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毒をまとう魔法使いと、毒の効かない偽聖女【どくまと!】  作者: 左京潤
第九章 期待を裏切れないわたし
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魔法使いの提案

他人に触れられない猛毒体質の大魔法使いと、彼に触れても平気な毒耐性持ちニセ聖女(※実は妖精)の

人違い×隠し事から始まるハイテンションファンタジー


毎週火曜日20:20更新です。


→読み切り短編版はこちら

『猛毒持ち次期魔王(自称)に捕まった偽聖女の私、実は毒耐性持ちの妖精なんだが? バレる前に即逃げる!』

https://ncode.syosetu.com/n4523lo/

「へっ……」


「――俺の魔法ならば、お前の容姿を変えてやれる」



 間の抜けた声をあげるわたしの前で、魔法使いは淡々と続ける。



「髪の色も、目の色も、顔立ちも、背格好も。望むのならば性別も変えられる。なんでも好きな姿にしてやろう。だから……」


 魔法使いの声が低くなる。


「その姿を捨て、まったくの別人として、どこか知らない土地で生きるのはどうだ?」



 わたしは思わず魔法使いを見上げた。


 どうせ、いつもの冗談かなんかだろうと思った。

 けど、そこにある表情は思いのほか真剣で、わたしは戸惑ってしまう。



「無論、当面の生活に困らないだけの金は用意する」


 魔法使いはそう言うと、わずかに目を眇めた。


「もしも、その選択をするのであれば、俺は聖女を解放しよう。……そうすれば、そのネコミミも必要なくなる」



 そう、静かに告げてくる。



 解放。


 思いも寄らぬ提案に、わたしはしばし、ぽかんとしてしまった。



「……まあ、唐突な話に聞こえるだろうが」


 わたしの反応をどう受け取ったのか、魔法使いはわずかに苦笑する。


「俺は、お前が聖女としての立場を捨て、違う名を名乗るようになった理由を詮索するつもりはない。しかし……そうして過去を捨てたのであれば、いっそ容姿も捨て、完全に別人になったとて、さして障りはないのではないか?」


 そう言って、どこか皮肉げにこちらを見てくる。



 ええと……。


 わたしは困惑してしまった。

 なにをどう言おうかしばらく迷ったあと、口を開く。



「まず、わたしは聖女じゃない、ってのが大前提なんだけど……」



 ……とりあえず、訂正しておく。(べつに自分の意思で故郷を飛び出して偽名名乗ってるわけじゃないぞ、わたしは)

 

 そのうえで、わたしはため息まじりに首を振った。

 


「やめとくよ」、とわたしは応える。


「あんたからもネコミミからも解放される、ってのは朗報だけど……うまい話には飛びつかないことにしてるんだ。……ていうか」


 言いながら、わたしは目の前の魔法使いを思いっきり睨めつけた。



「あんたのことだし、どーせロクでもないこと企んでるんでしょ?

 なんでも好きな姿に~とか言っといて、またしれっと馬に変えるとか、人間の姿に見えても、こっそりツノとか尻尾が生えてたりとかさ。それで、『聞かれなかったから言わなかっただけ』とか『元に戻して欲しければ言うことを聞け』とか言いそうじゃん」



 最後のほう、わざと魔法使いの口調を真似て言ってやる。


 魔法使いが苦笑した。



「……信用がないな」


「あると思った?」


「……反論はできない」



 でしょう? とわたしは鼻を鳴らした。

 なんせ前科しかないからな! これまでの行いだよ!



 ていうか、そもそもの話だけど――。


 『魔王になるためには聖女が必要だ』とか言っておいて、『姿さえ変えれば解放してやる』とか言い出すなんて、フツーにつじつまが合わない。


 もしかしたら、『聖女が狙われてる』っていう匂わせ自体がブラフなのかも……。


 そう考えると、もう、そうとしか思えなかった。


 こいつはそれくらいのこと、平気でする。

 直接は告げず、隠してるフリして危険をあおってわたしを不安にさせて、それにつけこんで、わたしに姿を変えさせる。

 そうしてしまえば、もう、わたしの存在を知るものは、こいつしかいなくなるんだ。



 たとえば……と、わたしは想像してみる。


 今後もし、『魔王になろうとするヴィルクの企みを阻止するため、聖女を取り戻さなければ』みたいな人が現れたとしても、わたしの居場所を探し当てることはできなくなるだろう。

 つまり、全てがこいつの思い通りになる、ってこと。


 それって、完全なバッドエンドじゃないか!



「……ていうか」


 わたしは魔法使いを見据えた。


「わたしを解放する、ってのがほんとなら、【誓約の魔法】で誓える?

 『わたしの姿を変えたあとは、もう、いっさいわたしには関わらない』、って」



 魔法使いは沈黙した。

 ……ややあって、重々しく口を開く。



「……それはできない」


「やっぱり、騙す気なんじゃん」


「そうではない」


 魔法使いは即座に否定した。



「ただ……」


 言いかけて、口を閉ざす。


 その瞳には迷いの色があった。

 まるで、最適な言葉がどうしても見つからない、とでもいう風に。



「……とにかく、お断りだね」


 しばらく待って、わたしはため息をついた。



「そもそも、別人になれる、って言われてもね。いまの自分、まあまあ気に入ってるんだ。聖女さまに間違われやすいのは面倒だけど、身軽だし、いっぱい動けるし、ご飯もおいしく食べれるし、髪の毛もつるつるだし……」


「……髪の毛は関係あるのか?」


「あるよ。気持ちいいから、つい触っちゃうんだよね」



……それに、と思う。


 家も、居場所も、名前もなくしてしまったわたしが、姿までなくしてしまったら、わたしにはもう、なんにもなくなってしまう。


 この世界から、わたしが消えてしまう気がして。……それは、なんかイヤだった。



「……そうか」


 魔法使いが呟いた。


 なぜだか、ほっとしたような声色だった。

 どこか強張っていたその肩から力が抜けるのが分かる。

 張り詰めてる感じだったそれまでの空気も、ふっとゆるんだ感じがした。



「……ならば、今後はよりいっそう気をつけるべきだ」、と魔法使い。


「目立つ行動は慎め。これ以上、聖女と誤認されないように」


「はいはい」


 魔法使いの小言をわたしは軽くあしらった。……ったく、口うるさいやつだ。



「ご忠告どうも。まあ、せいぜい、気をつけ……」


「聖女さまー!」



 ……その瞬間。遠くから、わたしの言葉に被さるように声が聞こえてきた。



 聞き間違いじゃない。人の声だ。

 そして……状況的に、明らかに、わたしへと向けられたもの。


 反射的に顔を上げると、小さな人影が、湿原のはるか向こうからこっちへ近づいてくるのが見えた。



 ……思わず魔法使いを見やると、なんだかものすごーく物言いたげな視線が返ってくる。

 

「って、いやいやいや!」わたしはぶんぶんと首を振った。



「いまのはわたしのせいじゃなくない!? ていうか、わたし、なんにもしてなくないっ!?」


「……何もしていないのに、どうして聖女と呼ばれる?」


「ええと……じ、人徳かな」



 冷や汗混じりに弁解するわたしに、ジト目の魔法使いが深々と嘆息した。


「……やはり、髪の色だけでも変えるべきか」


 神妙な面持ちでぽつりと呟く。



「聖女さまーっ!」



 そうこうしてるうちに、人影はどんどん近づいてきた。

 最初はシルエットしか分からなかった姿も、だんだんはっきりとしてくる。



 わたしはあっと声を上げた。



 栗色の髪の毛を三つ編みにした、小さな女の子。

 その姿には、はっきりと見覚えがあった。



 ――『ぎんきのせいじょさま、わたしたちをたすけてくれてありがとう!』



 ついこの前、森の中の街道でわたしが助けた商隊の、その中にいた子。


 別れぎわに似顔絵つきのお手紙をくれた、あの女の子だ!

次話、6/23(火)20:20更新

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