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メダルのナイト  作者: たて ばてん
12/16

第12話 どんな国にも誘拐と闇と反乱はつきもの

 門が翌日開くと同時に、冒険者用の馬車の受付が開く。

 だから明日の朝のための準備は、しっかりしておかねば。

 ただでさえ少ない馬車が借りれなくなってしまう。


 宿の部屋で髪の手入れをしているサフィの荷物には熊の着ぐるみが、詰め込められているのが扉の隙間から見えた。

 捨ててないってことは、少なくとも気に入ったのだろう。


「着替え終わったか?」

「終わった。入っていい」


 サフィの着替えのために部屋を出ていた二人は、部屋の中に入る。

 サフィは長い耳を後ろに動かしたり上、横に動かしたりしている。


 耳の体操…?


 クルーガーはエルフの耳が動くのが珍しいのか、サフィの耳を思わず凝視する。


「エルフの耳って、そんな自由に動けるのか?」

「マーロムと違って狩をする種族。よく聞こえるように動かせるのは当然。何より耳が横にあったら兜とか被れない」


「へーなるほどなー」と感心するクルーガー。


 サフィの耳は、そのおかげで耳隠しの髪型で誤魔化せた訳である。


「あの、ごめんなさい。そっちだと耳痛くなりません?それに着ぐるみの方がバレにくいと思うのですが……」


「何で謝る?寧ろ堂々と出したほうが、やましくなくてバレにくいと思う。うん」


 ナイトは自分が勧めたせいで、サフィの正体がバレることになってしまったらどうしようと悩んでいた。


 因みに緊急クエストの時は、間違って被り物が落ちないようにナイトが硬く縫い付けていた。


 サフィは脱ぎたくても、なかなか脱げなくなる着ぐるみから解放されたかったのもあった。


「普通に後ろに縛っても隠せそう……」


 サフィの呟きを聞き、やっぱり女の子だなとナイトは微笑ましくなった。

 サフィは鏡を見つめ、頬に手を当てる。


「それにしても………マーロムで堂々と顔を出すなんて初めてだった」


「は?サフィお前、この国に来た時どうしてたんだ?まさか、顔隠して入国してたのか?」


 クルーガーの疑問にサフィは少し戸惑いながら話してくれた。


「………仲間が、隠しのメダルの持ち主だったから」


 隠し?

 隠蔽とか秘匿とかじゃなくて?

 柄どんなのだろう。


「って、サフィさんの身近にメダル持ちがあるんですか?」

「エルフはメダル持ちが多いからな珍しいことじゃないぜ?」


 そうなんだ!

 ぜひ会えたらエルフさん達に使い方について詳しく聴きたい所だ。


 そんなナイトの思考を察したのかクルーガーは、「やめとけ、冗談抜きに死ぬぞ?」と念を押した。


「そのメダルは私達の姿を他人に認識させない。認識されたとしてもローブをまとって何とか誤魔化してたから」


 門番を欺いて入国したってことか……


「………それって不法入国してねぇか?」


 青ざめたクルーガーの疑問にサフィは目を逸らす。

 自覚してるじゃないか。


「不法じゃない。仲間もちゃんと門潜った。顔は一瞬でもちゃんと見せた。門番の記憶にないだけ。ルールは破ってない」


 キッパリと悪びれもなく得意げに言い放った。

 いっそ清々しいな。

 それにしてもなるほど、要するにサフィさんの仲間は認識阻害のメダルを持ってるのか。


 不法入国に関しては、ナイトは気にしないことにした。

 僕もメダル持ち、下手に注目を浴びると厄介なことになるのは一緒だ。

 彼らを責めるかどうかは僕がやる事じゃないよね。


 ナイトは王都で王国騎士団に乱暴された光景が蘇り首を振った。


「その仲間は………峠の方にいるんだな」


 クルーガーの言葉にナイトは「あぁ」と納得した。


 だからついてこようとしてたのか。

 峠からあのゴブリンの巣まで距離はかなり離れている

 にしても、エルフの峠への用事って何だろう?


「………マーロムの東に位置する”名無しの地”そこに私達の目的がある」

「名無しの地?」


 何それ?

 峠にそんなところがあるのか?


 そういえば、初めて言ったクエストの場所もイビの草原って名前があった。

 でも今回のクエストは峠とだけしか聞いてない。


 そんなナイトの考えを察したクルーガーが淡々と説明してくれた。


「あぁ〜、ナイトは忘れてるか。普通は山も谷も名前があるが、ある理由が原因で調査も不完全な土地を名無しの地って呼んでるんだ」


 名無しの地って呼ぶと、どこの場所がわからないから峠とか、どこら辺の山とか大雑把にいうのが今時らしい。


 つまり僕たちがいく場所は、結局サフィと同じ場所であるのはわかった。

 そしてこれから名前のない土地は、警戒するべきと学んだ。


 今からでも準備し直せないだろうかとクルーガーに視線を送るが、任せておけと親指を立てられた。


 クルーガーさんは、少し前まで調査の依頼で東の峠にある名無しの地に行っていたらしいし。

 ギルドマスターさんが、紹介してくれただけはある。


「それって中級とか上級冒険者は調査には行かなかったのですか?」


 下級で難しいなら少なくとも階級が上の人達なら可能なはず。


「そりゃ簡単な小遣い稼ぎにいいから、中級も上級も東の名無しの地に出向いたけど………………何故かここ最近、満身創痍で帰ってくるみたいなんだよな」


「それって上級ですら手こずる敵がいるってことですか!?」


 慌てるナイトにクルーガーは「それはねぇよ」と断言した。


「確かに奴等が満身創痍で帰ってきても、魔物はゴブリンと群れを率いる中級の魔物しかいないのは確かなんだ。それにそんなヤベェ奴がいるなら報告入って大騒ぎになるはずだろう」


 あっそうか、クルーガーさん達も調査に来たことあるって言ってたっけ。


 だったら何で、わからないなんてことになるんだ?


「原因不明だって言っただろ?」

「その……クルーガーさん達は、大丈夫だったんですか?」

「俺はその時、あんまり大した装備じゃなかったからな。でも戦闘は避けてたから割と平気だっだぞ?」


 避けてたってことは、その時はゴブリンと遭遇しなかったってことかな?


「でも、その時たまたま別ギルドの冒険者の奴が、火を吹く魔物に黒焦げにされてて…」


 そんな、とんでもないことがあったことを、さらりと話さないでください。

 横目でサフィを見ると、彼女はジトーっとクルーガーを見ていたが気にせず続けた。


「そんで、ディオラがそいつ背負って逃げて、その時の俺は剣が折れてたから、そこらの枝で応戦して………いや〜あれにはびっくりした」


「ちょっと待ってください!木の棒で!?どうやって?」

「おう!俺の唯一の()()だからな。ナイトにも今度、見せてやる。お楽しみにな!」


 あっはははと呑気に笑うクルーガーにナイトは、空いた口が塞がらない。


 枝を武器?

 棒のように太かったとか、鋭かったとか?

 どれだけ弱かった知らないが、魔物相手に枝でどう応戦したんだ?


「剣が折れてたって何があったんです?」

「ん?いや初めてのクエストの道中、魔物と戦っている時岩に剣をぶつけてな。新しい剣を買う金がなかったもんでそのまま……」


 クルーガーさん、ゴブリンに油断するのによく生き残れたな。

 それとも、これが通常の冒険者なのだろうか。


「まぁとにかく今度、時間があったら受付に言って聞いてみな?クエスト内容が調査の報告だけだから簡単だぞ?魔物は無理に倒さなくていいし。基本が身につけば、純粋に自分の戦闘能力を鍛えればいいだけだしな」


「にしても、これからいく峠の場所がそんな沢山の魔物がいる場所だったなんて……」


 未開発の場所。


 ゴブリンの大量発生地だから百匹もいるのか。

 怖くなってきた。

 そんな所でサフィさんは仲間と逸れて……


「そりゃサフィさん、仲間達のこと心配ですよね」


 サフィさんの話によると戦いの最中に気を失い目覚めたら、かなり離れたゴブリンの巣穴だった。

 危険な旅の中逸れてしまった仲間たちに、何があったのか心配なわけがないのだ。


 クルーガーは「確認するぞ」とクエスト用紙をナイトに渡す。


「じゃあ明日に向けてとっとと寝るぞ。クエストの記載には一匹につき、銅貨100枚だとよ。数減らしが目的かね」

「他になんと書いてあるんですか」


 ナイトは、文が書いてある量が金額と内容以外に記載されている気がして読めないところを指差す。


「ん?あぁ、大したことは書いてねぇからお前はあまり気にすんな」


 クルーガーはそう言ってベットに寝転んだ。


 ナイトはクルーガーに文字を教わって以来、クエストの文字が少し読めるようになった。

 読める字には『東の峠、名無しの地にいるゴブリンの群れ討伐』と書いてあった。

 クルーガーの言った通り、数は約100匹。


 王様からの依頼で機密事項扱い。


 ナイトは絶対、何かあると信じて疑わない。

 どのみち油断は死ぬ。


 まぁ、そうはいっても初心者(ナイト)じゃないといけない理由はメダル持ちによって解決する事案くらいの事しかわからない。

 上級、中級達の留守中に僕なんかに頼る理由がそれしか浮かばなかった。


 いや、それでも自惚れすぎるかな………


 そこで、ナイトは思い出す。


「あっクルーガーさん。ディオラさんはアルテバロン(こっち)に来ますでしょうか?」


 ナイトの疑問にクルーガーは、なんて事なく返す。


「いや、こっちには来ないと思うぞ?お前は馬車の中で気絶してたから分からなかっただろうが、峠への道中は別れてる。ゴブリン程度の魔物じゃ準備が不十分でもそのまま行っても、問題ないし。帰り道じゃなければ町によることなんて、そうないだろう」


 じゃあどんなに長居をしてもディオラさんと鉢合わせることは無いのか。

 それに僕たちがグズグズしているとディオラさんがクエストを終わらせてから鉢合わせるという、不甲斐ないことになるわけか。


 それは流石に申し訳なさすぎる。


「じゃあ、先に行かれてるかもしれないってことですか?」


 ナイトの疑問にクルーガーは眉を顰める。


「どうだろうな……ギルドに群れ報告で証人として何日か会議に付き合わされるから」


「会議に?聴取とか取らないんですか?」


「とるにはとるが、ゴブリンの報告となるといい加減な報告をする冒険者が以外に多くてな。確実な情報を提供させるために報告者は、ギルドマスターに会議までクエストが出来ないって決まりになってる。その件でギルドマスターに恨みの矛先が向くこと、この間デイヴィスの奴が前の酒盛りで愚痴ってた」


 報告義務を怠った冒険者達の自業自得が招いた結果か………責任者って大変だ。


 ナイトの脳裏に王都で初めて優しくしてくれた騎士団長の顔が浮かんだ。


 ギルドマスターと騎士団長さんにお土産買って行こうかな?


「他のギルドマスターと総会議だ。でも、ここのギルドマスターがまだいるって事は、まだまだかかると思うぞ。俺らで先に数を減らしておこう。百匹なら2.3日で終わるだろ。これを機に魔法の練習と行こうぜナイト」


「あっ…はっはい」


 王様からの依頼だからと言って内容が変わる訳じゃないんだし、クルーガーさんのいう通り杖とか見つけて魔法をもっと使えるように頑張ろう。


「サフィもあんまり急ごうとするなよ?峠に向かうのが俺達だけとは限らない」

「わかってる」

「それで疑ってる訳じゃないが、サフィ、ナイトがメダル持ちであるとお前の仲間達には黙っててくれ。それがサフィが俺達についてくる条件でいいか?」


「え?」


「サフィがよくても他の奴らが、ナイトに危害を加えない保証が欲しい。この条件を飲めないなら一緒に行動はできない」


 クルーガーは、サファに念押しする。


「わかった」


 クルーガーの言葉にサフィはコクッと頷いた。


「ナイト、勝手に決めちまったけどいいか?」

「あっはい!勿論です」


 クルーガーさんは僕の身を案じてくれているのだろう。

 色々あったせいでギリギリで話すことになってしまったのは、何とも申し訳なく思った。

 正直、サフィさんの力はありがたい。


「2日も足止めくらったんだ。飯食ったらすぐ出発だ。早めに休んでおけ」


 ナイトとサフィは頷き、三人はベットに体を預け瞼を閉じた。


 ナイトは、ここまでしてくれたクルーガーの為にも早く杖を手に入れようと固く心に決めた。









 小鳥の囀りで目が覚めたナイトが見たものは宿屋の天井ではなく、朽ちた天井と割れたガラスと散乱した瓦礫。

 背中に回された手首にはロープが擦れる感触。

 後ろにあるこれは崩れた派手な椅子…っというよりこれは玉座ではなかろうか?


 つまりこの部屋は、どこかの城の王の間なのだろうと分かった。


 ──────いや、つまりどうゆうこと?



 僕さっきまで宿で寝てたよな?

 何?え?何で廃城らしきところに………寝てたの?


 眠気はすっかり消えたナイトは落ち着くために一度、深呼吸をしてから力の限り叫んだ。


「何処!?え?あっ僕縛られてる。何なの!誘拐?クルーガーさ───ん!サフィさ────ん!何処───!誰か返事してくださ───い!」


 びえぇぇんと子供のように情けなく泣くナイトの声は虚しく部屋に反響するだけだった。


 もしかして、家から森に飛ばされたのと同じことが起きてるのか?


 じゃあ何で僕、縛られてんだろ?

 まさか、誘拐?

 まさか、メダル狩り?


「気をつけると決めた矢先にこのザマ………」


 いやいや、落ち着け。

 まだ希望を捨てるな。

 僕はメダル持ちで魔法が使える。

 生きてる間はメダルを手放すことはない。

 つまり僕は、手が縛られようとも魔法が使えるということ。

 もし相手が、僕のことを殺すつもりなら最悪魔法で何とかする。


 そう思うことでナイトは冷静さを少し取り戻した。


 そんなナイトの耳に、部屋の外から近づく低い声が沢山聞こえてきた。

 声のする方へ顔を向けると、入り口からゾロゾロと血のように赤黒いローブを纏った男達がナイトに近づいてきた。


 どこかのカルト宗教団体だろうか?

 彼らは剣や弓といった武器を持ってナイトに近づいてくる。


 今から僕は狩られるのだろうか?


「あっ貴方達はどなたですか?僕、記憶喪失でお金なんて用意できません!」


 動けないながらも、ナイトは後ずさる。

 ナイトは身代金目的かと一瞬、思ったが男達は首を振る。


「へー記憶喪失ね…………確かに金は魅力的だが、そう慌てるな。まずこっちからの済ませるぞ?」


 男達の後ろから檻が運ばれてくる。

 中には涎を垂らした、ゴブリンが一匹入っている。


「えっ?何、何ですか?」


 一体何されるんだと目をぱちぱちさせるナイトに、リーダーっぽい男が檻を掴む。


「オラよ」


 軽々と檻はナイトの方に投げつけられた。


 驚いたナイトは、折を避けるため体をどうにか捻らせ避ける。

 後ろへ投げつけられた折は玉座に当たり、バキッと音を立てる。


「うわっ!危ない!一体何なんなんです………って檻の鍵、開いてる!」


 ゴブリンは壊れた檻の扉をすんなり開けたと思ったら、ナイトに近づいてくる。


 完全に僕を殺す気なのが伝わる。


 ナイトは拘束されてることと、クルーガーもサフィもいない孤独感により、魔法の存在をすっかり忘れ泣いて怯えた。


「怖い怖い!ちょっと!こっち来ないで!死ぬ死ぬ死んじゃうって!」


 助けを求めようと赤い集団に目で訴えようとする。しかし彼らはにやつきながらナイトを舐めるように観察していた。

 無抵抗に叫ぶナイトは、いよいよ涙腺が崩壊してボロい絨毯に倒れ込み、うつ伏せになりながら恐怖で絨毯に顔を埋めた。


 もうダメだと思った途端、ナイトの後ろからゴブリンの潰れた鳴き声が聞こえた。

 ナイトは後方に目を向けると、ゴブリンは矢で脳を貫かれていた。

 何が起きたか分からないという表情のナイトを見て男達は笑い出す。


 え?何、助けてくれた?いや僕、揶揄われたのだろうか?


 あっ僕、魔法使えたのに使わなかったから笑われたのだろうか?

 じゃあこの人達に、威嚇として水浮かしてビビらせてやろうか?


 ナイトは彼等を少し殴りたい衝動にかられる。

 しかし、よくよく考えれば本当に相手がメダル狩りか確かめずに魔法を使ってしまえば、余計殺される確率が上がる可能性があると考え思い直す。


 ………というより出来ることなら今すぐ解放してほしい。


 宿に返せと念を送るナイトの顔が、男達を睨んでるように見えたのか、男の一人が笑いながら話し始めた。


「わりぃわりぃ。どうやら生かしておく必要があるという事で良さそうだな」


 リーダーのような男がが何か納得した様子でナイトの前に座る。


 何が、自分の命を繋いだのかわかない。


 困惑するナイトを無視して男はフードを取り自己紹介をした。


「おはよう少年!俺の名前はアルテ。手荒な真似して申し訳ないが話をしよう」











 同時刻、街中の広場にて無精髭の男性の悲鳴が響いていた。


「ナイトが!ナイトが消えた─────!」

「うるさい!街の人が見てる!」


 情けない男の声をサフィは容赦無く断ち切った。


「サフィ、グスッ……どこに行っていたんだ?」

「私も情報、集めてた。当然」


 クルーガーが起きた時には、部屋の扉は開けっぱなし。

 ベットはもぬけの殻、なぜか荷物はクルーガーのカバンが盗まれ、ナイトの姿は何処にもなかった。


 二人は付近の店に聞き込んだが、寝ている人間を担いだ奴は誰一人としていないという。

 手がかりのない状況にクルーガーは、すっかりパニックになってしまった。

 やはり見た目だけおっさんなだけであって、中身はナイトと同い年で、精神はまだ子供なのだとサフィは一人納得した。

 そんな子供を見るような目で見られていると知らないクルーガーは、絶望に地べたに寝転がってしまう。


 ひどい光景だ。


「誘拐か?ついにメダル狩りか?今までトラブルがなかったからって油断しちまった!すまねぇディオラ、俺がついていながら……」

「それにしても、何でクルーガーの荷物だけが盗まれた?」


 考え込むサフィに床に付したままクルーガーが唸るように答える。


「……俺の荷物は基本の物資が入ってる。ナイトの荷物には毒物が沢山ある。普通、初心者で毒使いなんて思わなかったんじゃないか?」

「………とりあえず起きたら?」


 サフィはクルーガーの隣に腰掛け、その頭を撫でる。


「……この宿は少なくとも冒険者ギルドの近くで、裏通りも人が多い。だから不審な人物がいれば誰かしら気づく。でも、情報が一切ないのは流石におかしい」


 サフィは、クルーガーを放置して情報料として出していた財布をバッグにしまう。


「何が言いたいんだ?サフィ」

「わからない?メダル持ちの仕業の可能せ……鼻水」


 サフィは呆れながらクルーガーにハンカチを渡した

 顔を拭いたクルーガーはサフィに向き直る。


「メダル持ちだと?だったら普通メダル決闘すればいいと考えるはずだと思うが……」

「メダル決闘?ってなに?」

「他のエルフから聞いてないのか?」


 マーロムにはメダル決闘はメダル所有者同士が行う決闘であり、魔法禁止の剣のみの決闘であり負けたものは勝ったものにメダルを渡さなければならないという。

 そのルールの奇妙さにサフィは首を傾ける。


「何で剣?魔法で決着はつけない?」

「エルフの魔力量がマーロム人より比じゃねぇからな。エルフからのメダル狩りがあった時代、当時のマーロムの王が決めたエルフからのメダル狩り対策だと聞いてる」


 エルフは基本、魔法の他に弓や密偵が主。

 マーロム人は決闘で代理を立てらことができる。

 マーロム人にとっては、確かにメダル狩りの対策にはなるだろう。


「でもナイトって剣、使えない」

「ああ…というか、あいつの運動神経は五歳児並だ。だからわざわざ誘拐する必要はない……はず」

「改めて聞くとひどい」



 メダル狩りなんて縁遠い環境だったクルーガーは、悩みすぎて頭痛を起こす。


「あの!もしかして」


 突然背後から声が掛かり、思わず二人は身構えた。


「待ってください!僕です!馬車で出会った聖騎士です」


 純白の鎧の男が立っていた。


「お前あの時の?」


 クルーガーは覚えていたようで警戒をすぐといた。


 サフィは念の為クルーガーの後ろに隠れる。


「えっと、どうしたんですか?クルーガーさんでしたっけ?」

「あっあぁ…………」


 クルーガーは、ナイトが朝から行方不明であることを話した。


「それは大変です!我々の恩人の黒騎士様がそのような目に!」


 憤慨した聖騎士は、ナイト捜索に手を貸してくれることになった。


「いいの?貴方も仕事中。勝手なことして……」

「ご安心を!無垢な民を守るのも我々の役目……って?あの……この方は?」

「えぇっとくま……」


 クルーガーは一旦、声を止める。


 待てよ?クマの仲間だと言ったら冒険者であることがバレる。

 だが、サフィ(こいつ)の見た目で15以上だと説明するのは無理がある。


 クルーガーは必死に頭を回転させ、意を決して口を開く。


「……クマ…クマと一緒にいたナイトの妹です」


「……………は?」


 柄にもなく敬語になってしまった。

 クルーガーは怒りで爆発寸前のサフィに、合わせてくれと目配せする。

 サフィも察したのか顔に力を入れて、感情を出さないように我慢した。

 ちょっと膨れた顔が面白くてクルーガーは、吹き出しかけたらサフィに足を踏まれた。


「そうなんですか?もしかしてこの街の出身?でも、見たことは……」

「村の仕事でこっちに来ていたようでな。記憶喪失の兄を心配して来てしまったそうで」

「あ〜なるほど。小さいのにえらいね〜」


 クルーガーはスラスラと嘘を並べながら、サフィの怒りが爆発しないようにひたすら祈った。


 その場は何とか誤魔化せた。


「では気を取り直して、ナイト様はメダル所有者によって攫われた可能性があると。」

「あぁ」


 聖騎士の彼は少し考えて思い当たる顔をする。


「それなら中央にある廃城が怪しいと思うんです」

「廃城?城は王都にあるんじゃないの?」


 聖騎士は子供と目線を合わせるようにしてしゃがんだ。


「そうだよ?でもね、ここアルテバロンはその昔、魔物が国として支配されていた時期があったんだ。その当時に建てられたとされる城がこの町の観光スポット『闇の城』だよ」

「魔物が王様?」


 魔物が群れを作りリーダーが出来るのは動物にも見られる光景だ。


「珍しい話じゃないな。現にゴブリンは中級の魔物に支配されていなくても、村を攻め入った村の一匹が王様名乗ったやつもいた」


 なんてことないとクルーガーは言うが、聖騎士はクルーガーの肩を掴んで顔との距離を積める。


「その程度の話じゃないんですよ!」

「うお!」


 聖騎士はクルーガーと額をくっつけて、早口で捲し立てる。


「近い………」

「なんせ、その魔物は悪魔だったんです!奴らは呪いでこの街の人間を洗脳し私欲の限りを尽くした。しかし、真のマーロム大国国王が悪魔を討伐して呪いを断ち切ったって話だ。」


 聖騎士のスイッチが入ってしまったようで、クルーガーはこのままでは話が逸れると考えあぐねた。


「あの、ナイ……お兄ちゃんは無事なのでしょうか?」


 サフィが先に話を断ち切った。


「あぁ……ごめんね。そうだよね?」


 申し訳なさそうに聖騎士は話を戻す。

 とりあえず3人は可能性を上げていった。


 メダル狩りといえば王国騎士団だ。

 だが騎士団は呪いの件があって、メダル狩りの関係者はほとんど解雇された。

 解雇された騎士は呪いの力で平民が騎士となったものばかりだった。

 最悪な事に騎士団の中にはゴロツキも多くいた。

 平民の彼らは呪いが原因とはいえ、国を危険に晒したとして殆どが処刑された。

 数百年ぶりの大処刑だったと王都の方々は語った。

 貴族は罰として魔物討伐に駆り出されているそうだ。


「ナイト様は緊急クエストで中級の魔物を討伐したと町中に知れ渡ってるはず。遺族や家族達が恨むにしてもそう簡単に手を出そうとはしません。なら残る可能性はこの街に来たとされる指名手配犯」


「………指名手配犯、自称闇の王の影、アルテ•バウマン」


 違法なメダル狩りをして追われている犯罪者。


「アルテ。そいつがナイトを襲ったの?」

「あくまで可能性だが否定できない。何しろそいつは……噂ではエルフと結託してメダル狩りをしてるって噂だからな」

「え!エルフが何で?」


 サフィが驚くのも無理はない。

 何故なら、ここ100年マーロム人とエルフの仲が一度だって深まったことがない。

 そんな中、種族同士で手を組むなんてことありえる話ではないからだ。

 それ程までに二つの種族の溝は深い。


「そこまではわからないが、今はナイトが生きてるなら早く助けに行かねぇと………」


「しかし、本当にアルテが犯人なら敵はメダル持ちってことになります。僕は兵士達を呼んで来ます」


 聖騎士の彼はいそいそとその場から立ち去る。


「廃城な……確か街の中央にある崩れた壁の向こうにあったはずだ」

「聖騎士またないの?」

「悠長なことはしてられない。何せアルテという犯罪者は、メダル持ちをわかってるだけで20人以上も殺している。何で誘拐したのかは分からないが、時間をかけてられねぇ」

「サフィ、俺はナイトを助けにいく。お前は此処にいろ」


 しかし、サフィもそう簡単に引き下がらない。


「……私も行く。相手はメダル所有者。それにエルフは魔法の訓練を受けている。実力は私の方が上なはず。任せて」


 メダル持ちを連れて行くのは危険だと分かってはいるものの、ナイトは魔法が不慣れ、クルーガーは下級、相手は20枚以上のメダル持ちの殺人鬼。

 仮に逃げる事に専念したとしても圧倒的に実力不足だ。


「本当は狙われる可能性を考えて、待っていたほうがいいと思ったんだが今は頼む。だが極力隠れてろ、相手は殺人鬼。無茶はしないでくれ。」


 二人は覚悟を決めて廃城に向かう。










 ナイトは、この世界へ来てから次々に入ってくる情報に、いい加減頭がパンクしかけていた。


 なのに、今は彼らの宗派?世界の素晴らしさについて語られている。


 もちろんこの世界の常識を知っていること前提の話だ。

 ナイトには、ほとんど訳が分からなかった。

 耐えられなくなりナイトは話に割り込む。


「すみません。僕、記憶喪失で基本的な情報がわからなくて……」

「だから、俺たちの仲間にならないか?一緒にこの国を滅ぼすんだ。この世界は本来の美しさを、世界を取り戻すべきだよ」


 一旦、話聞いてください。


 革命の勧誘?

 僕がメダル持ちだからか?


 それにゴブリンのを差し向けたと思った途端、僕が怯えたから僕を殺さないという結論を出し、勧誘をするという彼らの行動が本当に意味がわからない。

 リーダーの男はふっと微笑みナイトを見据えた。


「群れの討伐、お前の戦いを見させてもらった。素晴らしい!間違いなくお前は特別な人間だ」

「情けなくゴブリンに怯える姿がですか?」


 許してねぇぞ。

 貴方達と違って相手が小さくても殺しに来てるものは全部怖いんだよ。


 悪いか!


 なんて悪態つきたいが、ナイトは誘拐されてる身。

 言葉には気をつけなければと反省をする。


「まぁ、それは悪かったって。これが一番分かりやすいんだよ〜」


 アルテと言う男は、おちょくるように手を上げて笑う。

 どうやら気に触ることはなかったようで少し安心した。


「『ゴブリンに恐怖する事』、それ自体がおかしいんだ。そうだな………よし!クイズをしよう!」


 今度は何なんだ?

 なんでこの人こんなにテンションが高いんだ?


「村の少年がゴブリンに出会した。ゴブリンの手には血のついた斧。さて、村の少年はどうした?」


 心理テストでもやらされてるんだろうか?

 ナイトは村の少年と言われ、自然とブラウンさんの子供であるモカ君が思い浮かんだ。


 これ返答間違えたら殺されないよね?


「ただの質問だから、気楽に答えてよ」


 ナイトの表情から警戒心を読み取ったのか、リーダーの男は満面の笑みてナイトに手を振る。


 何なんだこの人………


「えぇっと。血がついた斧だから………怯えるとか、泣いて、大人とかに助けを求めるんじゃないんですか?」


 ナイトがそういうと、周りの男達は不思議そうな顔をして互いの顔を合わせた。


 え?なに?

 僕、返答間違えた?


 命や金、メダルをとる以前に誘拐までされて、わざわざ馬鹿にされるなんてことある?

 そういえば、この人達さっきからメダルの話題に触れてこないな。


「そんな怒んな。お前の答えは異様なんだ。答えはそこら辺の石や棒でゴブリンを殺すが普通だ。もしくは斧を奪って仕留める」


 思ったより勇ましい答えだ。

 モカ君もそんなことするのだろうか。

 そういえばサフィさんも魔法を使わないために渡した棍棒で、ゴブリンの頭を容赦なく潰しにかかってたし………ありえるのか?

 でもあの人、見た目が幼いだけで冒険者だしそれくらいするのか?


 頭の中がハテナで埋め尽くされるナイトに、顔の見えない男は告げた。


()()()()()()()はゴブリンを恐れない。これはメダルによって世界につけられたルールだ」


 ルール?何を言ってるんだ?

 ってか『この世界』って言った?


 異世界のことを認識しているってこと?


「この世界って………何で、そんなことわかるんです?ルールって法律?」


 まさかこの人、僕と同じ異世界から来た人なのか?


「ククッ……法律なんて緩いもんじゃない。」


 にしても、よく笑うお人だなと呑気に考えていると、急にアルテという男の雰囲気が冷たく変わる。


「神のメダル」

「……っ!」

「これに聞き覚えはないか?」


 ココアから聞いていた。


 たしか16枚集めると何でも願いが叶うっていう神様のような天変地異を起こすことが出来るメダル。

 暗黒時代の歴史を燃やされて誰も知らないはずのメダルの存在。

 この人、何で知ってるんだ?


「知ってるのか?それとも持っているのか?」

「え?何で持ってると?」


 ナイトは男の質問の仕方に違和感を感じた。


「お前がゴブリンを恐れたからだ」


 何でそこに繋がるんだろう。

 どうしよう訳がわからない。


 ナイトが困惑するのを見るとリーダーの男は予想外と怪訝な顔をした。


「神のメダルとは世界に一つ願いを叶えさせる力を持たせる。そして、その力は願いを叶える。例えばこの国の兵士を全て王国騎士団所属ということにするとか、メダルの力で自分のルールをこの世界に追加する。……まっそんなルールも何者かによって、その力が消されたが……心当たり、あるよね?黒騎士様?」


 メダル持ちなのはバレてるってことですか


「ゴブリンを恐れないルールも、神のメダルを所持した人間が叶えた願いの一つ」


 悪魔の呪いが神のメダルによる力?

 ……にしても願うものズレてないか?


 もっとこう………お金持ちになりたいとか、綺麗な伴侶が欲しいとか、世界征服したいとか?

 まぁそんな事より、結局ディオラさんもクルーガーさんもゴブリンに関してらしくなく油断するのはその力のせいってこと?

 そうした悪魔がどこかにいるってことか。


「神のメダルなんて知らないです。確かに僕は黒騎士なんて呼ばれてますけど。まだ冒険者も全然、初心者です。」

「でも、お前はルールの影響を受けてない。何故だ?考えられる可能性は、お前が神のメダルを所持している可能性だ。神のメダル所有者の一部は、そのルールの影響を一切受けない」


 そんなルール知らないです。


 なんか話をどんどん進められるが、通常のスキルメダルについても情報不足なのに神のメダル?

 分かんない。クルーガーさん教えて下さい!っあ、わかんないか。サフィさん教えて!

 普通のスキルメダルすら珍しいのに、何でそんなことわかるんだろう。


「そもそも、僕がゴブリンを恐れるのがおかしいなら貴方はどうなんですか?貴方だって何でルールとか、そんなことを知ってるんです?まさか貴方も神のメダルを持っていることになるんじゃないですか?」


 ナイトの問いにリーダーの男は肩をすくめ鼻で笑った。


「………さあな」


 やっぱり信用できない。


 魔法が現実的ではない人間な魔法は奇跡や災害の名詞のようなものだろ?

 僕の世界はそんな感じの扱いだった。

 なら、いくらメダルによる魔法がある世界でも神のメダルの話なんて、人の噂に尾鰭がついただけの可能性は十分にある。

 もしかしたら、この人が勝手に一人で言っているだけかもしれないし………


「あの、他の方々は、そんな話を信じているのですか?こんな馬鹿げたを」


 ナイトは男の部下達に話しかけるも、彼らはそっぽ向いて沈黙を貫く。


 これ信じてないんじゃない?

 部下達の代わりにと言わんばかりにアルテは続けた。


「意外だな。お前のような奴はすぐに食いつくと思ったんだが」


 失礼な、騙されやすいってか。

 えぇ、えぇ、変なナイフ買わされましたからね否定出来ませんよ。

 でも、僕にとって1番の問題はココアに神のメダルの話を吹き込んだ奴が彼らかもしれないということだ。


 無垢な少女(ココア)に危険なことを教えた。


 その時、ナイトの心の奥に黒い感情が渦巻いた。

 アルテはナイトからの殺気に口角が上がる。


「ククッ。さっきまでゴブリンに怯えていた奴の顔じゃねぇな」


 アルテの言葉にナイトはハッとなる。


「……っ!」


 あれ?僕は今何を考えて?


 さっきまでの自分が自分じゃない感覚に戸惑う。

 まるで亡き悪魔と言われた騎士を葬った時と似た感覚。

 アルテは何がおかしいのかククッと笑いながらナイトを見下ろす。


「答えはすぐじゃなくていいさ。これから説明していけば、お前もわかってくれるだろう。でもこれだけは覚えておいたほうがいい」

「何をですか?」

「この国、マーロムはこの世界の巨悪だ」


 二人の間に長い沈黙が流れる。

 ナイトは重い空気に、申し訳なさそうに口を開く。


「…………ごめんなさい。僕じゃよくわからないです」


 記憶喪失設定(異世界人)なので。

 色々大層なことを長時間語ったが、要するに彼らは革命を起こしたいのだろう。

 王を倒して国を乗っ取る、シンプルで分かりやすい。


「お前はメダル持ちだ。戦力は期待している。どうか俺たちと一緒に戦ってくれないか?」

「すみません犯罪に手は貸せません。お断りします」


 ナイトは縛られたまま土下座する。


 正直、彼らが正義だとしても犯罪に加担するのは気が引ける。

 というよりストレスで僕の内臓が持たない。

 いくら、じいちゃんから『敵は絶対倒せ』『負けは許されない』と言われていたが流石に国は無理だ。


 肯定の意思がないことにアルテは、残念そうに入り口へ引き返す。


「今すぐに答えを出さなくていい。これから共に過ごしていけば国の現状を知っていけるだろう。その上で君の答えを聞かせてくれ」


 そう言って、アルテは部下を連れて王の間を出て行った。

 ナイトは、男が全員いなくなったのを確認するとガラスの破片で縄を切って自由な身を手に入れた。


「いや、なんでまず牢屋に入れないんだ?城なら牢屋くらいあるでしょ……」


 朽ちた王の間に取り残されたナイトの声に返事をするものはいない。

 ナイトは見張りもいない状況に、呆れながら割れた窓から脱出しようと外の壁の出っ張りに足を置いた………


「え?」


 しかし気がつけば玉座に座っている自分がいた。


「え?………魔法?嘘でしょ………」


 呆けていたナイトは、近づいてくる足音に気付く。

「あっヤバっ!」


 ナイトは縛られたフリをしようと玉座から降りて縄を拾おうと足を踏み出すが、瓦礫に足を取られたせいで顔面から地面に吸い込まれる。


「おいガキ、何騒いでるんだ!飯の時間は俺らと一緒に食べる決まりで、とっとと食堂に………」


 男は地面に這いつくばった、黒い髪から覗く血まみれの血走った目に叫び声を上げた。









 城の廊下にて男達はナイトについて話していた。


「あんなことを言って……本当に仲間に引き入れるのか?アルテ隊長」

「あぁ、アレは敵に回したくない」


 部下の当然の疑問にアルテは迷いなく答えた。


 確かに子供でもメダル持ちだ。

 敵にすると被害が大きいのはわかる。

 でも所詮は相手はガキ一人だ。

 少し優しくすれば、簡単にいうことを聞きそうだ。

 それこそ少し恩を売れば馬車馬のように働く。


「そんなヤベェなら、ガキがこっちに敵意を向ける前に殺しちまえばいいんじゃねえの?」

「おい。それじゃあマーロムの王族と何も変わらないだろ!」

「冗談だって、本気にすんなよ」


 アルテは、そんな部下達の雑談には目もくれない。


「でも、何でガキを牢屋に入れないんですか?」

「わかって言ってるだろ。あそこは子供の入るところじゃない?あんな……血生臭い所は」

「…………確かに、罪人が沢山死んでる場所なんてピーピー喚かれたらうるさくて敵わないわな。マーロムの王族が戦った時の穴も残ってるんでしょ?」


 部下が納得したようで、リーダーはうんうんと相槌をうつ。

 突如、上の方から仲間の叫び声が響く。


「は?ライマの声?」

「確かあいつ、ガキに朝飯食わせるべきだって言って上に行かなかったか?」

「じゃあ玉座がある部屋か。何かあったのか?」


 アルテはため息をついて、部下達に命令する。


「お前ら少し見てこい。ただし、ガキに手出しするなよ?彼は将来的に戦力として必要な存在だ。あと、今日だけは地下には入るなよ?うっかり、あのガキが迷い込んだら可哀想だろ?」

「穴に入って死なれたら後味悪いですもんね」


 部下達を王の間は向かわせ、アルテは地下の扉に入っていく。

 男はランタンに火を灯して周りを照らす。

 冷たい独房には赤い肉の塊になったモノ達が、転がっていた。


 元人だった肉達の中に一人、この惨状の原因である耳長の男が佇んでいた。


「さて、そろそろ腹は限界か?喜べ、今日は好きなだけ食べてきてくれ」


 男の声に応えるように耳長の男は唸り声を上げ、廃城の外にまで響いた。

 しかし、町の住民は誰一人として気づかない。



「うるさっ!」


「サフィ、大丈夫か?っ………しかし、何で………町の人たちは反応しないんだ?」



 アルテバロンの危機に町の住民は誰一人として気づかない。


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