歓迎されてしまうわたし
他人に触れられない猛毒体質の大魔法使いと、彼に触れても平気な毒耐性持ちニセ聖女(※実は妖精)の
人違い×隠し事から始まるハイテンションファンタジー
毎週火曜日20:20更新です。
→読み切り短編版はこちら
『猛毒持ち次期魔王(自称)に捕まった偽聖女の私、実は毒耐性持ちの妖精なんだが? バレる前に即逃げる!』
https://ncode.syosetu.com/n4523lo/
「聖女さまだ!」「聖女さま!」
「聖女さま! ようこそおいでくださいました!」
湿地を抜けて村へ着くなり、わたしは村の人たちに囲まれてしまった。
湧き立つひとたちの真ん中で、先に村に戻ってたミリちゃんが嬉しげに胸を張ってる。
「ね、あたしの言ったとおりでしょ?」とでも言わんばかりの得意げな表情だ。
「ああ! 本当に、あのときの聖女さまだ!」
出迎えてくれた人たちの中には、なんとなく見覚えのある顔がいくつかあった。
その中のひとりが、人垣の中からいそいそと出てくる。
商隊をまとめてた中年のおじさん。
あのとき逃げ遅れ、いまにも魔物に食べられそうになってたおじさんだ。
「聖女さま! その節は本当にありがとうございました!」
おじさんはわたしの前に出るなり深々と頭を下げる。
「あの時はもうダメかと思いましたが、お陰で助かりまして……村に残してきた妻の出産にも無事、立ち会えました!」
「聖女さま! どうか、この子の名付け親になってください!」
そばにいた女のひとからおくるみに包まれた赤ちゃんを差し出され、わたしは目を白黒させてしまった。
って、そんな! 名付け親はさすがに重いってば~っ!
「近々、広場の中心に聖女さまの像を建てよう、という話が出ておりまして、それに伴い、広場の名前も『聖女さまの奇跡記念広場』と改めることに……」
いや、待って!?
「あと、聖女さまが我々を救って下さった日を記念日とし、聖女祭りを行うことになったんです! 最終日には村人総出で広場に集まり、みなで輪になって聖女さま音頭を……」
「実は私も、『聖女さまに救われた私』という手記を自費出版する計画が……」
や、やめてえええええ~!
わたしは顔を引きつらせた。
歓迎されるのはありがたいけど、さすがにやりすぎじゃない!?
……こうまで喜ばれてしまうと、さすがに後ろめたい。
わたしはいつも通りチョイチョイっと魔物を倒しただけだし、そもそも小遣い稼ぎが目的で、下心ありありだったし、そのうえ、聖女のフリまでして……。
「あっ、あのっ!」
たまらず、わたしは口を開いた。
「皆さまのお気持ちはありがたいんですけど、わたしは別に、そんな大したことはっ……」
「――みな、それだけ感謝しているんですよ」
その瞬間、人垣の向こうから落ち着いた声が聞こえてくる。
思わず顔を上げると、村の人たちの間から、杖をついた年配の女性がゆっくりと進み出てくるのが見えた。
「お目にかかれて光栄です、聖女さま――私が、この村の村長です」
わたしたちの前まで来ると、彼女は丁重に頭を下げた。
「聖女さまのご活躍は、村の者たちから聞いております。――先日は村の者たちをお救いいただき、本当にありがとうございました」
「い、いえ、そんな! わたし、たまたま近くにいただけで……」
「――あの時は、村の働き手のほとんどが、商いに出ていたんです」
村長さんがしみじみと目を細める。
「普段の買い出しならば近くの町で済ませるのですが、先だっては新しい取引先を探すため、街道沿いの市場町まで出掛けておりまして……その帰りに魔物に襲われたのです。もしもみなが帰らなかったら、この村はいったい、どうなっていたことか……」
「え、ええと……」
「聖女さま、本当にありがとうございました」
村長さんがもう一度、深々と頭を下げる。
それにつれて、村の人たちもそれぞれ頭を垂れた。
「ありがとうございます! 聖女さま!」「聖女さまはこの村の救世主だ!」
「聖女さま!」「聖女さま!」「聖女さま!」
みなの口々から放たれる感謝の言葉は、やがて熱い聖女さまコールとなってあたりを包む。
……って! だから! わたしはほんとは聖女じゃないんだが~っ!?
ああもうっ! 小金ほしさに聖女のフリなんてしなきゃ良かったっ~!
「あのう……」
やがて聖女さまコールがひとしきり落ち着いたところで、村人のひとりがおずおずと口を開いた。
「ところで聖女さま、そちらのお方は……?」
「へっ」
ふと問われ、わたしは目を丸くしてしまう。
一瞬前まで聖女さまコールで盛りあがってた村の人たちの視線、気づけば魔法使いに釘づけになってた。
どうやら、ようやく彼の存在に気づいたらしい。(それか、聞くタイミングをうかがってたのかも)
そういや、あの商隊を助けたときにはわたし、まだ魔法使いに捕まってなかったんだっけ。
そりゃあ、聖女が知らん男を連れてたら気にもなるよね。
……けど、こいつのこと、なんて説明したもんか。
婚約者、ってのは論外として、「わたしを捕まえてる悪い魔法使いだ」って説明するのもややこしいことになるし……。
わたしが戸惑ってると、魔法使いがすっと前に出た。
「――申し遅れました」
爽やかな微笑みを浮かべ、うやうやしく一礼する。
「わたくしは聖女さまの付き人。聖女さまの旅に同行させていただいております、しがない魔法使いです」
付き人ぉ!?
あまりにも白々しい嘘にわたしはぽかんと口を開けてしまった。
けど、魔法使いはまったく悪びれもない。
「つい先日まで、所用で聖女さまと別行動をしていたのですが……まさか、その間に聖女さまがこの村の商隊を助けていたとはつゆ知りませんでした。皆さま、ご無事で本当になによりでした」
涼やかに嘘八百を並べ立てつつ、悠々と会釈する。
人だかりのあちこちから「ほう」というため息が洩れた。……どうやら、魔法使いの外面の良さに騙されてるらしい。……この詐欺師め。
「聖女さま、付き人がいらっしゃったんですね!」
「さすがは聖女さま、これほど美しい方を付き従えていらっしゃるなんて……!」
「――お褒めいただき光栄です」
魔法使いが悠然と微笑む。
「……ですが、わたくしなど、聖女さまの御前にあっては道端の小石も同然。聖女さまの尊さを引き立てる役にすら、いささか力不足でございましょう」
その言いようにわたしは呆れてしまった。
ていうか、あんた大魔法使いでしょ!? わたしなんかよりよっぽど偉いくせによく言うじゃん!
「まあ、付き人さままで、なんて謙虚な……」
「とんでもない。ただの事実です。しかし……」
不意に、魔法使いがわたしを見た。
そのまま眉根をわざとらしく寄せ、深々とため息を吐いてみせる。
「……本当に謙虚なのは、我が主の方です。聖女さまと来たら本当に、ご自身の功績に頓着がなく……。従者のわたくしですら、この村に来るまで、聖女さまが商隊を救ったことを知らなかったくらいなのですから」
「そうなんですか!?」
「ええ。……本当に、聖女さまはご自身の手柄をいっさい誇ろうとしないのです。つい先日、そこの巨木の高さほどもあるひとつ目の巨人と戦い、見事に討ち倒したあの件も……」
っておい! それ、あんたがけしかけてきたやつでしょ!
【銀煌の聖女】判別専用の魔法生物の恨み、まだ忘れてないんだが!?
「――他にも、不祥にも怪我を負って戦えなくなったわたくしを守るため、たったおひとりで百を超える魔物を退けられたあの件も……」
「おお……!」「なんと勇ましい……!」「さすがは聖女さま……!」
「――それに、先の街で聖女さまは『偽りの聖女』などという不当な汚名を着せられながら、それでもなお、自らを疑った人々を見捨てず、魔物の脅威から救われたのです……!」
「なんという慈悲深さ……」「やはり、本物の聖女さまだ……!」
芝居がかった魔法使いの語りに村の人たちがどよめいた。
わたしを見る彼らの瞳がさらに熱を増していくのが分かる。
特にミリちゃんなんて、もう、完全に目がきらきらしていた。
「聖女さま、すごい……!」
感動に肩を震わせながら呟く。その視線はまるで、物語に出てくる英雄を目の当たりにしてしまったって感じの顔だ。
……って! 魔法使い、なに考えてんだよっ!?
耐えられなくなったわたし、思わず魔法使いのローブの端を掴んで引っ張った。
「あの! すみません! わたし、付き人と少々話がっ……! あんた、ちょっとこっち来て!」
「おや、どうされたのですか、聖女さま」
「いいから! ……すみません、みなさん、少しお時間いただきますね!」
村の人たちに頭を下げつつ、わたしは少し離れた木陰まで魔法使いを引っ張った。
「……なんだ。せっかく良いところだったのに」
「良いところ、じゃない! なんだよ! あの話はっ!」
「すべて本当のことだろう」
「盛りすぎだって言ってんの! ……っていうか、あんた、わたしが聖女だと思われたくないんじゃなかったのっ?」
「方針転換だ」
魔法使いは涼しい顔で答える。
「……そもそも、聖女であることを否定するより、聖女だと思わせたまま村人たちに口止めする方が理に適っている、というのは、ピュイが言いだしたことだろう」
「うっ」
「ならば、むしろ聖女への信仰心を高めたうえで利用する方が効率的ではないか」
……それは、そうだけどっ……でも、あそこまですることある!?
お陰でミリちゃんの期待が重いんだがっ!?
「……ていうか、しがない魔法使いとかよく言うじゃん。みんなの前であんなにへりくだっちゃってさ。大魔法使いのくせにあんた、プライドとかないの?」
「プライドとはスライムのようなものだ。必要に応じて形を変える」
魔法使いはしれっと言ってのけると、口の端を軽く持ちあげた。
「――それに、以前にも言っただろう。自身に確固とした自信があるからこそ、へりくだることに抵抗はないのだ。あのセレス嬢も、貴族令嬢ながら見事に付き人を演じきっていたではないか」
「そうだったかなあ!?」
魔法使いは軽く笑ったあと、ふと、真顔になった。
「――しかし、冗談は抜きにして、すごい人気だな」
興奮した様子で騒いでいる村の人たちに視線を向け、ぽつりと呟く。
「……誰のせいだよ」
恨みがましげに魔法使いを睨み、わたしは嘆息した。
「……ほんと、なんか、申し訳なくなるよ」
……掛け値無しの本心だった。
魔法使いがほんの少し、眉を動かした。
わたしを見下ろし、わずかに目をすがめる。
「……まあ、あれだけの人気があれば、口止めを頼むのも容易いだろう」
やがて、魔法使いがそう呟いた。
「村長の方から出向いてくれたのだ。さっさと話をまとめて村を出るぞ」
うん、とわたしは頷いた。
* * *
「村長! なんで聖女さまにおねがいしないの!?」
コソコソ話を終えたわたしたちが戻ると、ミリちゃんが村長さんになにかを訴えているところだった。
「ミリ。聖女さまにこれ以上ご迷惑をおかけしてはいけないよ」
穏やかにたしなめる村長さんに、ミリちゃんは「でも!」と食い下がる。
「聖女さまはつよいし! なんでもできちゃうし! お願いすればきっと、なんとかしてくださるはずだよ!」
「しかし、聖女さまにこれ以上、ご迷惑をお掛けするわけには……」
……おお。なんか、わたしの……厳密には違うけど(わたし、聖女じゃないしね)、わたしの話をしてる。
「ええと……どうされたんですか?」
思わず口を挟むと、ミリちゃんがぱっと顔を輝かせた。
「聖女さま! じつは、うちの村、すっごくたいへんなんです! このままだと村がなくなっちゃう、って……」
「村がなくなる?」
「だから、聖女さまのお力をおかりしたいんです!」
ミリちゃんが真っ直ぐわたしを見上げてくる。
「おねがいします! 聖女さま! どうか、うちの村をたすけてください!」
ええと……。
……隣から、魔法使いの無言の圧が飛んでくる。
……魔法使いがなにを言いたいのかは分かる。ていうか、そうすべきだっていうのも分かってる。
けど、いま、わたしの目の前には、わたしを信じるミリちゃんの必死な顔があって……。
その腰には、手製の剣が提げられてて……。
「……うん」
……結局、わたしは屈した。
「その……わたしが力になれるかどうかは分からないけど……よかったら、話してくれる?」
ミリちゃんの顔が喜びに輝いた。
「ありがとうございます!」、とミリちゃんが身を乗り出す。
「聖女さま! どうか、うちの村の、しょーしこーれーかを、なんとかしてください!」
「へっ?」
その瞬間、わたしはあんぐりと口を開けた。
この村の危機って、し、少子高齢化~!?
「っ……」
すぐ側で誰かが吹き出す気配がして、わたしは思わず隣の魔法使いを睨めつける。
「……あんた、いま笑ったでしょ?」
「……いえ」
魔法使いが神妙な面持ちで否定する。
「聖女さまも大変だな、と思いまして」
……けど、そう答える口元はほんのりとゆるんでた。
こ、こいつっ……他人事だと思って!
「え、ええと、ミリちゃん……」
おろおろしながらミリちゃんを見下ろすと、期待に満ちたまなざしと目が合った。
聖女さまなら絶対にできる、っていう、強い確信に満ちたまなざしだ。
ううっ、わたしは聖女さまじゃないのに~っ!
……っていうか、本物の聖女さまでも無理でしょ! さすがに! それは!?
ミリちゃんのお願い事はこの村の少子高齢化をなんとかすること!?
果たして主人公はどうするのか?
……次回は本編をお休みして番外編を更新予定でーす。
7/7(火)20:20更新




