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メダルのナイト  作者: たて ばてん
13/16

第13話 城のネズミは影を踏んだ

「教会に行けないときに面倒な」


 文句を言いながらもアルテとは違う赤いローブを纏った男性は、ナイトの頭に包帯を巻き終わる。


「軽く切っただけだ。教会に行くまで、しばらく包帯で我慢しろよ?」

「あっあの……治療ありがとうございます!お手数をおかけして申し訳」


 ナイトはお礼を言わなければとぺこぺこ頭を下げる。


「いいから、テメェは大人しくしてろ!そんなに頭を激しく動かすな!血が飛び散る!」


 そう言われてナイトは、「申し訳ございません!」と背筋を伸ばすと赤ローブの男は呆れたようにこぼす。


「兵士かよ」


 しばらく周りの人々がナイトについてボソボソと話している中、孤立気味のナイトは多くの目線に耐えられず、自然と上の方を見上げる。

 何やら壁に汚い布が、かかっていた。


 それは紫の生地に、ひどい汚れで見えないが真ん中に丸い線と熊のような猛獣の顔のマーク。

 彼らの団体の旗とかだろうか?


「隣い〜い?」


 手のひらひらさせながら、垂れ目の男性に声をかけられる。

 彼の名前はライマ。

 血まみれの僕を、一心不乱に介抱してくれた特徴的な青い瞳男だ。


 ちなみに目が覚めた僕も半狂乱の彼に驚いて一緒に泣き叫んだ。

 その時の王の間は、まさに阿鼻叫喚と他の方々は語った。

 何でもライマさんは、血があまり得意ではないらしい。


 話しかけてきた時は普通に話していたのに何だろうこの喋り方。


「そう言えばお前、まあが部屋に行った時あ〜んなに血まみれになるまで玉座の間で何してたんだ?」


 ギクッ!


 あっどうしよう……どう誤魔化す?

 ガラスで縄切って逃げようとしたら、人が来て急いで縛られたフリをしようと、足を踏み外し怪我をしたなんて言ったら怒られる?


「あっ別に……その…」


 ナイトのしどろもどろの様子に、青年は察したのか特に意味なく足をぷらぷらとさせる。


「まぁ、ガラスが散らばってた〜し、まあ達が見張りを置いてなかったから普通ロ〜プ切って逃げるわな〜」


 あっはい、そうです。

 それにしても、この人さっきから変なところで伸ばして話すな。

「まあ」とは何だろう?

 一人称のつもりだろうか?


 中学の頃友達が言っていた「たまに学校で急にキメ顔しながら変なことを言う」というキャラ付けというやつか?

 いや、そんなことはどうでもいい。

 ナイトはライマという男に思い切って聞いてみることにした。


「あっあの、聞いてもいいですか?」

「なぁ〜に?」


「何で僕を、牢屋に入れなかったんです?」

「残念ながら、まあも知らなぁ〜い」


 知らないって………

 少しナイトが呆れていると、赤ローブの彼らの一人が話に入ってきた。


「あっ俺、聞いたぞ大昔に魔物の王と昔のマーロムの王が戦った時の大穴が残ってるから危なくて使えないって聞いたぞ?現にあそこに入り込んだ馬鹿が穴に落ちて死んじまったしな」


 廃墟かよ………いや廃城か。

 何でそんなところをアジトにしてるんだろうここの人たち。

 魔物の王って上級の魔物とかかな?


「んなことはどうでもいい」


 ん?


 頭上からの声に顔を上げると、赤いローブからちょび髭をのぞかせ、だらしなく着ている男が、ナイトを睨みつけていた。


「ところでライマ、当然こいつのメダルは没収してんだろうな?」


 ちょび髭の男は、ナイトの元へずんずんと近寄ってくる。

 長身の男性に詰め寄られ、ナイトは少し肩を震わせる。


「ん?あ〜それはしてないよ?それより、まあとしては〜お話しした方がいいと思うから」

「呑気に談笑してんじゃねぇよ!ライマ、そいつは腐ってもメダル持ちだろ!武器奪え!」


 ライマを庇うように別の男がちょび髭とライマの間に立つ。


「それでもアルテ隊長が決めた〜こと。メダルだろ〜が奪うなと言われて〜いる。それにメダルはどのみち奪えな〜いから無意味だ〜って、まあは聞いてる」


「変な言い訳してんじゃねぇ!おいガキ、死にたくなければお前の持ってるメダル全部よこせ」


 シャンと音を立ててミダは、頭身が細い剣をナイトの首に当てた。

 ナイトは突然の敵意にヒュッと喉を鳴らす。


「ミダくん相変わらずせっかちだ〜ね。もてな〜いよ〜お〜お〜」


 ライマはミダの勢いに負けず気の抜けた返事を、というか逆に言いづらく返す。


 でもそっか、メダルのことを知らない人からしたらメダルが消えて持ち主に戻っていくなんて普通信じないよな。

 今なら彼らにメダルを手渡すだけで、この男に逃がしてもらうことが可能かもしれない。

 そうだ、無理して彼らと戦う必要はないなら、それに越したことはない。


 今僕に必要なのは生き延びて彼らから逃げることなのだから。


 周りの男達は「勝手なことしていいのか?」と不安の声が上がる。


「そもそも、俺は神のメダルについては信じてない」


 ミダは歯を食いしばり、恨めしそうにナイトを睨み付けていた。


 何でそんな顔を僕に向けてくるんだ?


「アルテはメダルに…あのエルフに関わっておかしな話を植え付けられたんだ!」


 何故そこでエルフが?

 サフィさんの仲間とかかな?

 でも「騙す」ってどういうことだろう。


「どうせこの組織も俺らを使い捨てのコマとしか思ってないんだろうぜ?組織についてなにも情報をよこさねぇどころか、唯一の指示が待てだと?信用すらされてないじゃねぇか」

「その言葉は、組織を疑う言葉。ミダ発言には気をつけろ」


 すかさずバンダナを巻いた男がミダを宥める。

 ライマは、険悪な雰囲気な二人の間に入った。


「まあ〜まあ〜、君も落ち着な〜よギルタンテ。まあも、この子がオーク倒しているところ見なきゃ〜流石に信じてなかったよ〜。確かにあの魔法は軍隊並みの力を秘めては〜いる。まあ達が知らないだけで神のメダルがないとは限らないでしょ?もっと信じよ?」


 ライマは戯けるが、一旦火がついたミダは止まらなかった。


「だからと言って神のような所業を可能にする力があるメダル?願いが叶うだって?そんな物があるならとっくに俺らみたいなやつ伯爵の野郎に皆殺しにされてるだろ!あいつは俺らのような下の人間をいたぶるのが趣味のやつだろ?それにマーロムは大きい国だ!少なくとも王都にいるマーロム人のが知ってるはずだろ!でも、王都に出稼ぎに行った奴らからそんな話聞いたこともなかった。そんないかれたメダルの情報、噂にすらなっていないなんて明らかにおかしいだろ」


 揺らいだ瞳を見てナイトは、心療内科とかないだろうかと考える。

 彼らのローブの下から彼らの体には異様に傷が多い。

 その傷はぶつけたとかでできる傷じゃない。明らかに刃物で傷つけられてものだった。


 神のメダルの知名度の無さは僕も考えた。

 国の闇がありそうな歴史が抹消されて、それを知る人間なんて表の人間ではない可能性がある。


 中学時代、友の借りた漫画にそうパターンはよくあった。

 だからこそ僕も、神のメダルの存在を知っているアルテという男を警戒している。


「だが俺たちが神のメダルなんてものを知ったのは、ついさっきエルフから聞いたというアルテから又聞きしただけだ」


 さっきから出てくるエルフはサフィさんの仲間なのだろうか?


「この町の人たちは、エルフに恨みがあって話し合ったりしないのでは?」

「ほれみろ、さすがにガキでもエルフが怪しいって知ってるぞ」


 あっまた口に出してしまった。


「そうだよな普通とっ捕まえて家族に渡せば大金が手に入る。エルフを恨んでる奴は大勢いるからな、目の前にいたとしたら俺は、今すぐにでもそいつの腹を引き裂いて中にそいつの四肢を切り落として、そいつの腹にねじ込んでやる!」


 ミダはふんとそっぽを向く。


 普通に怖い。

 殺意が半端ではなかった。


「あの、メダル狩りはしていたと聞きましたが、ミダさんはエルフに何かされたので?」


 バンダナの男性は、少し俯いて話してくれた。


「ミダの父親は50年前にいたメダル所有者のひとりだ。まぁ、メダル所有者といっても使い方がわからない。実際、他の奴らも持っていただけの奴ばかりで魔法に関する話はいくらも残ってすらいない。でも当時メダル狩りをしていたエルフに狙われてこの街の無関係なマーロム人が、300人くらい殺害された」


 話には聞いていたが被害が予想より大きいことに冷や汗が止まらなくなる。


「責任としてこの地を納める伯爵の命令でメダル所有者含め、その家族は殆ど吊し上げられた。ミダの父親も例外じゃない。スラムに逃げることで助かったものもいたが、ミダの母親は流行病にかかり、程なくして亡くなった。唯一の家族の妹は伯爵に冤罪をかけられ拷問死した」


 ミダさんの環境が想像以上に過酷だった。

 聞き耳を立てていたミダは憤慨する。


「バミュラグ、勝手に人の過去をバラすんじゃねぇ!俺は、そんなガキに同情なんてしてほしくない!」


 ナイトは何か言おうと口を開くが、恵まれた子供になにを言われても嫌味になったしまうと思い、吐き出そうとした言葉を飲み込んだ。


 バミュラグ……言いづらい。

 バンダナさんで覚えておく。

 ライマさんからバミュラグはファーストネームと教えてくれた。

 バミュラグ・ギルダンテ………覚えられない気がした。


 結構簡単に名前を教えてくれる。

 と言うよりまだ僕が仲間になると思っているのだろうか?


「とにかく、恨むことさら憚れるような、明日を生きる為に毎日毎日盗みをして、子供が餓死ぬのが日常で、お貴族様の気まぐれで定期的に仲間が拷問や処刑されて、こんな地獄の日常を終わらせる方法があるって聞いたからこの組織に入ったのに!ガキに俺らの命を預ける?ふざけてる……なぁ、お前ら、ほんとにこの組織にボスなんているのか?」


 ……………?


 ここの人たち自分の組織なのに、ボスのこと知らないのか?


 そう言えば詐欺師は、生活に余裕のない人ほど簡単に騙すと聞いた事がある。

 たちの悪い宗教団体も、そうやって人から信仰とお金を巻き上げるとも聞いた事ある。

 もしかして彼らは赤い戦士を名乗る何者かに騙されてるのか?


「ボスのことを知らないなんて、ここの人達、普通に騙されてない?」


「「あ゛んだとクソガキ」」


 ギロリッ


「ひぃぃ!すみません」


 ミダとバミュラグに睨まれ泣きべそかいたナイトに、ライマは苦笑いした。


「そう思〜うのも仕方な〜いね。そんな怪しい話でも飛びつかなきゃいけないほど追い詰め〜られているんだよ〜。まあ達に選択肢は無かったんだ。入る代わりにとしてどんな病、当時流行していた流行病を治す万能薬を受け取ったから〜ね」


 ライマは、ナイトの目線に一つの瓶を取り出す。

 なんか怒らせるようなことを言ってしまったらしい。


「万能薬?」


 なるほど、入ったことによるメリットがあったのか。

 理想だけで入ったわけじゃないのか。


 聞いてると、ますます騙されてる気がしてならない。そもそも人を騙す時は甘い餌で重労働を死ぬまでやらせると言う話もある。

 それは彼らも、分かってるかもしれない。


 上手い話には裏があるものだ。


「当然、国未来がよろしくないと判断したら抜けていいと言われて〜るよ。それに……」


 怪しい宗教でよく聞くセリフだとは思ったが、飲み込んだ。

 メンバー達は、お互いの顔を見合わせ微笑み頷く。


「アルテ隊長は、不可能を可能にする力を持ってるんだ!」


 ナイトは彼らの表情を、言葉を聞いて、余計この人たちの味方になる訳にはいかないと感じた。


 破滅主義になってしまった人間からは、離れないといけない。

 ミダさんはともかく、他のメンバーは革命をするリスクがその程度で済む話ではないと自覚してる様子もない。

 第一こんなことに参加すれば、次は次はと付き合わせられるのが目に見えていた。


 そして出来ることなら、そんな残虐な伯爵に会いたくない。

 絶対、メダル持ちである僕が殺される気しかしないからだ。


 ナイトは磔にされ燃やされる自分を想像して震えた。


 ドンッ!

 ガン!バン!


 突如、重い金属がぶつかる音が何度も響いた。


「え?何この音」

「おい、地下からじゃねぇか?」

「アルテ隊長はどこ──」



「あ゛あ゛ああぁぁぁぁあああ────!!」



「悲鳴?」


 野太い声、男の呻きに聞こえた。


「誰だ?アルテ隊長以外は、ここに集まってるはずだ」

「じゃあ、もしかして隊長に何かッ!」


 バミュラグが扉に手をかけると、勢いよく扉が開き鼻を打ちつける。


 うわっ…バンダナさん痛そうだ……。


「どうしたっ……ラグ、何で怪我してるんだ?」


「……っう…何でもないっす」


 錆びた扉から何でもないような顔をして、その男は現れた。


「アルテ!」「隊長?」

「なんだ?みんな幽霊でも見たような顔をして」


 アルテは不自然ににっこりと笑う。

 まるでさっきの悲鳴が聞こえなかったように。

 当然、仲間の一人は声を震わせながら尋ねる。


「………だって、悲鳴が」


 そう、悲鳴が聞こえたはずだ。


「廃城に忍び込んだ馬鹿が、穴とかに落ちたんじゃないの?」


 一般人に対して気にしてなさすぎる。

 本当に国の為にやってる人なのか?


「結構ドライなんですね」


 ナイトが、話を投げてみるがアルテの回答は…


「別に。外の見張りの三人を除いて他のメンバーはここに集まるように指示してたし…それに、ここらあたりは足場が悪くて穴に落ちたとしても雨が乾いてなくて穴の底は泥まみれだ。大した怪我なんてしないだろうよ」

「それはそれで、他人が入ったら不味いんじゃないんですか?その、アジトがバレるとか………」


 アルテは余裕の表情を崩さずに万歳の姿勢をとる。

 心なしか出会った時よりテンションが落ち着いている印象だった。


「残念ながら、正面入り口からこの奥の部屋に繋がる通路は塞がってる」

「え?じゃあどうやってこの部屋に」

「俺たちは、この城の限られた人しか知らない特別な隠し通路を使ってるんだ?それが何がかは教えられないけど」

「………」


 睨みつける二人の間にミダが割り込む。


「アルテ、考え直せ。いくらメダル持ちだからといってこんなガキなんか信用する必要ないだろ!そうだ、こんなガキを仲間にするよりメダルを奪えば早い話だろ!」

「残念ながら、それは無理です」


 アルテはミダと呼ばれた男性の肩に手を置いき、優し声で囁く。


「メダルは持ち主から離れない。そういう呪いなんです。メダルは一度所有者になってしまえば死ぬまで離れることができない」


「は?お前までなにを…何でそんなことを」


 あり得ないといったミダに、アルテはマジシャンのように手首を回して、簡易的な雷のマークが刻まれたメダルを取り出す。


「『エレク』」


 アルテの言葉に応えるように手から光が弾ける。


 これって呪文?

 アルテさんやっぱりメダル持ちだったのか!


「残念ながら検証済みだけどね……はは…」


 アルテの魔法に他の赤い戦士達は驚愕する。


()()」それは既にメダルを捨てようとして失敗したってことを表す。


 そして今、僕が騙して逃げようとしたことがミダさんにバレることで逃げづらくなる。

 これでは物理的にメダルを渡すだけで逃げる作戦が使えなくなってしまった。


「さて、残念だったね黒騎士様」


 どうやらアルテさんには見破られていたか。


「すみません。話が進まないと思って許容しましたけどやっぱりその呼び方やめてください。恥ずかしいんで」


 ナイトは我慢できずに赤面し、膝を抱える。


「あっはっは……黒騎士〜様」

「本当にやめてください!」


 さっきまでの真剣さは崩れ赤面するナイトに、ライマのイタズラ心がくすぐられ畳み掛ける。


「なに遊んでんだ?」


 ミダの言葉にアルテは手を叩き話を進める。


「はい!まぁとにかく、これからの話をしよう。確認したら此処のギルドマスターは昨日の夜、王都へ出発したそうだ。伯爵の暗殺は今夜決行する」


 アルテはナイトの頭をひとなでして、メンバー達の前に広い建物の見取り図を広げる。


「は?はっ……え?……なに?え?暗殺って」


 唖然とするナイトの様子を見て、ミダは鼻で笑った。


「はっ!やっぱりガキだな。暗殺と聞いて震えたか、言っとくけど今回の任務を邪魔したらテメェを殺すからな」


 ミダさんから比べ物ならないくらいの殺気を感じた。


「安心しな〜よ。今回、君にやらせるわけじゃないから。ただ、まあ達が受けた依頼は邪魔してほしくな〜いんだよ?わか〜った?」


 左右から低い威圧的な声と殺気でナイトは縮み込んだ。


 いや、出来れば関わりたいわけじゃないんだが、よりにもよって、そんな話を僕の前でしないでほしかった。


 刃物をクルクルと回しながらミダは話し始めた。


「アイ……俺の妹は、道に落ちていたコインを払っただけで、窃盗の罪で酷い拷問を受けた。だけどコインの正体はどこからか押収されたスキルメダルだった。落としたのは伯爵の使いなのに。妹は使者から無理矢理、盗んだことにされ捕まった。庶民が貴族の物を盗むのは重罪だ。なのに使者(あいつ)は自分のミスで首が飛ぶのを恐れアイを貶めたんだ」


 恨みを口にしてミダは剣を振り上げ、刀身が床の板に刺さる。

 アルテは、血走った目をするミダの手にそっと自身の手を重ね合わせる。


「スキルメダルはメダル自体を取り上げても、メダルを手に入れることはできない。ならば方法は殺害してメダルを奪うしかない。妹さんが拷問死した後、ミダの一家は汚名を着せられスラムへ追いやられた。庶民から貴族を訴えることはできない。だから汚名は着せられたまま終わる」


 悔しそうにアルテは俯き歯を食いしばる。

 顔を上げてミダの剣を掲げメンバーを鼓舞する。


「今この国は、非道な貴族達が国を牛耳っている。この街だったら伯爵だ!そして赤い戦士は、この国を正しく変えるために俺に世界の真実を教えてくれた。ミダさん、組織のことが信じれなくてもいざという時は俺が責任を負います。だから今は組織ではなく俺を信じてください。必ずミダさんの妹さんの無念を…仇をとります。まずは悪逆非道な伯爵を倒すのです!」


「アルテ.......」

「ミダさん.....ちょび髭、やっぱり似合ってませんね。不自然すぎる」


 ミダと言われた彼は「うるせぇわい」とそっぽを向いたが、その瞳は揺らいでいた。

 そんなふたりのやり取りを見て、ふふっと赤い戦士の人達は笑い合った。

 ナイトはそんな彼らの空気に飲まれず頭を悩ませていた。


 彼らは伯爵の暗殺を狙っている。

 彼らの境遇には同情するが、知ってしまったのに止めないのはよくない。

 どうしよう。

 それにしても最初の言っていた『国を滅ぼす』ことに繋がるんだ?


 でも彼らから感じるのは、伯爵への個人的な復讐心だ。

 特にミダさんに至っては伯爵より、その使者への恨みが激しい。


「どうすれば国を滅ぼ〜すことに繋がるって顔してる〜う〜ね」


 ぎゃー心読まれた!


「まだその話をする段階ではない。今回の任務、君はお留守番を頼む。本格的な任務に参加させるのは、もうちょっと先の方がいいもんね」


 あれ?

 僕が組織に入ることが前提の話になってきてない?


「あの、アルテさん。アルテさんは国と戦うって言ってましたよね?」

「…言ったね」

「国と戦ってスラムを豊かにするのが、アルテさんの願いなんですか?」


「ん〜それもあるが、俺の所属する組織『赤い選手』のこの町での目的は、この『アルテバロン帝国』を取り戻すことにある」


 ……ん?帝国?聞き間違えか?

 あれ?でも待てよ?

 神のメダルでルールが変わる。

 全ての兵士を王国騎士にする呪い。

 ゴブリンに対して油断する呪い。


 アルテは、ナイトがぼーっと考え込む様子に無視されたのかと少し冷や汗をかく。


「お〜い。黒騎士様?」


 別に気にならなかったわけじゃない。

 そもそも「大国」は国が国際的力を持つとか、「文明大国」とか「経済大国」とかの呼ばれかたにつかわれてるのはわかってたけど…。


 でもそれは元の国での話だ。

 異世界なら国の呼び方くらい違っていても気にするのもなと無関心でいた。

 しかしだ、もしこの国が神のメダルで「マーロム大国」なんて国名になってしまったのも呪いだったりするのか?


 それは流石に考えすぎ?

 ……なんか前もこんなことあったような?

 それにしても、彼らのアルテバロン帝国って、帝王がいる前提の話だよな?

 革命により栄光を取り戻すとかかな?

 しかし彼らは街を国として独立したいってことなのか?

 でも取り戻すって元々あったってこと?


 また、なんか国の闇とか……っていかんいかん!


 雰囲気に流されてるけど、このまま行ったらクルーガーさんのいう通り本当にこの街から出れなくなってしまう!

 何なら国の敵なんて立場になってしまう!

 僕は、彼らに協力できないことをはっきり言わないと。


 ナイトは今度こそと口を開きかけるが──



 ガタガタガタガタガタ


 突如部屋が揺れ、口に痛みが走る。


 ガブッ!

「〜っ!!」


 イッタ!!


「地震か?」


 部屋が勢いよく揺れだと思ったが、すぐに振動は弱まる。

 ……崩れなくてよかった。


「何だ?」

「おいガキ、どうした」

「なんか泣いてないか?トラウマでも刺激されたか?」


 ご心配ありがとうございます。

 舌噛んだだけです。


「おい!大変だ!」


 慌てた様子の男が血相抱えて部屋に入ってくる。

 彼の腕には血まみれの布が抱えられていた。


 またタイミングを逃した。

 ナイトは痛みに耐えながらも彼等の観察を続ける。


「どうした」


 見張りの一人か?


「アルテ隊長!ま………魔物の大群が……この町に!!ゴブリンの雑魚だけじゃねぇ!あちこちからオークや黒い知らない魔物が大量にこの街に向かってる!」

「落ち着け、ユトはどうした?伝達鳩を飛ばしてユトからの知らせを待て」

「それが、ユトから届いた伝達鳩が…他の奴らにも飛ばしたが、返事がつけられずに戻ってきちまうだけで」


 彼が抱えた布の中には、血まみれの手紙がくくりつけられ片方の翼をもがれた鳩のような鳥が横たわっていた。

 伝書鳩のようなものなのだろう。

 涙声の男の腕に眠っている鳩の足には血痕が微かに付着していた。


 それを見たアルテは壁を殴りつける。


「くそ、ってことは街の外に待機させた仲間は全滅した可能性が高い。おまえら、よく聞け。この街には下級の冒険者しかいねぇ。魔物の大群がくれば時期にこの街は魔物に攻め落とされる!」


 鳩を抱えた彼は、絶望によって膝から崩れ落ちた。

 アルテは、咄嗟に彼を支えながら他のメンバーに指示を出す。


「お前ら、何があろうとも城から出るな!」

「しかし隊長、立て篭もるより逃げたほうがいいんじゃねぇの?」


「だめだ!」


 アルテの剣幕に一同は怯んだ。


「そんなに大量の魔物が押し寄せてるなら下手に町をでると無駄に殺されるだけだ!それに今の地震が魔物からの攻撃なら魔物が、もうそばまで迫ってるってことだろう。魔物の群れは中級の魔物も多い。それだったら、まず俺たちに勝ち目はない」


 なにその絶望的状況。


「だがこの城は教会のような魔物を寄せ付けない()()()()()が設置されてる。たとえ街に魔物がやってきたとしても、この城だけは倒れねぇ」


 おおー!っとメンバー達は喜びの声を上げるが、ナイトは引っかかっていた。


 盾のメダルが設置されている?

 でも、どっちかというと城から出ようとしたら玉座に戻された記憶しかないけど。

 村で見たメダルの効果と、城のメダルの効果が違っている。それとも彼は嘘をついた?


 腑に落ちない疑問に頭を悩ませるナイトを他所に赤い戦士は話を進める。


「そんじゃあスラムのあいつらも…」

「わかった。だが、俺らが赤い戦士であることは絶対に隠せ。俺たちは運良く助かったんだから」

「わかってる」


「じゃあ〜まあ達、行ってくるね〜少年」

「テメェ変なことすんなよ?」


 男達が城から出ていくと、食堂にはアルテとナイトだけになった。


「説明もなしに進めて悪いな。……でも、わかってくれ………全ては巨悪であるマーロム大国なんて作った、ふざけた国王を打ち倒すために、君を見極めるために必要なことだったんだ。改めて言おう。ナイト…いや、黒騎士様、どうか一緒に戦って欲しい」


 残念だが、さっき仲間についた嘘の件で余計に信じるわけにはいかない。


「.................すみません。それはちょっと」


 ナイトが断るとアルテはガッカリするどころか、想定どうりと言う表情をする。


「まぁそうだよな」


「………」

「ごめんな。でもどのみちこの城から出ないほうがいいよ。今の街の戦力じゃ街は滅ぶ」


 ナイトは、その場から立ち去ろうとするアルテを引き止める。


「待ってください!ギルドとか、町の住民に避難を知らせるわけには………」


「さっきも言ったが、この街を取り囲むつもりであちこちから魔物達が押し寄せてるみたいだ。籠城戦になるだろう。そしたら、いよいよ誰も逃げられない。そして、この城が安全地帯だとバレれば、こぞってこの城に貴族や街の奴らまでもが押し寄せる。そうなったら一番身分の低い俺たちは、魔物の餌として追い出されるのがオチだ。悪いが俺たちも死にたくないんだ。だから君には悪いが、黙って此処にいてもらう」


 悲しそうな表情をしてアルテは部屋を出た……と思ったらバッグ手に戻ってきてナイトへ放り投げる。


「ほらよ、これ君の荷物だろ?返すよ」

「え?………は………………い?」


 はいっと渡され、中身を確認すると身に覚えのない冊子やナイフがいくつかあった。


 あの肝心の切れ味の悪そうなナイフは入っておらず、基本的な道具類が殆ど。


 サフィの荷物には着ぐるみが入ってるため割と大きいはずだ。

 ならば、この荷物の持ち主はクルーガーしか思い当たらなかった。

 多分、間違えて持ってきたんだな……。


 アルテに怪しまれないように、冊子の一つを取り出して中身を確認するふりをする。


 タイトルには『魔物の××について』と書かれている。

 なになに?


「ええっと……ゴブリン…群れ、飾り…は…の……に……。……は低いが、死んだ……など、……なこともする。基本…群れ…魔物である」


 中身を見ると、古い用紙の左側にゴブリンの絵、アクセサリー、来る途中でまたピストルのような鳥、目玉がついたミミズの絵や、緊急クエストで戦ったオーク、知らない魔物の絵など、右側にはつらつらと文字が書かれていた。


「魔物に興味があるなんて変わってるな」


 じゃあやっぱり、この本は魔物の事が書かれてるのか………。


 大方、ゴブリンが群れを作ること。

 そしてボスの飾りをゴブリンが、真似することとか書いてあるのだろう。


 クルーガーさんがゴブリンを軽視してる割に詳しい理由はこれか。


 じっと同じページを見つめるナイトにアルテは、優しく言葉を投げかける。


「不安なら玉座の間にいるといいよ。あそこは安全だし高いところから街を見渡せるよ?逃げようとしても見張りがあるからね、どのみち君は逃がさない。君は未来の戦力だからね」


「なんで、そこまで僕を買ってくれるんですか?」

「単に敵に回したくないだけだよ」


 そう言ってアルテさんは食堂から出て行った。


 ガチャ

 バタン


「敵にはね……」







 アルテがさった後、ナイトは緊急クエスト中の自分を思い出していた。


「僕、そんなかっこよくオーク倒しただけ?」


 ゴリ押しした記憶しかない。


 誰もいなくなった部屋に言葉を投げるが、拾うものはいない。


「まさか、僕の命を守る為に誘拐したなんてことあるのだろうか?」


 いや、それは自惚れすぎだろう。

 どんな妄想だそれ。

 恥ずかしい。


 何故、拘束せず誘拐したかは置いておこう。

 でも、ゴブリンをけしかけたとき、彼は『生かしておく』と決めた。

 つまり、僕がゴブリンを恐れなければ殺していた可能性もあるってことだよな?

 色々考えてると、いろんなことに疑問を抱く。


「そういえば、アルテさんってどこでメダル手に入れたんだろう」







 ━━━━━━アルテが出て行って30分が過ぎる。


「……落ち着かない」


 人質って暇なんだな〜。

 いや、なにのんびりしてんだ!

 クルーガーさん達に何とかこの危機(魔物の襲撃について)を知らせなければ。


 幸いナイトは警戒すらされてないのか、今は縛られない。と言っても魔法使えば多分普通に拘束は解けると思われてるからしてないだけかもしれないけど…

 見張りがたまに部屋の前を通るが、その度に何故か鼻で笑われる。


 拘束されてないってことは、逃げなければ城の中なら何処にいてもいいってことだよね?

 見張りの人達の場所とかも把握しておこう。

 隠し通路とか見つけれるかもしれない。


 何なら、助けに来てくれたクルーガーさん達と鉢合わせることができるかも。


 そんな淡い期待を胸に、クルーガーのバックを背負い、目を泳がせつつ腰を低くして廊下へと歩みを進めた。







 なんだかんだ自身に理由をつけて部屋からでたが、正直ナイトは押しつぶされそうな罪悪感から逃げ出したかっただけなのだ。

 しかしこの城から出ることは出来ない。

 だからと言ってこのまま大人しくしていると先程の赤い戦士を名乗る彼等のこと、街の危機を知っておきながら時間を浪費している自分に嫌気がさし、内臓の不調を起こす。

 ナイトはひたすら足を動かすことで気を紛らわせた。


 まぁ、廊下を人質が歩いていれば見張りは目を向けるのは自然だ。

 見張りは、ナイトを素通りするもナイトが後ろを向くと壁に隠れてこちらを伺ったりしている見張りの頭が見える。


 こんなめんどくさいことをするのは、僕のメダルの魔法を警戒してのことだろう。

 まぁ、僕のようなメダル持ちには、正面より不意を打つ方が確実だと思われてるのかもしれない。


 正面でも僕は負ける自信は結構ある。

 だってあっち、戦闘経験豊富じゃん。


 ナイトは、彼らの目を盗んで企みをするのは困難だと少し落ち込み、それでも廊下を歩き続けた。

 見張りは脱出されないと確信しているのか、しばらくするとついてくるのをやめている。


「あー。危険を知っていて何も出来ないなんて。でも下手に魔法を使ったら見張りの人、僕の事ぶん殴るよね?それは嫌だな〜」


 首を上にグッと上げてストレッチをする。


 ナイトがぼやいていると、廊下の突き当たりの壁に妙に尖った白が目に止まる。


「あれは?耳!エルフ……サフィさん!」


 この街にいるエルフは、サフィしかいない。

 だから疑いもなく、ナイトはズレたバックを肩掛けを直し、壁からはみ出た見覚えのある耳の持ち主の元へ駆け足になる。


 ピチャ…


 グイグイと動くあの動き、サフィさんが見せてくれた耳の動きだ!


「サフィさん!助けに来ッ………」



 グチャ



 思えば少し変だと思うべきだった。



 ビチャ



 サフィの身長はナイトより下であったはずだ。

 遠かろうが耳の位置がナイトの目線より上に言った時点で警戒するべきなのだ。



 水の音の正体にすら気が回らなかった。



 ナイトが目にした、その耳の持ち主は焦点が収まらず、人の肉をムシャムシャと咀嚼していた。


 よく見ると喉仏がある。

 わぁ、性別も違う。

 足元には見覚えのあるちょび髭の生首が目に入った。


 それ以前にまず人が喰べられている光景に思考が定まらない。

 まるでゾンビ映画のワンシーンだ。



 いや、呑気に解説してる場合じゃない。


 逃げないと、早く、この場から離れないと、ちょび髭はもしかして、早く逃げろ、足を動かせ、エルフって人を食べるのか?いやだから逃げろ、音を立てれば気づかれる、人喰い、そもそも何でこの町に、背中を見せると襲われる、一心不乱に食べていて気づかれていない、早く逃げろ、他の人達は、逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ……


 ナイトは思考を巡らせ、行動を起こそうと最初に口から言葉が漏れる。


「………間違えました」


 ナイトはお辞儀をして、さっきまでついてきていたはずの見張りのがいるところまで、アナログテレビの逆再生をしたような後ろ足早歩きで廊下を走り抜ける。


 何故そうしたかは自分でもわからない。

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