルシフィーナは思わず呟く。
「……妙ですね」
ルシフィーナは訝しげに眉を顰めた。
――かつて、父に連れられて西の都を訪れた際、カレニアの宮廷で【銀煌の聖女】その人に挨拶をしたことがある。
たしかに、彼女も銀の髪と青い目をしてはいた。
けれども、いま村人たちに囲まれて熱い歓迎を受けている少女はどう見ても、あの時の聖女とは全くの別人だ。
握りしめた拳に力が入る。
村人に囲まれる少女を睨みつけつつ、ルシフィーナは確信を込めて呟いた。
「やはり、彼女はなにかズルをしているに違いありません……!」
* * *
「――たしかに、うちの村は、少子高齢化が進んでいますが……」
村長さんが苦笑いしながらわたしを見る。
「さすがに、その件で聖女さまを頼るわけにはいきませんよ」
……どうやら、ミリちゃんの無茶振りに困惑するわたしを見かねて助け船を出してくれたらしい。
わたしはホッと胸をなで下ろした。
けど、当のミリちゃんは納得いかない様子。
大きな目を丸くして「ええっ!?」と不満げな声をあげる。
「聖女さまはなんでもできるのに、なんでおねがいしないんですか!?」
「ミリ。聖女さまは確かに立派なお方だけれど、だからといって、なんでも頼ろうとしてはだめだよ。自分たちでできることは、自分たちでやらないとね」
「……」
村長さんにたしなめられたミリちゃんが口をつぐんだ。
その目はまだなにか言いたげだったけど、やがて「……はい」と小さく頷く。
……うーん、良い子だ。
ともあれ、少子高齢化をなんとかしろ、というお願いは無事、取り下げられたらしい。
さて、あとは村長さんに口止めを頼んで、速やかに村を出るだけ――。
「……と、偉そうなことを言った手前、たいへん心苦しいのですが……」
……そんなわたしの目算は、続く村長さんの言葉にあっさりと破られた。
――高台にあるこの村では、昔から豆や小麦なんかの栽培が行われていた。
けど、低地に広がる湿地に関してはほとんど手つかずで、村は長年、この湿地の新たな活用方法を探していたらしい。
その湿地に昔から自生していたのが、「ヌマイモ」と呼ばれる植物だった。
その名の通り沼に生え、花が枯れたあと、水中の泥に穴の空いた芋をつける。
その芋は細く小さくて、食べられないことはないものの、わざわざ掘り出してまで採るほどのものではなかったそうだ。
まあ、つまりは、レンコンみたいなやつだろう。
「――ところが数年前、湿地の奥で、ひときわ大きな芋をつけるヌマイモが見つかったのです。しかも、ただ大きいだけではなくて、味もよく……」
「おいしいんですか!?」
反射的に身を乗り出すと、村長さんが「ええ」、と微笑んだ。
「芋全体に甘味があり、ホクホクとしているんですよ。煮たり焼いたりして食べるのはもちろん、水に晒せば上質な粉も取れます。……そう言えば、去年のヌマイモ粉がまだ少し残っているのですが、もしご興味がおありでしたら、お分けいたしましょうか?」
「ぜひ、お願いしますっ!」
わたしは食い気味に答えた。……そんなの、ぜったい欲しいに決まってる!
「では、早速用意させましょう」
村長さんは優しげに目を細めると、話を続けた。
「……というわけで私たちは、この芋をもっと増やせないか、と考えまして。試しに株分けしたものを村の側の沼へ植え替えてみたところ、無事、新しい芋を収穫することができました。
これは村の新しい特産品になるかもしれない、と、毎年少しずつ株を増やしていき……今年はさらに手を広げて、新しい沼にも植え付けたのですが……」
そこで、村長さんの表情が曇った。
「最初は順調だったのですが、しだいに葉が黄色くなり、ついには、半分ほどが枯れてしまいまして……」
「魔物の仕業ですよ!」
村人のひとりが声をあげる。
「この間、沼地の水源の山へキノコを採りに行ったら、水の中に小山ほどもある魔物がいたんです! 俺、必死で逃げて帰ってきて……」
「俺も見た! 本当に小山みたいに大きかった!」
「私もあの山で、この世のものとは思えないような恐ろしい鳴き声を聞きました!」
「魔物には毒があるんでしょう? きっと、その毒が沼に流れ込んでいるんです!」
「……と、村の者たちはこう、申しているのです」
村長さんが深々と息をついた。
「……しかし、過疎化と少子高齢化に悩むこの村に、魔物と戦えるような人間などひとりもおりません。そこで、聖女さまにご相談なのですが……」
村長さんはそこで言葉を切り、申し訳なさそうな顔でわたしを見た。
「図々しいお願いだとは百も承知なのですが……もし、差し支えなければ水源へ赴き、そこに棲みついた魔物がどんなものか、確かめてきては戴けないでしょうか?」
村長さんが深々と頭を下げる。
「長年魔物と戦ってこられた聖女さまなら、件の魔物がどの程度のものなのか、おおよそ見当がつくと思うのです。聖女さまに確認して戴いたのち、その情報を元に、街のギルドへ依頼をしようと……」
「ああ。そういうことなら、わたしが倒してきますよ」
軽い調子で答えると、村長さんが絶句した。
「へっ……」
「偵察だけして戻ってくるなんて二度手間だし、そのまま倒してきちゃえば一度で済みます」
……ていうか。
村長さんがあんまり深刻な顔をするもんだから、今度はいったいどんな難題をふっかけられるものかと思ったら。
魔物退治なんて、いっちばん簡単なやつじゃん!
「い、いや、しかし……」村長さんが困ったように目を泳がせる。
「何やら手強そうな魔物ですし、さすがに、聖女さまにそこまでして戴くわけには……」
いえいえ、と、わたしは軽く手を振った。
「まかせてください! 少子高齢化の解決はさすがに無理だけど、魔物退治なら得意分野です!」
そこで言葉を切って、わたしは村長さんに微笑みかける。
「その代わり、さっき分けてくださるっておっしゃってたヌマイモの粉、よろしくお願いしますね」
村の人たちの間から「おお」と声があがった。
歓喜に湧く大人たちの間で、ミリちゃんもきらきらと目を輝かせてる。
「やっぱり、聖女さまはすごい……!」
「…………」
……視界の端で、魔法使いがそっと額を抑えるのが見えた気がした。
次話、7/21(火)20:20更新




